乙女
「はあ―、やっぱ冷えて来たなあ!」
未だ暗さの残る夙(早朝)の空の下にて、半兵衛は無邪気に声を上げる。
「主人様、ならばこれを。」
半兵衛の言葉に、自らの上着を差し出さんとする義常であるが。
「ははっ! いやいいって。義常さんが困るだろ?」
半兵衛はそう、笑い返す。
都の中の市場に彼らはいた。
食い物の買い出しにと、半兵衛が水上兄弟を伴ったのである。
「ううむ、なるほど……こうして食い物は売られているのだな。」
頼庵は感慨深げに周りを見渡す。
二人にとってはこの景色は、見慣れぬものばかりである。
今水上兄弟は、布を被り顔を隠しておる。気づかれれば、騒ぎになるやもしれぬからである。
「しかし主人様……やはり我らは連れて来ぬ方がよかったのでは?」
義常が半兵衛に尋ねる。
やはり罪人である自分たちを連れ歩くということに、申し訳なさを感ずるようである。
「そんなことねえって! ほら、早く買わねえと売り切れちまうぞ!」
半兵衛は事も無げに二人の肩を叩き、促す。
やがて一行はとある少女が野菜を売る前に、立ち止まる。
「へえ……いいもんだなあ。嬢ちゃんの家で作られたのか?」
半兵衛が少女に、問う。
「え……え〜と……」
少女は恥ずかしげなる様にて、しどろもどろである。
「ええ、さようでございます! すみませぬお侍様、娘はなかなか世間様に出さぬものですから、おどおどしておりまして……」
少女の後ろより、声と共に一人の男が。
父だろうか。
「嬢ちゃんの、お父上?」
半兵衛がまたも問う。
「はい! 恐れながら。私めは都の近くの毛見郷という村にて地主をしております、伊尻と申す者。これは娘の夏と申します。……どうかこれらの野菜、お気に召すものがありましたら是非……」
顔いっぱいに笑みを浮かべ、ハキハキと話す伊尻。
なるほど確かに、地主らしい人付き合いの上手さを感ずる。
「ようし……じゃあこれと、これと……」
半兵衛は並べられし中から、いくつかを選び出し。
そのまま銭を払いて、買い取る。
「はっ! ありがたきこと! またどうぞ!」
銭を受け取りし伊尻は、元々浮かべし笑みをより強め。
そのまま娘を促し、真新しき袋に野菜を詰めさせる。
「……お侍様、お名前は?」
にわかに声がし、その方を見ると。
声の主は伊尻の娘、夏である。
「ああ、夏ちゃんか。……俺は一国半兵衛。半兵衛でいいぜ。」
半兵衛は夏に、笑いかける。
「半兵衛……!」
夏は驚きし様である。
「こ、これこの馬鹿娘! ……申し訳ございませぬお侍様……」
伊尻は夏の頭を押さえ込み、平謝りする。
「あ、まあまあ! 俺はむしろ名前聞かれて嬉しかったよ、こんな可愛い嬢ちゃんに!」
半兵衛が伊尻を宥める。
夏はその言葉に、やや頬を赤らめる。
「はっ、勿体なきお言葉! 何とお優しい……よろしければお時間のある時に一度、毛見郷までお越しください。此度のお礼をさせていただきたく!」
伊尻もすっかり、気をよくせし様である。
「あ、ああ。毛見郷な。分かった、都合つけば行くよ。」
半兵衛はにわかに誘われ戸惑うも、笑顔を返す。
「ありがたき幸せ! では、お待ちしております!」
伊尻は身体全てにて、喜びを表す。
尚も喜びを表す伊尻への挨拶もそこそこに、半兵衛らは市場を後にする。
そうして屋敷に戻る頃には、既に日は先ほどよりは高くなっておった。
が、屋敷の中に入らんとせし折。
「えいっ、や――!」
中より何やら、聞き覚えのある声が響く。
