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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
最終章 京王(再びの百鬼夜行編)
185/192

目当

「み、皆を掌の上で踊る傀儡に変えるため……?」


 半兵衛は幻明の言葉を、そのまま聞き返す。


 鬼神一派は、皆それぞれに付けし面を取り長門一門としての素顔を晒す。


 鬼神――一門が長・長門道虚。

 二人の翁面――道虚が長子・伊末と次子・高无。

 そして狐面の影の中宮――道虚が娘にして帝が女御・冥子。


 さらに半兵衛自らが明かしし、自らがかつての百鬼夜行が首魁・白郎に育てられし子であるということ。


 明かされし二つの秘事や長門一門の計略に翻弄されし都の守護軍であるが。


 それでも半兵衛が都を守らんがために戦うと改めて宣いしこともあり、再び戦を続ける。


 左様な中で道虚との壮絶なる斬り合いの後、半兵衛はこれに勝つ。


 だが、止めを刺す前に隼人を殺しし時について道虚に問い、返って来た答えにより。


 半兵衛は影の中宮が"中宮の影武者"、すなわち氏式部内侍であることに気づく。


 そうして大内裏にて、中宮を斬らんとする氏式部内侍――もとい、氏原随子。


 随子は異母姉・中宮が嫜子に牙を剥き。

 襲いかかるが、そうはさせじと半兵衛が、妖喰い使いらや刈吉・白布、刃笹麿が立ち塞がる。


 そうして中宮を都の外に逃しし後。

 鞍馬山より天狗を伴い帰って来た広人・夏を迎え。


 ようやく妖喰い使いは、亡き義常に代わりその娘・初姫がその穴を埋め揃う。


 今、妖喰い使いらと刈吉・白布、刃笹麿。

 更に、随子に騙されし鬼神・道虚も加わり。


 随子と都にて相見えていたが。

 にわかに都中より、色とりどりの光が溢れ。


 妖喰い使いら、刈吉・白布、刃笹麿。

 随子、道虚は動きを止められている。


 この術――極みの傀儡の術を使いし者は。


 阿江刃笹麿が祖たる、阿江幻明。

 彼は半兵衛らと同じく、白郎の子であったという。


 そして、かつての百鬼夜行も再びの百鬼夜行も自らの手により起こして来たことや、妖喰いを創るよう仕向けしも自らであったことなどを明かす。


「皆を傀儡にするって……そりゃあ、どういうことだ!」


 半兵衛は、幻明に問う。

 すると、幻明は。


 ――はははは! ……都の守護軍を見よ、義弟よ!


「何?」


 半兵衛が、振り向き見れば。

 少し離れし所に、都の守護軍第一陣が見える。


 しかし、何やらおかしな有様である。


「幻明、様……」

「我らが、主人……」

「なっ!? な、何をしているのだ隆綱殿! 頼益殿!」

「何をしている、止めよ!」


 第一陣に程近い、広人や夏、刈吉・白布が驚きしことに。


 頼益や四天王らを始めとする、都の守護軍は全て幻明に向かい平身低頭している。


 いや、守護軍ばかりではない。


「我らが、叔父上よ!」

「大いなる我らが主人よ!」

「わ、私たちをどうか! 愚かなる私たちをどうか! お導き下さい!」

「くっ、我が子らよ!」


 道虚は叫ぶ。

 長門兄弟、伊末・高无も。


 そして、今は自らを失いしはずの冥子までもが。

 守護軍と同じく、幻明に平身低頭している。


「や、止めるのです皆様!」

「そ、そうです! 彼奴はあなた方の敬うべき相手では」


 ――いいや、敬うべき相手よ! ……私は全てを操り、全てを知る者だからなあ!


