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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第5章 北都(奥州氏原氏編)
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深手

「白、布ちゃ……ん、どうして……?」

半兵衛は白布から振り下ろされる小刀を素手にて受け止めつつ、問う。


目覚めるといた所は、見知らぬ家の中一一

否、ここは。


白布の家であろうか。

「止めて……くれよ。今手負いで……俺も命は惜しいし……」

半兵衛のその言葉は、まごうことなき命乞いであった。


その言葉に白布ははっとする。

と、その刹那である。

「くっ……ぐっ!」

「!?」


半兵衛は悶える。

白布が見れば、腹と背中より血が。

無論、白布が小刀にて刺した訳ではない。


先ほど妖にて腹から背にかけて貫かれし傷が、

また開いてしまったのである。


いかに傷を早く治せる半兵衛といえ、それほどの傷となればそれなりに時を要する。


「半兵衛様!」

「うぐっ……白布ちゃん……あん時は聞き忘れたけど、傷はないか?」

「えっ……?」

半兵衛はこんな時でも、白布の身を案ずる。


しかし、さすがに傷の痛みは大きく。

そのまま気を、失う。

「半兵衛様、半兵衛様!」


自らが、掴みかかったりしなければ一一

白布は自らの行いを悔いる。


と、その時。

「白布、白布!」


白布の幼馴染一一刈吉が、外より扉を叩く音がする。

「か、刈吉……!」

白布は叫ぶ。


と、半兵衛の寝ている部屋の隣に座っていた白布の祖母が立ち上がり、扉を開ける。

「ixofuyxa、gugxesihyxugu……白布、何が……!」


扉を開けてくれた白布の祖母に小声で礼を言い、

中に入りし刈吉は言葉を失う。


否、刈吉だけではない。

その後ろには同じく白布の幼馴染一一野代もおり、野代も言葉を失う。


「な、何かあったのか!」

「い、いやそのような……」

その場を凌がんとする白布だが、この有様ではとてもできそうにないことにすぐ気づき。


黙り込む。

「……その男は、先ほどの。……白布、その男に襲われたのか……!」

「ち、違う! 襲いしはむしろ私……!?」

言いかけて白布は、口をふさぐ。


野代の言葉にある、先ほどのとは。

先ほど、陸奥より白布と半兵衛を平泉のこの村まで運びし者が、野代と刈吉だったことによる。


さて野代より問われ白布は、半兵衛を庇うが。

白布は、今の言葉はそれはそれでまた新たな問いを生むと自ら気づくのであった。


「白布が……? 何故……まさか! そいつは知ってしまったのか!?」

「……」

野代は悟り、問う。

白布も図星を突かれ、言葉を失ってしまう。


と、野代が自らの腰より小刀を引き抜く。

「野代!」

「……hyxugxeryxu ixe in!」

「!! sumxasiku!」


野代がいきなり、蝦夷の言葉で話し出し。

白布も思わず、蝦夷の言葉で返してしまう。


「お前たち! 今は眠っているとはいえ何をする! 和人の前で我らの言葉を一一」

「txamyxomyun ywxo? ……txu txanwxu ywxo、txatukxi? gxesuyxa、uxai ixatxaku umimyxu hyxa nyxan ixusxo……kyxatu?」


刈吉の言葉にも野代は構わず、既に半兵衛に白布が話を聞かれているのだから今更隠すことはなかろうと、これまた蝦夷の言葉で答える。


「それは……」

「……uxai ixatxaku sxohyxu。fxasyxu ywxo? "hyxugxeryxu ixe in" hyxatu。gxesxa ixoryxunwxuki fxasxohyxu ywxou gxe fu utxo、txu txakxinwxu myxonfu txanwxu ixusxo ukxe ixufu sxomyxomyxun ywxo。」


白布のためらいに、野代はさらに続ける。

これから話すことは半兵衛に聞かれてはならないこと。


半兵衛を殺すということ。

だから、お前も蝦夷の言葉で話せと。


しかし、白布も引かぬ。

「……byxaru txanwxu! ixa nwxuki hyxa uxafu fxasyxu ywxo ni、txu ixu utxo iyxasikxon hyxa iyxagxehyxu ixu txanwxu hyxatu! ixusxo一一」

「ixa nwxuki hyxa ixufu、txu txanwxu hyxa ywxafu fxasxominin、txu gyxosi gxesxa hyxa ixufu haxi txanwxu? myxonfu umimyxu! ixusxo、txaurungu tsxi fxasxogxehyxun ywxo?」


白布は半兵衛が自らの命を救ってくれたのだから殺す訳にはいかないと返すが、野代は今や蝦夷の言葉での話を聞かれているのだからやむを得まいとさらに返す。


「txu gyxosi! tsxi fxahyxugxeryxu ixufu、 yisxosxa tsxi txahyxohaxo utxo txayunin hyxa nyxan ywxou nwxu ywxo ni!」