「あ、主人様! これは?」
義常が問うが、半兵衛はそれには答えず、ズカズカと屋敷へ入る。
「広人――! 人の屋敷に何勝手に入ってんだ――!」
半兵衛は声の主を、一喝する。
「おや! 来たか半兵衛、待っておったぞ!」
が、広人は事も無げに、半兵衛に返す。
「何けろっとしてんだ! 怪我ある奴はまだお寝んねしてろ!」
広人のその様が気に入らず、半兵衛は突っかかる。
「ふん、まだ分からぬか! このたわけ! 私はこの通りすっかり治しておるわい! ……痛い!」
広人は腹をどんと叩くが、すぐに痛がる。
「そら見たことか! 大人しく寝てろって言ってんだろ!」
半兵衛は鬼の首を取りしがごとく、広人に言う。
「なっ……ち、違うこれは! ちとそなたの様を痛がっただけじゃ!」
広人は半兵衛に返す。
「んだと! 悪かったなあ、あんたのその様の方がよっぽど痛いわたわけ! こちとら朝可愛い子ちゃんに会って癒された後だってのに」
「可愛い子ちゃん?それはどのような女子なのでしょうか、半兵衛様。」
「へっ?」
広人に言葉をぶつけし半兵衛に、どこかより声がする。
思わず半兵衛が、振り返れば。
「あっ……」
そこには、氏式部の姿が。
その真の姿は、言うまでもない。
「な、そなたは中宮様の……何か中宮様より御用か?」
声をかけしは、広人である。
「え、ええ……中宮様よりお祝いを預かってまいりました。
半兵衛様、少しよろしいですか?」
中宮は半兵衛に、声をかける。
「あ、ああ……」
二人は内裏でよくしていたように、空部屋にて相見える。
「……久しぶりであるな、半兵衛。」
部屋に入るなり、半兵衛に中宮は声をかける。
「ああ、そうだな。……水上の二人のこと、かたじけない。」
半兵衛は、礼を言う。
「水上のことは、私は何もしていない。ひとえに、帝のお計らいと……恐らくは半兵衛、そなたへの褒美という名の咎でもあるぞ。」
「え、何だって!」
返されし中宮の言葉に、半兵衛は驚き聞き返す。
「そなたがあまりにも水上、水上とその助命を乞うが故に、帝も難儀しておいでだったのじゃ。これまでの功があるそなたの頼み、無下にもできぬが故な。……であれば、そなた自らに後始末させようという話じゃ。」
「ああ……なるほど。」
中宮の言葉に、半兵衛はすっかり一杯食わされしといった顔である。
考えてみれば、そうであった。あれほど流罪に処さんとしていたのにいきなり、このような形で助命とは。ある言い方をすれば半兵衛もまた、流罪になったようなものである。
「さて、そんなご忠告をくれるために、わざわざ俺を?」
半兵衛はそこで中宮に向き直り、問う。
「やはり知っておるか。私が話したいことはその……私に刀を教えてほしいとのことであるが……」
「……やはり、か。」
中宮の言葉は、半兵衛の思った通りであった。
「……また、やっぱりいいとかそういうことじゃないよな?」
「い、いや違う! ……むしろ、その……やはり教えてほしいと言いたいのだが……」
「いいよ。」
「⁉︎ 」
半兵衛が確かめの言葉をかけし後、中宮が返し、それを半兵衛があっさり受け入れる。
中宮は驚く。
「な……よ、良いのか!」
心無しか、かなり嬉しげでもある。
「……但し、そんな短い間に成るもんじゃねえことは言っておく。あと、あくまで身を守るためにだけ使ってくれ。人や妖に進んで挑むには、あまりにも危ねえからな。」
半兵衛は中宮に、諭すように言う。
「半兵衛!」
中宮は半兵衛に、飛びつく。
「な……ちょ、中宮様!」
