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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
最終章 京王(再びの百鬼夜行編)
190/192

合身

「くっ、半兵衛!」


 こう叫び、都へと走るさなかであるのは。


「中宮様! いづこにいらっしゃいますか?」

「木の根草の根掻き分けてでも探せえ!」

「(!? ……くっ、見つかる訳には。)」


 中宮である。

 自らを探し回る静氏一門より隠れつつの一人御幸である。


「はあ、はあ……!? そなたらは」

「せ、静氏一門か……何故未だ都の近くにいる? 福原へ中宮様をお連れしろと言われたのであろう?」


 何やら声が聞こえる。

 都より妖喰い使いらに促されて逃げし、第一陣たる頼益や四天王を始めとする軍が静氏一門と出会したのである。


「ううむ……中宮様は今、行方が知れず」

「何!? ……まったく、これであるから静氏一門は!」

「な……我らを愚弄するのか!」


 頼益らは、静氏一門と諍いを始める。


「(この隙に……一息に都に!)」


 中宮は尚息を殺しつつ、都へ駆ける。

 つい先ほどまでは、静氏一門におとなしく従い。


 福原へと向かっていたのであるが。


「(先ほどの、光の柱は何だ! 都で何が起きている……半兵衛らが、危うい!)」


 中宮は、先ほど幻明により放たれし極みの傀儡の術による殺気の柱を見て、いても立ってもいられずに都へ向かうのである。


「半兵衛……!」







「は、半兵衛!」

「あ、あの姿は……」


 その頃、都では。

 果たしてその半兵衛の、全ての妖喰いを纏いし姿に。

 刃笹麿や他の妖喰い使いらは目を丸くする。



 鬼神――一門が長・長門道虚。

 二人の翁面――道虚が長子・伊末と次子・高无。

 そして狐面の影の中宮――道虚が娘にして帝が女御・冥子。


 さらに半兵衛自らが明かしし、自らがかつての百鬼夜行が首魁・白郎に育てられし子であるということ。


 明かされし二つの秘事や長門一門の計略に翻弄されし都の守護軍であるが。


 それでも半兵衛が都を守らんがために戦うと改めて宣いしこともあり、再び戦を続ける。


 左様な中で道虚との壮絶なる斬り合いの後、半兵衛はこれに勝つ。


 だが、止めを刺す前に隼人を殺しし時について道虚に問い、返って来た答えにより。


 半兵衛は影の中宮が"中宮の影武者"、すなわち氏式部内侍であることに気づく。


 そうして大内裏にて、中宮を斬らんとする氏式部内侍――もとい、氏原随子。


 随子は異母姉・中宮が嫜子に牙を剥き。

 襲いかかるが、そうはさせじと半兵衛が、妖喰い使いらや刈吉・白布、刃笹麿が立ち塞がる。


 そうして中宮を都の外に逃しし後。

 鞍馬山より天狗を伴い帰って来た広人・夏を迎え。


 ようやく妖喰い使いは、亡き義常に代わりその娘・初姫がその穴を埋め揃う。


 今、妖喰い使いらと刈吉・白布、刃笹麿。

 更に、随子に騙されし鬼神・道虚も加わり。


 随子と都にて相見えていたが。

 にわかに都中より、色とりどりの光が溢れ。


