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仔猫殿下と、はつ江ばあさん  作者: 鯨井イルカ
第二章 フカフカな日々
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ビックリな一日・その六

 魔王とプルソンは、シトリーの報告を受け、ビックリしたりキョトンとしたりしていた。


「シトリー! なんでもっと早く教えてくれなかったのだ!?」


 プルソンが耳を反らして尻尾を縦に振ると、シトリーは耳を伏せてしょんぼりとした表情を浮かべた。


「申し訳ございません、私もついさっき報告を受けたもので……」


「そうか……、それなら仕方ないのだ。しかし、困ったのだ……、彼女が来るならちゃんと準備をしないといけないのに……」


 そう呟きながら、プルソンも耳を伏せてしょんぼりとした表情を浮かべた。そんな二人を見て、魔王が訝しげに挙手をした。


「あー、プルソン、ちょっといいか?」


「うむ。なんなのだ?」


「セクメトさんって、熱砂の国の貴族のご令嬢だよな?」


「ああ、そのとおりなのだ」


「そんな重要人物が、なぜ連絡もなしに遊びに来ちゃったんだ?」


「それは……」


 プルソンが口ごもると、シトリーが尻尾の先をピコピコと動かした。


「それはですね、セクメト様はプルソン様の婚約者なのですよ」


 シトリーの答えに、魔王は胸のあたりでポンと手を打った。


「ああ! そう言えば、そうだったな!」


「はい。それで、えーと……、プルソン様はセクメト様がいらっしゃるときは、準備に準備を重ね、威厳に満ちた振る舞いをなさるのですが……」


 シトリーは、気まずそうに言葉を止めた。すると、魔王も気まずそうに頬を掻いた。


「まあ……、なんとなくだが、話は読めたぞ」


「はい。ご察しのとおり、セクメト様は『飾らないあなたが見たいのに』と、常々おっしゃっているのです。だから、今回のように不意打ちで遊びに来ちゃうことが、結構あるのですよ」


「あー……、ねー……」


 魔王とシトリーは、ため息を吐きながら、ジトっとした目をプルソンに向けた。すると、プルソンは耳を反らして、尻尾を縦に大きく振った。


「な、なんなのだその目は!?」


「い、いえ、別になんでもございません!」


「こら、プルソン。部下を怯えさせちゃダメじゃないか」


「人をジトっとした目で見る方が悪いのだ! まったくもう。しかし、本当にどうしよう……、すぐに威厳に満ちたデートプランなんて思いつかないし」


 プルソンは腕を組むと、ブツブツと独りごとを言いはじめた。その姿を見て、魔王は深くため息をついた。


「なんだよ、威厳に満ちたデートプランっていうのは……」


「そんなの、我が輩の威厳を示せるデートプランに、決まっているのだ!」


「あのなぁ……、デートっていうのは、格好つけるのも大事かもしれないが、基本的にはお互いが楽しめるようにプランニングするもんだろ? なんか、こう、水族館とか行ったりして」


「うっ……、うるさいのだ! デートをしたこともない人見知りの引きこもりに、プランニングについてとやかく言われたくないのだ!」


「な、なんだとう!? お、俺だって魔王になる前にはデートの一回くらいしたことある、かもしれないと考えたりはしなかったのか!?」


「その言い草だと、やっぱりしたことはないのではないか!」


「う、うるさいな! そう言うお前だって、デートで格好つけすぎてるから、セクメトさんがアポなしで来ちゃうんじゃないか!」


「そ、そんなことないのだ! 多分!」


 二人がわりと低次元な言い争いをしていると、シトリーがヒゲと尻尾をダラリと垂らした。


「お二人とも、ひとまず落ち着いてください。デートなんて、日々の会話で行きたい所をリサーチして、その付近にあるロマンチックな飲食店を見繕っておけば、楽しめるし適度に格好をつけられるでしょう?」


 シトリーの余裕のある言葉に、人見知りな引きこもりと、カッコつけマン(死語)は、そろってムッとした顔を向けた。当然、シトリーは耳を伏せて、ビクッと震えた。


「シトリー! そんなことがサラリとできたら、苦労はしないのだ!」


「そうだぞ、シトリー君。世の中には、どこどこに行きたい、という話題まで、会話が続かないやつだっているんだぞ」


「そうですね……、申し訳ございません……」


 理不尽に叱られながらも、シトリーは深々と頭を下げた。


 大人たちが不毛な会話を繰り広げているころ、一方のシーマ十四世殿下とはつ江ばあさんはというと……


「ほうほう、綺麗な緑色の宝石だねぇ」


「そうだろう! これはな、風に変換しやすい魔力が結晶になった、風石っていうんだ!」


「ほうほう、そうなのかい! シマちゃんはものしり、だねぇ!」


「べ、別にこのくらい、みんな知ってるし、大したことじゃないよ」


「そうかい、そうかい。でも、シマちゃんと一緒だと色んなこと教えてもらえるから、すっごく助かるだぁよ!」


「そうか! それなら、分からないことは、どんどんボクに聞いてくれ!」


「ありがとうね、シマちゃん!」


 ……宝石博物館で、わりといい感じのデートっぽいやりとりを繰り広げていた。そんな中、二人の背後から、タシタシと足音が近づいてきた。


「あの、すみません……」


 かけられた声に、二人は振り返った。そこにいたのは、スカーフを頭巾のように被りサングラスをかけ、白いワンピースを着たライオンの女性だった。


「はい、どうしましたか?」


「どうしたんだい? ライオンのお姉ちゃん」


 二人が声をそろて尋ねると、ライオンの女性は苦笑を浮かべて、折り畳みのパンフレットを差し出した。


「えーとですね、この『道を拓く宝剣』を見にいきたいのですが、迷ってしまって……」


 パンフレットを覗き込むと、シーマは尻尾の先をピコピコと動かした。


「ああ、それならボクたちも今から見にいくんで、案内しますよ」


「え、よろしいのですか?」


 ライオンの女性が問い返すと、シーマとはつ江はニッコリと笑った。


「かまわねぇだぁよ! 一緒に行こう、ライオンのお姉ちゃん!」


「連れもこう言っていますし、旅は道連れですよ。一緒に行きましょう」


 二人の言葉を受けて、ライオンの女性はニコリと微笑んだ。


「お二人とも、ありがとうございます」


「いえいえ」


「どういたしましてだぁよ!」


 そうして、三人は「道を拓く宝剣」の展示場所に向かって歩き出した。


 かくして、大人たちがワチャワチャする中、シーマ十四世殿下とはつ江ばあさんは、お約束な展開を迎えたのだった。

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