「txu hyxa ixufu……ixotiri txu txakxinwxu nyxaru itwxa sigxe hyxa iyxagxehyxu?」

「sumxasiku!!」

白布は尚も、半兵衛を殺せば秀原が黙っていないと返すが。


野代はもはや、白布を諭すことは諦めたのか。

ならばいい言い訳を考えておいてくれと返し、そのまま白布の腕で眠る半兵衛に詰め寄り。


そのまま殺しかねぬ、勢いである。

「txu txagxe ywxou nwxu mitu ni!」

「fxasyxu ywxo? ……hyxugxeryxu ixe in!」

「sumxasiku!」


白布は半兵衛を庇うが、野代は勢いを緩めぬ一一

「ixetu gyxonhyxu ixe ywxo nwxaixomyxun!」

「!? i、ixofuyxa!」


しかし、その行いを止めしは。

白布の、祖母であった。

「ixofuyxa、haywxa txanwxu! txu fumi utxo uxai tsi fxakxinwxu gxemyxun txanwxu……」

「txu gyxosi、fxakxorxihaxi txasikxon hyxa iyxagxehyxu。

txu ixu tsxagxeryxu fu hyxa ixufu txasxomyxomyxun!」


それでも言葉の止まぬ、野代であったが。

白布の祖母の鶴の一声にて、ようやく止む。





どのくらい、時が経ったか。

「ん……?」


半兵衛は、ゆっくりと眼を覚ます。

ここは平泉の、氏原氏屋敷一一ではなく。


先ほどに引き続き、白布の家である。

「……? 痛みが引いている……傷は治ったみたいだな。」


半兵衛は自らの腹をさすりつつ言う。

どうやら、傷が治るほどの時を経たようである一一

と、その時。再び眠る前のことを思い出す。


「そうだ……俺は白布ちゃんの話を聞いてしまって……」

と、その刹那。


襖がにわかに開き、白布が顔を出す。

「半兵衛、様……」

「……白布ちゃんか。」

「先ほどは、誠に申し訳ございませぬ! 傷は……?」

「ああ、もう大事ないよ。……それよりすまなかったな、さっきは盗み聞きなんてしちまって。」

「!? ……い、いえ……そんな……」


白布は半兵衛からの言葉に、思わず涙ぐむ。

「お、おい。俺、泣くようなこと言ったか……?」

「うう……いえ……私に恨み言の一つも言わないで下さるなど、なんとお優しい……」

「い、いやそんな……」


と、その時。

再び襖が開き、野代と刈吉が入って来る。

「野代、さあ。」

「……ふん。」


刈吉に促され野代は、半兵衛より顔を逸らし不承不承といった具合に部屋へ入る。

「野代! 客人の御前でしょう? ……申し訳ございません、半兵衛様。こちら、私の幼馴染にあたります野代、刈吉でございます。」

「刈吉です、どうぞお見知り置きを。」

「……野代だ。」


刈吉は恭しく頭を下げ、野代は未だ顔を逸らせしままである。しかし、半兵衛は。


刈吉の頬の僅かな引きつりや、目に宿る穏やかならぬ光を見逃さぬ。

「野代!」

「……ふん。」

「……申し訳ございません。」


そんな半兵衛の心の内を知ってか知らずか、刈吉は野代の非礼を詫びる。

「あ、いや……謝らなくていいよ。うん、野代さんと刈吉さんかい……さっき倒れていた時夢うつつに聞いたんだが、あんたたちも白布ちゃんと同じく蝦夷の言葉を話せるんだな?」

「……!」


半兵衛の言葉に、野代は。

素早く腰の小刀へ、手を回す。

「野代、大概になさい!」

「白布、しかし」

「ああすまない白布ちゃん、野代さんよ。……意を汲み取るに、さっき俺が襲われたのは蝦夷の言葉を聞いてしまったからか?」

「……」


白布たちは黙り込む。

しかし、否まねば肯んじたも同じことであった。

「そうか……すまない、問い詰めるような真似をして。ただ、俺はそのことであんたたちを陥れるようなことはしない。信じてくれるか?」

「!?」


白布たちは此度は、息を呑む。

「ま、誠ですか……? その、私たちが禁じられし言葉を話していること」

「ああ、言わない。……あと、この場で獲って喰おうってんじゃないんだから、そろそろ野代さんもその小刀から、手を離してくれるかい?」

「……ふん。」


野代はようやく、小刀より手を離す。

「ありがとうございます……! 命を救っていただいた上に……」

「いや、それはお互い様だろう? 傷を負って行き倒れていた俺をここまで運んで寝かせてくれたんだから。」

「はい、私と野代が半兵衛様をここまでお運びしました。」


刈吉が答える。

聞けば、白布の祖母より白布が戦場へと赴いたことを聞き。


探しに陸奥まで赴き、半兵衛を背負い運ばんとしていた白布を助け出したという。

「ついでに俺も救ってくれたと。ありがたい、刈吉さんたちよ。」


半兵衛は刈吉と野代に礼を言う。

野代は相変わらずそっぽを向きしままだが、刈吉は深く頭を下げる。


と、そこへ。

開けられしままの襖から、白布の祖母が入って来る。

「おや? あんたは……」

「こちらは私の祖母、イオフヤです。」

「……hanbwxe nyxeuxa。fxakxorxihaxi txasikxon hyxa iyxagxehyxu hyxa gugxesihyxugu。」

「え? ……お婆さんは何て?」


イオフヤの言葉を、白布は。

「私の孫を救ってくれてありがとう、半兵衛様……と、申しております。」

「そっか……いやいや、こちらこそ白布ちゃんや野代さんや刈吉さんに助けられて命拾いした。ありがとう。」


半兵衛の言葉を、白布は。

「ixamyxun uxafu fuxamyxoiryxuhaxu ixennusirufu ixen、ixokihaxun ixen、ixeuhyxufugu utxo tsxi txasikxon hyxa iyxagxehyxu、gugxesihyxu。」


蝦夷の言葉にて、イオフヤに返す。

「うん……お婆さんは、もしかして」

「はい、蝦夷の言葉しか話せませぬ。……祖母は」

「! 白布!」

「!? ixennusirufu、ixetu txusyxu!」


刈吉も、今までそっぽを向いていた野代も、白布を止めに入る。野代に至っては、思わず蝦夷の言葉が出てしまうほどである。


しかし、白布は続ける。

「祖母は! ……かつて氏原清原に滅ぼされし、津軽の蝦夷の生き残りなのです。」

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