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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第5章 北都(奥州氏原氏編)
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洞穴

「numxan!」

イエフオウハウングも叫ぶ。


いつ、奴はヌムアンを捕らえたのか。

野代は、先ほどヌムアンが走り去っていった後であると思い至る。

「ヌムアン……? あの子の名前か! あの子は」

「我らの大将の、孫息子だ!」

「何!?」


半兵衛は歯ぎしりする。

卑劣にも、ツアンリエウグは人質をとっていた。

「さあどうしたんや? まさか、手出しできんとかいわへんわな?」


ツアンリエウグは不敵に笑う。

「おのれ!」

「待て、野代さん! 皆を連れて行くぞ! この洞穴では分が悪い。」

「……くっ!」


野代はイエフオウハウングを背負い、半兵衛と秀原と共に出口へと急ぐ。


「逃すかいな! 凶道王!」

命を受けし凶道王が、蠢く。


その大きな身体はこの小さき洞穴には収まりきらず、壁を岩を、削っていき前に進んで行く。


おかげで、岩壁は次々と削られ岩が落ちて来る。

「くっ!」

「まずい!」

半兵衛らが、出口へと至るが。


そこに大岩が落ち、塞がれる。

「くっ!」

「何や? 尻尾巻いて逃げるとは腰抜けが!」


そこへ凶道王が、降りる。

その背には、ヌムアンを抱えしツアンリエウグが。

「おのれ……ヌムアンを返せ!」

「ああ、返してもええ……ただ、この場であんたらが皆死んでくれたらなあ!」

「何!」

「言うたやろ? ここで和人も蝦夷もなく滅ぼすと!」


半兵衛、野代はツアンリエウグを睨む。

「何や? その目は。……言うに事欠いて、それがしを見下されんなや!」


それまでは飄々とした様であったツアンリエウグは、にわかに怒り心頭に発し。


凶道王もろとも、半兵衛らに突っ込む。

「野代さん!」

「くっ!」


半兵衛と野代は、二手に分かれ。

野代はイエフオウハウングを背負いしまま、半兵衛は秀原を連れてそれぞれ洞穴の端へと移る。


空振りとなりし凶道王は、そのまま空となりし真ん中へと突っ込む。

「ぐうう! ちょこまかと逃げるなあ!」


ツアンリエウグは悔しまぎれに、凶道王をその場にて暴れさせる。


さほど大きくはなき洞穴の中である。

凶道王は収まりこそすれど、やはりゆとりはまるでなく。


さように窮屈な所で暴れれば、洞穴の岩壁も次々と剥がれて行く。

「くっ……このままじゃ……」


半兵衛は周りを見渡す。

このままでは、洞穴が潰れここにいる皆が死ぬ。


ツアンリエウグもそれは分からぬわけではあるまいが。

我を忘れているのか、はたまた凶道王ならば押し潰されようと容易に抜け出せると踏んでいるのか、攻めの手はまるで緩めぬ。

「ははは! さあ、どうしまっか!?」

「そりゃあ……こちらも聞きたい所でね!」

「ははは! もう手詰まりかいな!」


ツアンリエウグはさらに嘲笑う。

「くっ……おのれ!」

「nwxaixomyxun hyxatu fxasyxu gyxosi nyxa! ixokihaxun!」

「!? nyxeuxa!」


またも頭に血が上りし野代を、イエフオウハウングは静まれと諭す。

「tsxaku tsxasxo-rinwxu ixufu tsxasxokxehyxun ixufu、ixori ixu tsxakximimyxu ixufu nyxaru tsxanwxu ywxo?

si nwxai yitu hyxa ixufu……txu gufw yisxosxa ifumi txaixumyxun!」

「ha……txu gyxosi nyxeuxa、iyxamyxun utxo」

「tsxamimyxu ywxo nyxa! tsxaku utxo、gxesxa tsxagxeywxu fu gxehyxun hyxatu fxasigxe hyxatu! gxesxa hyxa ywxofu txasxoixorimyxomyxun。」


