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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第5章 北都(奥州氏原氏編)
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落所

「さあ、どうする野代さん!」

「……」

半兵衛と野代は、睨み合う。


この場は、刀こそ交えずとも戦の場である。

ここでは、引いた方の負けである。


野代はしばらく、考えあぐぬいた様であったが。

小刀を抜くと、半兵衛へと迫る。

「野代さん!」

「ならば、その妖喰いを寄越せ!」

「……そう来たか。」


半兵衛は仕方なしと言いたげに、紫丸を抜刀する。

「おや、此度は手抜きなしか!」

「ああ、怒られると思った手前な!」


野代の刃を、紫丸にて受け止めつつ半兵衛は言う。

「野代さん! 俺たちは戦っている場合じゃない! まもなく平泉から加勢の軍が来る。そんなのとまともにぶつかり合えば、数で劣る蝦夷は勝てないぞ!」

「また脅しか! ……否、たしかにそれもあり得るか。よかろう、ならばここで、その和人の長を引っ捕らえる! そうして加勢の奴らに差し出せば、奴らとて攻めては来まい!」

「野代さん!」

「kyxemu! txu gufw yisxosxa hyxotxasyxu ixe! txu hyxa ixufu yisxosxa ywxofu uxaihyxa-mikxinukxasyxufu mxofu ywxou nwxu! ixe!」


野代は半兵衛に構わず、秀原を捕らえよ、そうすれば和人たちは蝦夷を攻めあぐぬくことになるであろうと蝦夷たちに告げる。


「uximyxun!」

言葉を受けし蝦夷たちが、秀原へと迫る。


「秀原さん!」

「よそ見をしている暇はないぞ!」

「くっ! こうなるのかよ!」

「秀原様、お守りいたします!」

「うむ……頼む!」

半兵衛は野代にかからねばならず、身動きがとれぬ。


秀原の従者も数では蝦夷に劣るとはいえ、それで最初(はな)から戦を諦めるつもりもなく。


蝦夷と和人が、ぶつかり合わんとしている。

半兵衛の、恐れし通りに一一





「ixetu gxe ixe nyxa! gxesxa hyxa ixufu tsxi fxamxogyxonhyxuywxu nwxuki txasxonwxu ywxo!」

「!? nyxeuxa!」

戦うさなかの半兵衛、野代、そして全ての蝦夷たちが振り返る先には。


リエウトゥムとヌムアンに支えられ、よろけつつ歩くイエフオウハウングの姿がある。

「nyxeuxa! tsxafxoryxu ixufu myxomyxun muuxe nwxu ywxo! si gufw ixetu gyxoryxu ywxo」

「txu hyxatu tsxi tsxasigxe nwxen ixufu、tsxaku uxai uxafu si gufw ixetu gyxonhyxu ywxo nwxaixomyxun nyxa! txu ixoruu tsxi fxasunwxonrihyxaryxu hyxa ixumyxun nyxatu fxasigxe ixen fxafxoryxuhyxun kyxatu!」


寝ていなくてはいけませんと諭す蝦夷たちに、イエフオウハウングはそう思うなら戦を今すぐ止めろと諭す。


こんな戦が起きていると知りながら、のうのうと寝ていられるかと。

「yisxosxa nyxeuxa! iyxamyxun utxo iyxumitxu。si gufw tsxagyxoryxu hyxa iyxagyxehyxu!」

「え……?」


イエフオウハウングは、秀原を指差しつつ言う。

「野代さん、あの人はたしか蝦夷の大将だよな? 何と言っている?」

「……ふん、誰が」

「ixokihaxun! gxesxa fxaitxahaxakxiyisxosxaixatxakunutxakyxarusxohyxu!」

「!? nyxeuxa! txu gyxosi」

「gxe! nugxeixon ixen!」

「……uximyxun」


半兵衛がイエフオウハウングの言葉の意を聞いても、答えなかった野代だが。


他ならぬイエフオウハウングに、自らの言葉を訳せと言われ、やむなく従う。

「……和人の長よ! ここまで来てくれぬか? そう我らが長は申している。」

「……ありがとう、野代さん。」


半兵衛は礼を言う。

「……承知した。」

「秀原様!」

「……行かねば。」


秀原は従者らを連れ、行こうとするが。

「tsxon ixe! umxontufu uxai hyxa ixufu ixetu si gufw tsxi txagyxoryxu ywxo txu gufw tsxi txaixumyxun hyxa myxogxe ixe! si gufw gyxoryxu ixu utxo……ixenu iyxamyxun、ixokihaun、 yisxosxa hyxo……ixen、txu gxehayxagyxa ryxurxa txaixomyxun yisxosxa ifumi tsxi txasxo-rinwxugu gxe hyxa iyxu uxaihaxitu! ……hawxo tsxi tsxanwxu、 yisxosxa uxai hyxa?」