 妖喰い使いら、刈吉・白布、刃笹麿。

 随子、道虚は動きを止められている。


 この術――極みの傀儡の術を使いし者は。


 阿江刃笹麿が祖たる、阿江幻明。

 彼は半兵衛らと同じく、白郎の子であったという。


 そして、かつての百鬼夜行も再びの百鬼夜行も自らの手により起こして来たことや、妖喰いを創るよう仕向けしも自らであったことなどを明かす。


 そうして、これまで自身が取り憑きし器であった向麿を古着のごとく捨て。


 長きに渡り、自らの子孫の血を操り生まれし子である刃笹麿の子を新たな器として求めるも拒まれ、やむを得ず新たなる器となる妖・夜行を創り出し妖喰い使いらを襲う。


 そうした中、道虚の次子たる高无は夜行に襲われかけし兄・伊末や妹・冥子を救い命を落とす。


 それにより道虚は、我が子らと長閑に暮らすという本懐を見出しつつも。


 夜行諸共幻明を葬り去るべく、割って入りし異父妹・随子と共に。


 妖喰いの力を自らをも滅ぼしかねぬほどに高め、夜行へと捨て身の攻めを仕掛けた。


 しかしそれすらもまるで通じず、幻明とその器たる夜行は未だ健在である。


 半兵衛は左様な幻明に抗するべく、妖喰いにより器が保たぬようになりつつある他の使い手に代わり。


 自らが、全ての妖喰いの力を纏う。


「その姿はまるで……かつての宵闇ではないか!」

「ああ……まあそうとも言えるかな!」


 その形は。

 三面六臂、さながら阿修羅のごとく。

 それはかつての、宵闇を思わせる。

 しかし、身体各々の色が違う。


 三面とも白色の兜を被り。

 闇色の胴や草摺。


 そして、正面の兜は狐面のごとき飾りがあり。

 左の兜は、剣を思わせる鍬形を頂く。


 右の兜は、刃白の蛟頭を思わせる飾りをつけている。


 そして、右肩より生える右腕には紫丸が、左腕には黄金丸が。


 左肩より生える左腕には弩に変じし翡翠が、右腕には蒼士の爪が。


 それぞれに持たれている。


  兜■兜◼️兜

 右腕■胴◼️左腕

 左腕■腕■右腕


  刃白■白郎■十拳剣

  紫丸■宵闇■翡翠

 黄金丸■紅蓮■蒼士


 ――極みの妖喰い、か……しかし、半兵衛よ! 左様な力を用いても、私には抗えぬぞ!


「ああ、そうかもなあ……」


 幻明は、半兵衛の妖喰い纏いし姿にも揺らがず。

 むしろ、より半兵衛を嘲笑い煽る。


「だがいい……何もしねえよりはなあ!」


 半兵衛も、幻明の煽りに揺らがず。

 纏いし全ての妖喰いより、殺気を輝かせる。


「は、半兵衛!」

「ああ……すまねえはざさん! 皆を、都の外へ導いてくれ!」

「半兵衛……」


 刃笹麿の呼びかけに、半兵衛は答える。

 刃笹麿は刃白が他の妖喰いと合わさりしことにより、今は抜け殻ともいえる刃白にかつて背負われし屋形に佇んでいた。


「半兵衛様、我らも!」

「いやいや……そんな身体で、どう戦うってのさ!」

「くっ……」


 他の妖喰い使いらは未だ身構え、頼庵は左様な彼らや自らの思いを半兵衛に伝えるが。


 半兵衛に否まれ、返す言葉もない。


「半兵衛……そなた一人で」


 ――話をしておるゆとりなどなかろう!