「ぐうっ!」

「ぐっ!」

「くっ……うっ!」

「くうっ!」

「初姫!」

「うわああ!」

「夏殿!」

「くうう!」

「白布!」


 が、止めんとする刈吉・白布の言葉に。

 幻明は怒り、九つの妖喰いより立つ殺気の柱を更に強める。


 たちまち、それぞれの妖喰い使いらはより苦しむ。


 ――はははは! 今は、この都の守護軍だけであるが! ……今に、この日本(ひのもと)全ての者を傀儡と化す!


「な、何!?」

「くう……まさか、我らが奥州も!?」


 幻明のこの言葉に、刈吉・白布は自らの故郷を案じ始める。


「くっ……我らが祖よ! 我らを、私を苦しめては……話し合えるものも話し合えませぬが?」


 刃笹麿は左様な中にあっても、幻明に訴えかける。


 ――……おお、そうであったな我が玄孫よ。すまぬすまぬ、私とししことが。


「くっ……ぐっ……」


 幻明は玄孫・刃笹麿の言葉に。

 妖喰いより溢れし、殺気の柱を弱める。


 妖喰い使いらはそれにより、糸が切れしがごとく倒れ込む。


「……ありがとうございます、我が高祖父よ。」


 ――ふふふ……はははは! 良い子じゃ、刃笹麿! ……では、直に相見えるとしよう。大内裏の東を見よ!


「くっ……何? ……!? あれは」

「な、何だあれは!」

「あれは……」

「やはり……そこにて十拳剣をお持ちでいらっしゃったのですね。」


 大内裏の東を言われしがまま見し妖喰い使いらは、絶句する。


 そこには、他の八つと同じく。

 妖喰いより溢れし殺気が、柱となっている。


 その柱の中に、ぼんやりとではあるが人の姿が。


「まさか……そなたが、幻明だったというのですか!?」


 その人影に合点しし随子が、驚く。












































「……向麿!」

「なっ……」

「あ、あの薬売りが!?」


 随子の言葉に、他の妖喰い使いらも合点し驚く。

 殺気の中、十拳剣を持ち佇みしは。


 他ならぬ、向麿であったのだ。

 しかし、こちらも何やらおかしき有様である。


「あが……か、影のちゅ……ぐ……さ……ま……た、た、すけ……」


 向麿は、口を大きく開きしまま固まっている。

 端から見れば顎が外れているようにも見えるが、そうではない。


「あの口から伸びしは……あ、妖傀儡の札か!?」


 刃笹麿が、気付く。

 向麿の大きく開かれし口からは、いくつか肉の紐が伸び。


 それらの先は、札らしき四角のものに纏められている。


 ――この札は、私が自らの血肉より作り上げし札よ!……そして、この私がこれまで使いし器……拙き陰陽師であった男・向麿よ!


「なっ……!?」


 妖喰い使いらは、この幻明の言葉に更に驚く。

 向麿は、かつては陰陽師だったのである。


「なるほど……あなた様の血肉を……」


 刃笹麿は高祖父の言葉を、噛み締める。

 血、札。


 札――すなわち、妖傀儡の――




 ――……私はこれまでにも、様々な器を乗り換えることにより怪しまれず悠久の時を過ごした! ……道虚よ、そなたが景虚と道虚の二代を演じしように! 妖と人の相の子と人の子では、命の長さが違い過ぎる故な!


「くっ……」


 ――そうしてかつての百鬼夜行が起こる前には、母・白郎……時の帝の女御・白面前を追い出しし陰陽師!


「くっ……あれも、そなたであったのか!?」


 道虚は驚く。

 それは、自らが無限輪廻により地獄に敢えて堕ちし折。


 咎として見せられし景色。

 自らが産みの母に捨てられし時の、景色である。



「女御殿下。あなたの皇子は、東宮にはなれませぬ。」

「そ、そんな……」

「もう調べは、ついているのですよ? ……聡明なるあなたならば、この私の言葉の意が分かりますでしょう?」

「……くっ!」


 あの折、女御にこの言葉を告げし男。

 あれぞ、幻明がその時乗っ取りし陰陽師であったのである。





「重ね重ね……そなたは!」


 ――ははは……すまぬな道虚! 先に述べし通り私のかつての目当ては……母への恨みを晴らすことであった故な!