「なっ……?」


イエフオウハウングが秀原を制するため放ちしこの言葉は、野代も当惑させてしまう。


蝦夷たちも、大きく騒めきはじめた。

「え……? 大将は何だって?」

「うむ……『少し待たれよ! 従者の方々はこちらへ来られずにそこに止まっていただきたい。こちらへ来る者は私と野代、そして和人の長……及び、その"妖喰い"を持つ和人の若者のみにしていただきたい。……和人の方々よ、どうかな?』と。」

「何!?」

「!?」


和人方も、当惑する。

しかし、秀原は。

「よし。……行かねばな。」

「なっ……なりませぬ! 何があるか分かりませぬぞ!」

「それでも! ……私は行かねばなるまい。案ずるな。いざとなれば、半兵衛殿が守ってくださるであろう。……のう?」

「え? ……あ、ああ……」

秀原は、落ち着いている。


半兵衛は、その肝の座り様に。

またも、手の平返しと嫌味を言いたくなるが、ここで言うことではないと思い直し、言葉を飲み込む。

「分かった……野代さん、うちの大将はいいってさ。そう、そちらの大将に伝えてくれ。」

「ふん、言われずとも……nyxaru txanwxu hyxatu fxamimyxu muuxe nwxu、nyxeuxa。」

「iwxi。……uxadu、si gufw ixe。」


イエフオウハウングは、未だリエウトゥムとヌムアンに支えられながら。


秀原らを手招きする。

その顔から心を、窺い知ることはできぬ。

「よし、行こう。」

「ああ。」


秀原と半兵衛は、言われるがままにイエフオウハウングの元へ行こうとする。


イエフオウハウングの後ろに行く二人の、さらに後ろよりついていく野代は。

「(村長は何をお考えか? ……まあよい。私が隙を見て、あの妖喰いを……)」


野代は心のうちに、未だ妖喰いを奪わんとする思いを留めており。


小刀に手をかけつつ、その思いをまた噛み締める。


と、その時である。

ヌムアンが、行かんとする野代の前に立ち塞がる。

「numxan?」


野代が問うと、ヌムアンは飛び上がり彼の顔を殴る。

「fxaityxan! numxan、haxi」

「txu tsxanukxe mitu? ……hyxatu ixefxo utxo。」

「!?」


戸惑う野代に、ヌムアンは祖父・イエフオウハウングに頼まれしたことだと答える。

「"fxaiyxunuyisutxiryxu nyxa、ixokihaxun。ixennu yisxosxa gxesxofu sunwxonrihyxaryxu nyxatu fxasxosyxu ywxo? tsxaku hyxa ixufu、gxesxa tsxi fuuxagxeywxu mitu fu tsxagxehyxun ywxou nwxu hyxatu fxasigxe ixusxo、fxaiyxukxisunwxonsxakxe nyxa。txu gyxosi txu nyxatu tsuuxamirxakuixumyxun ixufu、sxan fxasxoiyxukxisxakxehyxun ywxou nwxu。" hyxatu。」


ヌムアンは更に、恐らくはこれも祖父の言葉と思しき言葉を続ける。

「私にがっかりなさった……? もう戦は任せられぬ……?

……txu itxa uxafu、nyxeuxa utxo?」

「iwxi。……ixennu txu、fxaitxahaxa uxafu。」

「haxi?」

「ixokihaxun nuyisutxiryxu ixu utxo、iyxamyxun uxafu sxanyxa fxanwxu! ixefxo utxo txaiyxumyximyxun hyxatu syxu ixusxo、iyxu fxamyximyxun gyxosi!」