「おっと! ……まあ、そうだな。此度ばっかりは幻明兄者の言う通りだ!」

「くっ、半兵衛! それは私の妖喰いだぞ!」


 半兵衛に呼びかけたが遮られし広人は。

 幻明よりの攻めを、紅蓮にて受け止めし半兵衛に叫ぶ。


「くっ……半兵衛、誠にそなたは!」


 広人は手元の紅蓮を握りしめ、歯軋りする。

 ここでも、自ら一人にて全て抱え込もうと言うのか。


 許さぬ。

 先ほど、半兵衛により直に吸い上げられし式神・白郎、宵闇、刃白、十拳剣。


 そして半兵衛自らが始めより持ちし紫丸を除けば。

 他の妖喰いは、殺気のみを吸われしだけにて未だ各々の使い手の下にある。


「皆は逃げよ! 私も半兵衛と共に戦う!」

「広人……いや! 私も!」

「この初姫めも!」

「私も!」

「私たちも!!」

「私とて!」

「み、皆……」


 広人は皆に叫ぶが。

 やはり皆、まだまだ都のために戦うという志は衰えず。


 皆も叫ぶ。


「さあ……行くぞ皆!」

「応!!!!!」


 広人の再びの呼びかけに。

 刃笹麿や頼庵・初姫・夏・刈吉・白布はそれぞれの妖喰いの力を夜行へ向け、半兵衛を助けんとする。


 が。


「な……殺気が!?」

「お、叔父上……」

「な……何じゃこれは!」

「何だ……」

「し、白布!」

「刈吉。何が」

「やはり……そうであったか!」


 妖喰い使いらは、大いに戸惑う。

 彼らの手元・または身体に残りし妖喰い――の筈の武具からは。


 殺気が出ぬのである。


「言ってるだろ……全ての妖喰いを合わせたって! もうあんたらは妖喰い使いじゃねえ……ただのひ弱な人の子共さ!」

「な!?」

「……半兵衛。」


 尚も夜行の攻めに抗いつつ、半兵衛は事も無げに答える。


 そう、今や全ての妖喰いの力は、誠に半兵衛のみのもの。


 かつての使い手に残されしものは、もはやただの武具である。


「そういうことだからよ……あんたらさっさと都から逃げろや! はっきり言って……戦の妨げにしかなんないんでね!」

「半兵衛……」

「ぐっ……!」


 半兵衛は再び、他の妖喰い使いらに言う。


「ならば……止むを得ぬか! …… 結界封呪、急急如律令!」


 刃笹麿はまず、自らの周りに結界を張る。

 そうして、次に。


「結界変陣、封呪! 急急如律令!」

「な……これは!」

「お、叔父上!」

「くっ、阿江殿!」

「あ、阿江様!」

「阿江様!」


 刃笹麿は結界の形を変え。

 その結界にて都の各々の妖喰い使いらを絡め取り、自らが今いる大内裏の西に集める。


「……式神招来、急急如律令!」

「うっ! これは……私が鞍馬山に赴きし時の!」


 広人は驚く。

 刃笹麿は皆にそれぞれ一つ、折鶴の式神を渡す。


「さあ皆! ……ここは半兵衛の言う通りじゃ! 今妖喰いの力を持たぬ我らがここにいても邪魔立てするのみ! ならば……退くぞ!」

「くう……うむ!」

「阿江殿……心得た!」

「阿江様……」

「半兵衛……」

「半兵衛様……」


 この刃笹麿の言葉には、ようやく皆も納得する。

 納得はしつつも、彼らは半兵衛を名残惜しげに見る。


 終いには、半兵衛一人が戦うことを認めねばならぬのかと。


「何してる! 早く……早く行けや!」

「うむ……頼むぞ半兵衛!」


 刃笹麿はそのまま、式神に乗せし妖喰い使いらを率いて都を後にする。






 ――ふふふ……冷たいのやら優しいのやら分からぬな……義弟(おとうと)よ!


 夜行より幻明の、声が響く。


「いんや、俺は冷たい男さ!」


 半兵衛は夜行と――義兄・幻明と対峙しつつ言う。


 ――……さあて、半兵衛よ。ここは一つ……和平と行かぬか?


「……おいおい。」


 半兵衛は幻明のこの言葉に、拍子抜けする。


「……何を言うかと思えば! 何だ? 今更怖気づいたか?」


 ――ふふふふ……半兵衛よ、そなたのその性分は嫌いではないぞ!


 相変わらず臆さぬ半兵衛の有様に、幻明は大いに笑う。


 夜行よりその笑いの勢いが、風となり。

 今も対峙する半兵衛に吹き付ける。


 ――……しかし、半兵衛! 怖気づきしはそなたではないのか? だからこそ……和平でもと思ったのであるが!


「へえ……そりゃあすまねえ、お心遣い頂いたのにな。」


 半兵衛は幻明の言葉を、軽くあしらう。


「まあいいや……さあて、兄者。ようやく二人きりになった所でさ……改めて死合おうぜ!」


 半兵衛は再び、纏いし全ての妖喰いに力を籠める。

 その身より白・黄・緑・蒼の殺気が噴き出し。


 紫丸・黄金丸・翡翠・蒼士を持つそれぞれの腕もざわめく。


 ――ふふふふ……ははは! それで私に、この夜行に抗うつもりか! だが半兵衛よ……私には既に見えているのだぞ? そなたの負けがなあ!


「ああ……ま、そうだろうな。」


 半兵衛はまたも幻明の言葉に、冷ややかに返す。


 ――ならば……果たして何の意義があるのか? 決められし運命(さだめ)を知りながら、そこに行きつくことに!


 幻明の声が、またも響く。


「なあ……誠に、先って見えてて何が楽しいんだ?」


 ――ははは! ……ほう?


 半兵衛は次には、幻明に問う。


「先々のことが分からなけりゃ、そりゃあ穏やかじゃねえが……でもよ。先が見えなけりゃまだ、何かいいことはあるって信じられるんじゃねえのか?」


 ――ふうむ……なるほど、しかし義弟よ! 先とは一つではないが定められしものだ! 定められし運命を受け入れる……それは、素晴らしきことではないのか?


 半兵衛の言葉に、幻明は返す。


「そうかい……分かった! ようく分かったよ……俺とあんたとじゃ、まるで考えが違うってな!」


 半兵衛が叫ぶや。

 その身より噴き出す殺気が、更に勢いを増す。

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