「……おのれえ!」


 道虚は歯軋りする。

 どこまでも、我が生を。

 そして我が一門を、弄んでくれる。


 ――……そうして。私は幾十年は前より! この男を器としておる!


「その男を……?」


 刃笹麿は首を傾げる。

 向麿。


 見た所、殊にこれといって良い器とも思えぬ。

 しかも、先ほどの幻明自らの言葉によれば。


 拙き陰陽師であったというではないか。

 ますます、高祖父が器にしし訳が分からぬ。


 しかし、その意を幻明は読み取りしか。


 ――ははは! 此奴はその腕の拙さ故に、陰陽師の任を解かれた! だがそれでも……陰陽師であった頃より私を崇めていたのだ! だから私は……この男を使ってやることにした!


「……なるほど。」


 刃笹麿は合点する。

 なるほど、確かに自らに心酔する者ならば操るは容易かろう。


 そうして、幻明がこれまで取り憑きし器の話を終えし所で。


「……では、我が高祖父よ。お聞きしたい。……今、あなた様がおっしゃりし通りならば、何故今あなた様は表に出て来られたのか?」


 刃笹麿は、本題を切り出す。

 すると。


 ――ふふふ……よくぞ聞いてくれた我が玄孫よ! 私が今、こうして妖喰いを揃えさせ表に出し訳は……そなたとその妻の子よ!


「!? わ、私と……上姫の子?」

「な、何!?」


 これには刃笹麿のみならず、頼庵・広人・夏も戸惑う。


「へえ……はざさん子供できたのか、おめでとう!」

「あ、ああ……かたじけない。」


 半兵衛が場違いに、明るく祝うが。

 刃笹麿はそれには突っ込まず、ただ考える。


 確かに、今上姫の腹には刃笹麿の子がいるが。

 それが、何だと言うのか?


 ――……まあ、ごく手短に話すとしよう我が玄孫よ。

 まず……そなたが私の思惑を見抜きしは、妖喰いが新たに生まれしがためと語っていたが……それのみではあるまい?


 次は幻明が、刃笹麿に問う。


「ええ……それは我が阿江家に血と共に受け継がれしこの呪詛と、妖傀儡の術との関わりに気づきしがためもありますが。」

「なっ……何!?」


 刃笹麿のこの言葉には皆驚く。

 刃笹麿は、更に続ける。



 千里眼を全て解き放てば死ぬという術――幻明により、阿江家の血そのものにかけられし術である。


 それは表向きには、後顧の憂いを断つためであった。


 その後顧の憂いとは、強き力を持ち過ぎることによる子孫らの慢心・増長である。


 しかし、その実は違う。

 が、その前に。


 まず、妖傀儡の術とは。


「妖傀儡の術とは血を操り、人や妖を操り創り変える術。そうですね?」


 ――うむ。


「なっ!?」


 皆刃笹麿の言葉には驚く。

 そう、妖傀儡の術。


 初め、刃笹麿は。

 妖を操る術という面に目をつけ、その術の本質は式神の術と睨んでいた。


 しかし、それはあの瀬戸内での海賊との戦の折。

 探らんとして大枠のみ調べ、その大枠からして式神の術とは違うと分かった。


 その本質は、血を操る術。

 まさしく、阿江家の呪詛に近しきものであった。


「ならば……あなた様はこの血の呪詛を使い、我ら阿江家を何かしらに創り変えんとしていたのではないですか?」

「なっ……!? み、自らの子孫らを作り替える!?」


 刃笹麿は更に問う。

 いや、激しく問いを、思いがけず今目の前にいる高祖父にぶつける。


 ――ははは……その通りよ、刃笹麿よ! 私はそなたの曽祖父の代、すなわち我が息子の代より血を操り。

 さらに……兄妹、または姉弟を互いに結ばせることによって、私と全く同じ血を持つ子を産み出さんとしたのだ!


