大願
「ここに、和人と蝦夷……和睦を!」
「ああ……ツアンリエウグ殿。いがみ合いし我ら仇同士、これより共に歩もう。」
陣の中にて、秀原とツアンリエウグは二人のみにて語り合う。
「では……和睦の証として、件の刀を」
「待て!」
「! おやおや。」
その場に野代が。
「おやおや。これはこれは、何の御用かな?」
秀原は野代に、笑いながら言葉をかける。
しかし、野代は。
「私は和人と話すことなどもはやない! ……ツアンリエウグよ、私は和睦など結ぶなと言ったであろう!」
秀原をないがしろに、ツアンリエウグへと言葉を投げかける。
「ふふふ……nyxeuxa! turumxo yitu txu nyxatu ixoruu fu ixetu gxe ywxo iyxuhaxitu muuxe nwxu。」
ツアンリエウグは、勝手なことをされては困ると、野代の後ろの茂みへと声をかける。
茂みからは、イエフオウハウングが。
あのツアンリエウグと、野代の話の後。
中々帰ってこぬ野代の身を案じしヌムアンは、イエフオウハウングを起こし。
イエフオウハウングは、野代の縄を解いてくれたのである。
いや、イエフオウハウングのみではない。
野代の後ろには、蝦夷たちが全ていた。
「turumxo yitu txagxe ixu utxo tsxaku tsxanwxu ywxo?
ixennu yisxosxa uxai utxo umxogxosxasyxu nyxatu fxamimyxu ryxu nwxukyxaku ixon nyxa!」
イエフオウハウングは、勝手なことをしているのはお前だろうとツアンリエウグを責める。
和人と和睦など、話すら聞いたこともないと。
さすがにこれには、蝦夷たちがざわつく。
「haxi hyxatu! tsxanryxeugu、nyxeuxa utxo ixennu yisxosxa umxogxosxasyxu ixe in hyxatu txasyxu hyxa txasxonwxu mitu!」
「kyxatku uxai tsxakxisyxu mitu!」
「haxi tsxanwxu ywxou nwxu!」
蝦夷たちは口々に、ツアンリエウグを責める。
我らを騙したのか、何のつもりかと。
秀原の従者たちは蝦夷が何を話しているのか分からぬため、何が何やら分からず、戸惑いを深めていく。
しかし、その渦中にあっても。
「ごほん! ……ツアンリエウグ殿、こうあっては致し方あるまい?」
秀原は、戸惑うどころかむしろ、落ち着き払う。
ツアンリエウグはため息を大きくつき、仕方なしと言わんばかりに重い口を開く。
「仕方ないなあ……fxasxofutxan muuxe nwxu、nyxeuxa。
txu gyxosi、fxagxeywxu nwxuki utxo txagyxoryxu hyxa nyxan ixusxo、fxasxo-rigxehyxun muuxe nwxu。」
「tsxagxeywxu nwxuki……? haxi tsxakxisyxu mitu!」
ツアンリエウグは、イエフオウハウングへすべき時が来たためやむを得なかったと弁明する。
しかしイエフオウハウングにはすべき時というものが何か、全く分からぬ。
「iyxamyxun utxo himyxofu fxahaxitu fu utxo……kyxautu txanwxu muuxe nwxu! txu ywxou hyxa ixufu kyxautu
txaryxufxonhaxihaxi、gyxosi hyxa ixufu txayutifxonhaxihaxi fxaminin ixufu myxomyxun nwxu……ixen、kxau fxamininhyxun! txayutifxonhaxi!」
ツアンリエウグは、自らの目当ては凶道王であったことを告げる。
そのためには凶道王の仮の名か、真の名が要るのであるが、ようやく仮の名を知ることはできたため、こうして動き出したという。
「ha、haxi!? hamyxun txu nyxatu fu utxo……」
「いやもしや……txu ryxu nwxuki txanwxu mitu nyxa! iyxamyxun utxo、半兵衛 ixen fxagyxonhyxu ryxu nwxuki……」
「!? haxi!?」
蝦夷たちは、どうやってそんなものを知り得たか訝るが。
野代が、半兵衛と自らが戦っている時に知ったのだなと思い当たり、ますます混迷を深める。
「ふふふ……ははは野代殿よ! そなた禁じられし蝦夷の言葉を今話しおったな! どこでそれを覚えた?」
「!? ……くっ、いやこれは」