抱きつかれし半兵衛は、思わず声を上げる。
「……お后様がこんなことして、いいのかよ?」
大声を上げしことを恥じてか、やや声を潜めて半兵衛は中宮に言う。
「……か、勘違いするな! これはほんの礼の気持ちで……そ、そんなつもりではないのだからな!」
顔を赤らめつつ、中宮は腕の中の半兵衛に言う。
「……そ――かい、ならこちらも躊躇いなく。」
半兵衛は中宮を、抱きしめ返す。
「……そのようなつもりではないと言うておろう。」
「こっちだってそんなつもりじゃねえ。……どういたしましての気持ちさ。」
顔をより赤らめつつ返す中宮に、半兵衛も少しは躊躇いつつ話す。
「……しかし、何とした?」
中宮は腕の中の半兵衛に言う。
あれほど躊躇っておった刀の稽古を、半兵衛があっさりつけてくれると言いしことで、中宮はやや訝りの色を示す。
「……中宮様を危ねえ目に遭わせねえと言いつつ、俺はその契りを守れなかった。それで、せめてもの償いとさせてほしいって思ったまでさ。」
半兵衛は返す。そして中宮を抱く腕の力を強める。
「……そ、そうであったな! 全くこの男は……だが、良い。あの人魚のごとき妖に捕らわれし時にも、助けてくれしはそなたであろう。」
半兵衛のその様に戸惑いつつも、中宮は半兵衛を労う。
「……聞いたのか。」
「いや。ただ、分かる。……私たちに放たれし矢に、そなたの妖喰いの色が混ざりし故な。」
半兵衛の問いに、中宮は返す。
「……さて、先ほどの話の続きと行こうか、半兵衛。」
中宮は呟くや。次には半兵衛を抱く腕の力を強める。
「ち、中宮様?……何だよ、さっきの続きって?」
半兵衛が問う。
「可愛い子とは、どんな女だ?」
中宮は問いを、ぶつける。
「ああ、朝市で会った夏ちゃんて村娘で、こう小さくて可愛い……って、中宮様! 何その拳⁉︎ 」
半兵衛が夏を褒めるほどに、中宮は拳を振り上げ。
「ほほうそれは、……かなり楽しげであるな! !」
そのまま半兵衛に、振り下ろさんとしておる。
「ちょ、お后様が何やってんの⁉︎ 」
「后が刀をとるは良く、拳を握るは悪しきか!」
半兵衛の止めも虚しく、中宮はそのまま拳を――
「は、半兵衛! ……様。ちとよろしい……ですか⁉︎ 」
襖より頼庵の声がし、半兵衛と中宮ははっとする。
「ええ〜、中宮様の侍女殿とお会いになっているさなかすみませぬが……って、お二人とも何かありました?」
何やらおかしき様の侍女――に扮する中宮――と、半兵衛に、頼庵は尋ねるが。
「い、いや……」
二人は揃って、歯切れの悪い返ししかせぬ。
頼庵に呼ばれし二人は、場を母屋に移していた。
そこには義常と、広人の姿も。
「広人殿……すまぬ! 我らの謀叛にてそなたまで……」
「いや、もういいと言っておろう! しつこいな!」
先の謀叛にて、頼庵が広人に傷を負わせしことを平謝りするは義常である。
「そうだよ義常さん、広人もこう言っているんだし。」
半兵衛が横より口を挟む。
「な……半兵衛! そなたが言うな!」
広人はそんな半兵衛に、怒る。
「ああ、広人殿……そなたに傷を負わせしは私! どうか私を煮るなり焼くなり!」
頼庵も手をつき、広人に謝る。
「もう……よいと言っておろう!」
「そうだぜ、頼庵さん! 広人もこう……」
「いやだから半兵衛! そなたは言うなと言っておろうにこれ!」
広人はまた水上兄弟を宥め、半兵衛が口を挟むことに突っ込み。
それを中宮がクスクス笑いながら見る。