「なっ……!?」

「何!?」

「……!?」


 この言葉には、刃笹麿自らも。

 更にこの言葉を聞きし皆も、大きく惑う。


「私が……血を操られ!?」


 ――その通り、我が玄孫よ! そなたは全く同じ血ではないが……今産まれし中では最も、私に近き血を持つ! そなたの姉にして妻と同じくな!


「うっ!」

「はざさん! ……くっ!」


 幻明のこの言葉が、刃笹麿に更に追い討ちをかける。

 やはり先ほどの幻明の言葉は、すなわち。


 刃笹麿が妻・上姫は彼の姉でもあるということであったか。


 刃笹麿は、姉との間に子を成したということになる。

 刃笹麿もこれには、頭を抱える。


「幻明兄者よお……じゃあ、あんた自分(てめえ)の子孫まで使って!」


 半兵衛は怒りを、露わにする。


 ――ふふふ……しかしな、我が義弟・半兵衛よ! 刃笹麿が、一度は千里眼を全て解き放ったにも関わらず生きているのは、私の血に刃笹麿の血が近いがためじゃ! 恩恵はしかと、受けておろう?


「くっ……!」


 半兵衛は幻明の言葉に、言葉を失う。

 そう、阿江の血にかけられし呪詛。


 千里眼を全て解き放てば死ぬという呪詛。

 それは必ずや死ぬ呪詛である。


 にも関わらず、刃笹麿が生きながらえしは。

 単に、刃笹麿自らの血のおかげであった。


 ――そうして私は……待ち焦がれた! 私と全く同じ血を持つ者が生まれるその時を! ……さあ時は来たぞ、我が玄孫よ! 我が大願を成就させんがためそなたが子を……我が、新たな器として差し出せ!


「くっ……あんた!」

「おのれ……おのれえ!」

「くっ……」


 これには半兵衛も、仲間の妖喰い使いも。

 道虚や随子さえも、怒りを顔に浮かべる。


 人の命を、その生を散々に弄びし挙句。

 この者は、自らの子孫までも弄ばんとしている。


「そなた……どこまでも!」


 ――はははは、異父弟よ! 異父妹よ! そなたら、私を許せぬという顔つきであるな……自らのことは棚上げしてか!


「くっ……」

「ぐっ……」


 しかし、幻明のこの言葉には道虚も随子も口を噤む。

 人の生を弄びしは、我らも同じであったかと。


 と、その刹那である。


「……我が高祖父よ。あなた様のおかげで私は、今こうして生を受けております。……我が愛しき妻も、我らが愛しき子も。……全て、あなた様のおかげでございます!」

「な……はざさん!」

「阿江殿!」


 にわかに刃笹麿が叫びし声に、半兵衛や頼庵らは驚く。


 まさか、刃笹麿は自らの子を差し出すというのか?


 ――ふふ……よくぞ分かった! 全く重ね重ね、さすがは我が玄孫よ!


「……ええ、お褒めに与り光栄でございます。高祖父よ。」


 刃笹麿は頭を下げる。


「はざさん! こいつはあんたが敬うような」

「しかし! ……申し訳ございませぬ、我らが祖よ! あなた様の行いは……断じて許されることではありませぬ!」


 ――何?


 幻明は刃笹麿の、半兵衛の言葉を遮りしこの答えに、眉を顰める。


「はざさん……」


 ――なるほど、玄孫よ。そなた……我が願いを、偉大なる祖の申し出を無碍に断るというのだな?