そして秀原は、野代の禁破りを見逃さず。
問いただされし野代も、自らの失態に気づくが、時すでに遅しである。
「ははは、よい! あの平泉の蝦夷村は今日で終わりである! そなたがその言葉を話しておるということは、あの村で禁じられし継承が行われていたということであろうからなあ!」
秀原は、高らかに笑う。
しかし。
「いや、そうはしなくてよいでえ……氏原殿よお!」
「何?」
「今日をもって終わりやからや……蝦夷のみならず、この金の都・奥州もなあ!」
言うが早いか、ツアンリエウグ一一否、向麿は。
手に持つ妖喰いの蕨手刀を、津軽蝦夷の村へ投げ込む。
「haxi tsxagxe!」
イエフオウハウングをはじめ、蝦夷たちは驚き、叫ぶが。
たちまち村の地に刺さりし蕨手刀は、そのまま殺気にて地割れを引き起こす。
地が震え、蝦夷のみならず秀原ら和人たちも混迷を極める。
「ぐっ! 早く秀原様を遠くへ!」
「待て! ツアンリエウグ殿、これは何とした! 私がこの奥州を治めること盤石とせんがためにお力添えして下さるのではなかったのか!」
「!? な……秀原様!」
秀原は、もはや隠し立ては無用とばかりツアンリエウグと通じていたことを明かし、従者たちをより悩乱させるが。
「ははは……先ほどは蝦夷の言葉で言うたが、始めにも言うたはずや! それがしの目当ては、凶道王! それさえ手に入れば蝦夷も和人も用済みなんや!」
「くっ、おのれ! 私を騙したのだな!」
「ははは、騙した? 嘘などついてないでえ! ……うまくできていれば、そなたにも奥州を盤石にしたゆう夢を見せようと思うてたんやがな……こうなってはしゃあないわ、すまんな!」
「おのれ……」
秀原は、向麿に掴みかからんとするが。
従者たちに止められる。
「ぐっ! 放さぬか! 私は、あやつを」
「おやめくださいませ! あの者は危のうございます!」
「……くっ……」
しかし、こうして揉めに揉めし間にも。
地の震えは、収まりを見せぬ。
「さあて……kyxautu、ukxufugxe ixe! uxadu、tsxaryxufxonhaxi iyxagxehyxu ixe!」
向麿は、どこに向かい話しているのか。
凶道王に、その真の名を教えてくれと迫る。
しかし、凶道王からの答えは。
「おやおや……できませんかい。……でもいいんや! 仮の名はもう知っとる! ならば」
「待て、諦めよ! 蝦夷の真の名は、その持ち主が自ら明かさねば力を持たぬぞ!」
いかなる手を用いても凶道王を手に入れんとする向麿に、野代は勝ち誇りしように言うが。
「ははは……確かに、全てはできへんやろな! ならば、後で力づくでも真の名を吐かせてやろうや! ……でも、今はとにかく目覚めさせることが先決なんや!」
「何! ……くっ、やめよ!」
野代は向麿に迫らんとするが。
「kyxautu……tsxaku tsxaryxufxonhaxi utxo "uwxatirxi" txanwxu yxo nyxa! uxadu……ukxufugxe ixe!」
「くっ、何!?」
向麿はもはや、遅いとばかり。
凶道王一一ティルクエフリユグの真の名を唱える。
その刹那。
たちまち村より大きな音と共に、土煙が舞い。
和睦のための陣まで、迫る。
「おのれ、ツアンリエウグめが!」
「秀原様! 一度はお逃げくださいませ! ここは危のうございます!」
「ぐっ……平泉へ戻るぞ!」
秀原は歯ぎしりをしつつも、もはやこの場で抗える術はないと悟っており。
そのまま馬に乗り、逃げる。
「ぐあ!」
「悪いな……これも、皆のためでな。」
翻って、平泉の牢にて。
「半兵衛様……ありがとうございます!」
「礼は後だ……今すぐ村に行って、その後津軽へ行こう! 早くしないと。」
半兵衛は守りの兵を力にて退け。
白布と刈吉も、牢より出し。
自らも出んとしていた。
と、その時である。
「!? ぐっ!」
「半兵衛様!」
何やら頭に、強き殺気を感じ。
半兵衛は屈み込む。
「ああ……案ずるな! ちょっと目眩が……しかし、これは。」
気配の出所は、はっきりとは分からぬが。
津軽で何か、起こっている一一
半兵衛は、そう感じた。
「hi utxo……txaixongu myxomyxun hyxa nyxan!」
「haxi ……txanwxu!」
場は再び、津軽にて。
蝦夷たちも、逃げつつ。
村が瞬く間に、土煙と化したことを嘆くが。
やがてその土煙の中より、大きな脚が。
脚は一つ、二つ……八つまで現れ。
やがて土煙の中よりその胴を、現す。
「ひ、秀原様!」
「な、何だ……あれは!」
和人方も、逃げつつ。
おそろしき物を、見ていた。
「ふふふ……土蜘蛛凶道王! ようやく現れたか、我が大願よ!」
向麿は高らかに、笑う。