このやりとりはしばし、続いた。
「……それで、その手紙っていうのは?」
半兵衛は気をとりなおし、頼庵に問う。
「半兵衛、……様。先ほどこれが私の着物が中に忍ばされしことに気づき……まして。」
頼庵は、半兵衛への慣れぬ言葉遣いに四苦八苦しながらも、手紙を取り出し差し出す。
半兵衛が封を切り開けるや。
お助けください。
我が村は今、妖に脅かされております。
夏
「……そういえば夏ちゃん、俺を知ってたみてえだった。あの時これを……」
半兵衛は手紙より顔を上げ、皆に言う。
「しかしあの娘は、いかにして半兵衛様を?」
頼庵が問う。
「まあ我らが主人様は、都の外にても名を知られておろうなあ。」
義常が呟く。
「……しかし、誠なのだろうか?これは。」
広人が半兵衛に、問う。
「何だよ、夏ちゃん疑うってか?」
半兵衛は少し機嫌を損ねる。
「……その娘が半兵衛様に気があり、気を引きたいがために嘘をついている恐れもございますわ。」
中宮が半兵衛を睨みつつ、答える。
「……う、うん。まあ無きにしもあらずか……で、でも無下にはできないだろ⁉︎ 」
中宮の目を受け気まずい半兵衛は、その気を振り払うために大声を上げる。
「……さようですな。ここで話すのみにても埒は明きませぬ。一度毛見郷へ参りましょう。」
義常が半兵衛の、肩を持つ。
「そ、そうだよ! さすが義常さん!」
半兵衛はすっかり、気を良くする。
「まあさようですな。一度参りますか!」
頼庵も、重い腰を上げる。
「……決まり、か! よし行こうぞ!」
「あ、いや。あんたは残れ。」
「な……何故じゃ!」
立ち上がりし広人は、半兵衛に出鼻を挫かれ。
大声を上げる。
「言うておろう、もう傷は!」
「じゃあ都に残って守りに当たれ! 誰かは残らねえと。」
またも言い争いになる、半兵衛と広人である。
「ふん、半兵衛。……その娘、私も見てみたいものだ。」
その様を眺めつつ、中宮が言葉を漏らす。
その後も粘りし広人であるが、半兵衛による帝への許しを得る時には広人のみ得られず。
広人は都にて留守を預かることとなり、半兵衛と水上兄弟はその夜、毛見郷を目指す。
無論中宮は、内裏に戻るが。
「半兵衛。……くれぐれも、その娘が女狐でないと祈るが。」
中宮は帰り際に、そう呟く。
「え?化け狐?おいおい、まさか夏ちゃんを妖扱いかい?いくら中宮様でも……」
「もうよい! 半兵衛など、どこの女子とでも逢瀬を楽しめばよいのだ!」
中宮の乙女心は分からぬ、半兵衛である。
「……全く、女ってのはよくわからんな!」
水上兄弟と毛見郷へ向かう道すがら、半兵衛は声を上げる。
「まさか半兵衛様、あの侍女を?」
松明を持ちながら頼庵が笑いつつ、半兵衛に問う。
「止めぬか、頼庵! 主人様に。」
「兄者は、気にならぬか?」
「それは……少しは。」
弟を止めに入りつつ、やはりこの兄は甘い。
終いには弟に、乗せられし始末である。
「もう! 義常さんまでそっち側かよ!」
半兵衛は声を上げる。
「も、申し訳ございませぬ主人様!」
義常は頭を下げる。
「おや、もしやあれでは?」
頼庵の声に前を向けば。
夜闇に紛れておるが、ぼんやりと村が見える。
「よし、あと少しだ!」
半兵衛が前に歩み出し、その刹那。
「主人様、危ない!」
義常の声に、振り返るや。
にわかに白き漂う物が、半兵衛に迫る所であった。
「うわ!」
すんでの所で躱すが、その妖は。
身を翻し、宙にて止まる。
その様は、まるで白き布でできた竜――白溶裔である。