イエフオウハウングが、一人で分からぬことがあれば、人に聞けばよいと更に諭すが。


野代は、まだ半兵衛を許したわけではないので難しいと言いかける。


しかし、ここでも。

イエフオウハウングは、かつてヌムアンを通じ言っただろうと諭す。

野代は今何をすべきかが分かる者だと思っていると。


それは今でも、変わらないと。

「gugxesihyxugu……fxagxe ywxou nwxu muuxe nwxu!」

「nyxaru……gyxonhyxu、ixokihaxun!」

「uximyxun!」


野代はその言葉に、私はやりますと答え、イエフオウハウングも背中を押す。


野代は再び、イエフオウハウングを背負い走り出す。

「半兵衛! 力を貸せ!」

「野代さん……そう来なきゃな!」


半兵衛も秀原を伴い、走り出す。

「ただ、大声は控えてくれ! ……洞穴が崩れちまう。」

「うむ……道理だ。」

「そうはいかんでえ!」


ツアンリエウグは半兵衛の言葉をよそに、大声で騒ぐ。

同じく、凶道王をより暴れさせる。

「くっ! あの野郎!」


辛くも半兵衛らは、洞穴の奥にて合流する。

「半兵衛! 私は何をすればよい?」

「野代さん! ……すまない、どうすればよいかは俺も……ん?」


半兵衛は答えつつ、後ろより何やら音が聞こえることに気づく。


それは、僅かな水が雫となり滴る音一一

「半兵衛?」

「……野代さん、俺が合図したら、後ろの壁を壊せ。

俺が、奴を引きつける!」

「何? 引きつけて、何とする?」


野代は首を傾げるが。

話す間にも、ツアンリエウグは大声で騒ぎ、凶道王を暴れさせる。

「いずれにしても、この洞穴は崩れる……ならその前に、賭けに打って出なけりゃだろ!」

「半兵衛!」


言うが早いか、半兵衛は凶道王に向かい突っ込む。

「何や? 妖喰い自ら来るとは……まあええ、お望み通りに!」


ツアンリエウグは凶道王を、けしかける。

凶道王はその長く爪のごとき脚を振り上げ、一つ二つ、また一つと半兵衛に振り下ろしていく。

「ちい!」


半兵衛は振り下ろされし脚を次々と躱し、凶道王に迫っていく。

「ちょこまかと……なら!」


ツアンリエウグは凶道王に、次なる命を出す。

凶道王は余りし脚を再び振り上げ、半兵衛に振り下ろす。

「えい!」

「今や!」


と、その脚は。

地に刺さらんとした時に、にわかに向きを変え。

半兵衛を斬らんと、横に振るう。

「くう!」

「半兵衛!」


半兵衛は紫丸の刃にて、その脚先を受け止めるが。

踏ん張れはせず、そのまま宙に浮く。

「ははは……ええ気味やな!」

「ああ……そうだな!」


凶道王はこの機を逃さぬとばかり、再び脚先を半兵衛へと向け次は貫かんとする。

「半兵衛!」

「トドメや!」

「えい!」


半兵衛は、凶道王の脚先をすんでの所にて躱す。

脚先は勢い余り、半兵衛の後ろの岩壁に刺さる。

すると。


岩が崩れ、外より光りが。

そこは、崩れし岩に塞がれた入り口であった。

「何や! これは」

「今だ! 野代さん!」

「何やと!」


合図を受けた野代は、あらかじめ言われし通りに。

後ろの岩壁を、壊す。


すると。

たちまち水が溢れ出て、野代、イエフオウハウング、秀原を流す。

「くう!」

「野代さん! 蝦夷の御大将を頼む! 秀原さん、行けるよな?」

「くっ……承知!」

「半兵衛殿……私を誰と思っておる!」


野代はイエフオウハウングを背負いしまま、秀原とともに水の流れを巧みに泳ぐ。


流れの先は、凶道王に当たる。

「くっ……凶道王! 持ち堪え……られんかい!」

ツアンリエウグは焦るが。


さしもの凶道王も、尚も溢れ出る水の流れには逆らえず。

地に刺さりし脚先は、そのまま浮き。