「numxan!」


野代はヌムアンに、今の言葉もイエフオウハウングのものかと問うと。


ヌムアンはそれに加え、自らの言葉も入っていると答える。


祖父が野代を信じると言ったから、自らも信じていたのに。


ヌムアンは強くそう言い放ち、走り去ってしまった。

「くっ……私は、あんな幼子にまで……いや、それだけではないか。私は、刈吉や、白布まで……」


野代は事ここに至り、ようやく自らの戦が多くの人の心を痛めて来たかに思い当たったのである。


野代の中で先ほどまで燻っていた思い一一半兵衛から妖喰いを奪ってでも、蝦夷ら自ら凶道王との蹴りをつけようという思い。


そして、和人に抱く強い憎しみ。

全てさっぱりと消え去るには、あまりにも根深き思いであるが。


全てこの場で消えさらずとも、今は和人とではなく凶道王一一そして、それを蘇らせしツアンリエウグと戦わねばなるまい。


ようやく野代の頭は、冷える。



「tsxarxatxu! mixonfu tsxi fxasxosxohyxuhyxun ywxo nyxa!」

蝦夷と和人の話合の場・森の奥の洞穴にて。


痺れを切らししイエフオウハウングが、遅れてやって来し野代に怒る。

「fxasxokuywxanhyxun muuxe nwxu……nyxeuxa!」

「!? ……tsuuxayisukximinfutu ixufu nyxaru。mixonfu」

「fxarxatxu fu txasxo-rikxinwxu hyxa sxonwxu ixen! ixa nwxuki fu uxafu……kyxatxagu fxasxokuywxanhyxun muuxe nwxu!」

「……numxan tsxaixomimyxu nwxu。txu ixusxo himixo nyxaru tsxanwxu。」

「nyxeuxa……」



野代がにわかに謝ると、イエフオウハウングは驚き。

反省しているならそれでよいと返すが。


野代はさらに、遅くなりしことのみならず、先ほど勝手に和人を襲ってしまいしことをも詫びる。


「あの……お取り込みの所悪いんだが。」

「!? ……そうか、そなたらにもすまない! 先ほどのこと、浅はかであった。」

「!? 野代さん……」


素直に謝りし野代に、半兵衛は驚く。

「では、我らを……」

「……すまぬ、そこまではできぬ。」

「……さようか。」


秀原は、許してくれるかと言いかけるが。

野代の答えに、肩を落とす。


やがて、野代より秀原の言葉を聞きしイエフオウハウングが。

「yisxosxa hyxo……uxai utxo kyxautu一一ixennu tsxaku tsxanryxeugu futxan hyxa、tsxi fuuxahyxaku一一myxoixaku ixongu myxomyxun hyxa nyxan ixen、txu tsxi fxahausikxiryxorxan uxanu gufw tsxi

fxasxo-rihausikxirrinhyxun。」

「……和人の長よ、我らは凶道王の目覚め一一すなわち、そなたとあのツアンリエウグの策により村を、生業を失った。おかげで我らはこの寒い洞穴で夜を明かすより他なかったのだ。」

「……すまぬ! 謝って済むことではないと分かっているが……」


野代よりイエフオウハウングの言葉の意を聞きし秀原は、頭を下げて謝る。

「……txu gyxosi、gxesxa hyxa ixufu tsxi fxamxosunwxonrihyxaryxu hyxa ixumyxun nwxai txasxonwxu hyxatu fxasigxe。ixusxo……gxesxa hyxa ixufu kyxautu txanwxaixomyxungu myxumyxun fu ywxou、ixennu uxai mxoixerinixomyxun hyxa ixufu iyxagxehyxu ixe!」

「……しかし、今は我らが戦い合う時ではない! 凶道王を鎮めるため、共に力を合わせていただきたい!」


イエフオウハウングの言葉を、野代は力強く、和人の言葉に直す。

「うむ、ありがたきお言葉! こちらこそお願いする。」


秀原は、無論これを受け入れる。

と、その刹那である。


「危ない、みんな!」

「bxo!」

「ぐう!」

「くぬ! ……何が起きた!?」

にわかに洞穴の奥にて音がし、大きく土煙を吹き上げる。


「ははは! なるほど、しまいにはそちらに転びましたかいな……まあもっとも! 争い合ってもその隙にどちらも滅ぼし、こうして仲直りしてもこうして共にいる所を襲うだけですがな! はーっはっは!」

「なるほど……あんたか! 鬼神一派の回し者は!」

半兵衛は土煙の中の者に、叫ぶ。


その土煙の、中より。

土蜘蛛凶道王と、ツアンリエウグ一一向麿が。


「野代さん! あんたのあの妖喰いの在処、自ら来てくれたぞ!」

「何!? まさか」

「ああ……妖喰いは、あの大蜘蛛の中だ!」

野代が、驚きしことに。


妖喰いは、こともあろうに妖の中に。

「……取り戻す!」

「ほほう、何を? ……この子のことかいな?」

「!? ……ヌムアン!」

「え!?」


向麿が、今にも立ち向かわんとする半兵衛・野代の前に差し出ししは。


その腕に抱き抱えられし、ヌムアンであった。

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