「あ、妖! あの手紙のこと、誠であったか!」
頼庵が声を上げる。
「……こりゃあ、止むを得んな。」
半兵衛は水上兄弟を縛りし縄を、紫丸を抜き、斬る。
「有難うございます、主人様! ……さあ、頼庵。」
「うむ、兄者。」
義常は手に妖喰いの殺気を浮かべ、たちまち妖喰いの弓・翡翠が現れる。
頼庵は松明を投げると、義常がそれを殺気の矢に刺し、そのまま弓につがえず、空に投げる。
松明は上より、闇を照らす。
「ようし、戦を始めるぞ!」
半兵衛も紫丸を構え直し、水上兄弟も戦の構えをする。
「さあて、札だな!」
動きを止めし妖は、たちまち気づき。
半兵衛らへと迫りつつある。
半兵衛は念ずる。
妖を操りし、札は――
「……無い! 内裏で出た奴と同じか!」
妖からは札の気は、感じられぬ。
「主人様、ここは私が!」
義常が前に出る。
いつのまにか矢を、弓につがえ。
と、その刹那。
にわかに妖は身を翻す。
「⁉︎ 向かって来ぬのか!」
頼庵は叫ぶ。
「……さあ、い、い子だ。来、い。」
妖の向かいし方より、声がする。
半兵衛らが見れば、そこには男がノロノロと、半兵衛らのいる方へと歩く。男は口元より手足まで、布で覆いしなりをしている。
「⁉︎ あんた、危ねえ!」
半兵衛が声を上げる。
今にも妖は、男を喰わんとしておる。
「くっ、間に合え!」
義常が矢を放つ。
矢は妖へと飛ぶ。男が喰われるより前に、届くか――
「喰、え。喰え!」
男は意に返さず、ひらりと妖を躱し、矢を素手にて受け止める。
「な、何!」
義常は叫ぶ。
矢を素手で?あり得ぬ。
よくよく見れば男は。
「な……何者だ、あんた!」
半兵衛はその様に、思わず声を上げる。
「……虻、隈。」
男――虻隈は名乗る。
「……虻隈?」
半兵衛、水上兄弟も、呆けて言う。
と、その刹那。
虻隈の後ろより妖が、再び迫る。
「……! あんた、後ろ!」
半兵衛もはたと気づき、虻隈に向かい叫ぶ。
「喰、え。喰え!」
虻隈は矢を投げ捨て、体を覆いし布のうち、右腕に掛かる布をはだけさす。
露わとなり、妖に差し出されし右腕に、半兵衛らは驚く。
「な、何だ……!」
腕の下より肉のようなものが、受け皿のごとく腕の下を包み込み、数多の牙がそこより生える。
それはあたかも、獣の下顎の如く。
妖にも変化が。妖は尚も男に迫る速さを緩めず、やがて体の下に牙が、生える。あたかも獣の、上顎の如く。
やがて妖の牙と、虻隈の右腕の牙が、噛み合い。
「……俺、は喰われし。後は……あ奴、ら!」
虻隈は目を、半兵衛らに向ける。
たちまち半兵衛らは、おかしき様を感ずる。
先ほどまで感じられぬままであった札の気が、強く感じられ。そして妖の気も、より強まりし様。
何より、これは――
「あの男からも、妖の気が!」
半兵衛は驚く。
紫丸も翡翠も、あの男を妖と見なし、より一層の殺気の光と共に呻きを、上げる。
これはあの時。内裏の中にて隼人が、鬼に作り替えられし時を思わせる。ただの人であった者が、妖に変えられし時の様である。
「……あいつ、妖になっちまったってのか!」
半兵衛が声を上げる。
水上兄弟もその言葉には驚くが、やはり同じように感じ、見ているため。
この有様は信じられぬが、誠である。
「さあ、……喰わ、せろ! お前ら、喰、わせろ!」
右腕を妖と一つにせし虻隈は、半兵衛らに向けて走り出す。
「……そらあ、こちらの言葉だぜ!」
半兵衛らも走り出す。
妖喰いと妖、二つの呻きがこだまする。