流されし勢いにて、先ほど脚先の一つが刺さりし岩に凶道王が当たり。


そのまま岩が崩れ、皆は穴の外に流される。

「ぐああ!」

「野代さん、捕まれ! 秀原さんも!」

「くっ……ああ!」

「半兵衛殿!」


そこへ半兵衛が現れ、イエフオウハウングを背負いし野代と、秀原を引き上げて流されし岩を足場とし飛び上がる。



半兵衛は、引き上げし皆を。

水の流れの来ぬ所に、置く。

「大事ないか、皆?」

「げほっ! ……当たり前であろう! ……うん、我らの長も大事はなさそうだ!」

「半兵衛殿、私もだ。」

「そっか、よかった!」


半兵衛は、ほっと胸を撫で下ろす。

「そうだ……この子も大事なさそうだ!」

「!? ヌムアン!」


半兵衛が振り返る先には。

草むらに置かれし、ヌムアンの姿が。

「大事ない、気を失っているだけさ。」

「そうか……此度ばかりは礼を言う。」


野代もヌムアンの無事を確かめ、半兵衛に礼を言う。

「yisxosxa ifumi……gugxesihyxugu!」

「長は、礼を言っておる。」

「いやいや、どういたしまして……でも、まださ。」


半兵衛は少し、遠くを見つめる。

「凶道王は流されたが……また暴れ出すだろう。外にいる蝦夷の人も、従者たちも気がかりだ。俺はいかないと!」

「待て、私も」

「野代さんは皆を頼む! ここを捨て置くわけにはいかないからな。」


半兵衛はそう言うと、また向かって行く。

「半兵衛! ……くっ」


野代は半兵衛の背中を見守りつつ、歯ぎしりする。

確かに、ここは自らが守らねば。


しかし、凶道王より妖喰いを取り戻したいこともまた確かである。


そのもどかしさを噛み締めつつ、野代はその場にとどまるより他なし。





「txu utxo……gxeiyxa! gyxosi nwxuki uxai hyxakurxaixu fu utxo!」

「bxo……gxemyxun nyxa!」

「蝦夷の言葉は分からぬが……あれがまた来たのか!」

「先ほど、何やら森の奥より水音が聞こえたが……まさか、洞穴より水が出たのか! くっ、秀原様は」

外にて待つよう命じられていた蝦夷たちと、秀原の従者たちは。


しばらく睨み合いつつ、かといって今互いの長が話し合う手前戦うこともできぬまま、もどかしき時を過ごしていたが。


にわかに再び姿を現せし凶道王に、口々に思いのままを言う。

「くっ……もうええ! あの妖喰い使いにあの蝦夷の小童は取り戻されるは、流されるわ……ううんもどかしい! こうなりゃせめてもの腹いせや、目の前の蝦夷も和人も喰らい尽くしてやる!」


ツアンリエウグは凶道王の背の上にてよろよろと立ち上がり、憎しみの目を目の前の蝦夷と秀原の従者たちに向ける。


凶道王もギチギチと、蠢く。

と、その時である。

「!? くっ、何やこの矢は!」


にわかに数多の矢が、飛んで来る。

無論、妖喰いではないため凶道王にもツアンリエウグにも痛くも痒くもないが。


その矢を放ちし主一一いや、()()を見て驚く。

「急げ、秀原様を助けよ!」

「応!」

「あれは……なるほど、遅ればせながら加勢の軍が来たか!」


ツアンリエウグは遠くを見渡す。

いや、その加勢の軍には和人ばかりではない。

「野代!」

「半兵衛様……今行きます!」

白布と刈吉も、同行していた。




「あの声は……そうか、加勢の軍が! 俺も急がないと!」

半兵衛は、足を更に速める。



「まったく、どいつもこいつもちょこまかと……まあええ。これから見したるわ! この土蜘蛛凶道王の真の力て奴をな……!」

ツアンリエウグは不敵に笑う。

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