「はい。……その通りにございます。」


 幻明の、嫌みを帯びし言葉に。

 刃笹麿は臆することなく返す。


「私は……いえ、私たちは! この都を守る者。ですから、相手が誰であれ、この都を脅かす者は許せぬのです!」


 刃笹麿は、更に返す。

 すると。


「……よし! よく言ったはざさん!」

「うむ、阿江殿!」

「阿江殿、その通りにございます!」

「阿江殿!」

「阿江殿!」

「阿江様!」


 半兵衛・頼庵・広人・夏・刈吉・白布も。

 殺気の柱に苦しみつつ、笑みを浮かべ刃笹麿の言葉を肯んじる。


 ――……そうか。それはそれは……はははは、我が玄孫よ! よい……やはり、私が見通しし通りであったな!


「!? くっ……」


 幻明は、刃笹麿のこの言葉に。

 高笑いを返す。


 そして。


 ――よかろう……ならば妖喰い使いらよ! そなたらがどこまでやれるものか……見定めてくれる!


「……ええ、どうぞ我らが祖よ!」


 刃笹麿はまた臆することなく、返す。


 すると、幻明は。


「もが……は、はやふ……そ、それはしを……」


 ――ふふふ……ああ、よかろう! その身も……魂も! 我が馘より解き放ってやる!


「ぐう! ……ぐっ……」

「!? くっ、薬売り!」


 何と、向麿の心の臓を。

 さしたる躊躇いもなく肉紐により貫き、たちまちその身体を着古しし衣のごとく放り投げる。


「……あんた!」


 半兵衛はその所業に、ますます怒りを滾らせる。


 ――ふふふ……よいではないか! この者はそなたらを散々に痛めつけし者……私がその溜飲を下げてやったのだぞ!


「ぐっ……この!」


 半兵衛は殺気の柱より飛び出さんとする。

 しかし、やはりうまくはいかぬ。


 ――まあよいではないか……これより起こる戦の前には左様な者など些事である!


「何……!? ん! あ、あれは!」


 幻明は肉紐の先に何かを引っかけ、投げる。

 それは、掌に収まらんばかりに小さき何かの欠片。


 しかし、その闇色の輝きを見し半兵衛は素早く、合点する。


「それは……宵闇の欠片か!」


 ――ふふふ……その通りじゃ! さあ……かつて、帝の命により作られし最上の妖喰い・宵闇の欠片よ! そなたが好みし妖の血肉はここに、唸るほどある! さあさあ……喰らい尽くすがよい!


 幻明の声に、宵闇の欠片は応える。

 たちまち、闇色の殺気が激しく迸り都中を走る。


 都の守護軍や長門兄妹は、相変わらず平身低頭しているがそれらは避け。


 その碁盤の如き都の大路・小路は尽く闇色に染まって行く。


「ぐわあああ!」

「ぐううっ!」


 再びの百鬼夜行の残りはこれまた尽く、その闇色の殺気に喰らい尽くされて行く。


 いや、都ばかりではない。

 たちまち、都の外を未だ取り囲みし大章魚の足にも殺気は喰らい付き。


 そのまま足を伝い、海にある大章魚の胴にも迫って行く。


 いや、大章魚やそれに乗せられし妖ばかりではない。


「うっ、何だあれは!?」

「か、鵲丸殿あれは……?」


 大章魚らを取り囲みし海賊衆らが乗りし蛟らにも、闇色の殺気が迫って行く。


「うわああ!」

「お、親方あ!」

「くっ……皆、海に飛び込め! 鵲丸殿、妖ではない船を!」

「う、うむ! 水軍衆、船を!」

「はっ!」


 たちまち悩乱されし海賊・水軍衆らも。

 二人の棟梁により、どうにか纏められて行く。


 しかし。


「くっ、妖が喰われて行く!」

「これは……都の妖喰い使いらが勝ったというのか?」


 定陸が訝る中。

 鵲丸も首を傾げ、妖喰い使いらの勝ちではないかと考えるが。


 しかしそれにしてはやはりおかしきことであると、また訝る。






「こ、これは……?」


 再び、都にて。

 訝りしは、半兵衛ら妖喰い使いらも同じであった。


 それは大きく、そして宵闇のごとく闇色の光を纏いし者。


 腰より上は、宵闇を思わせる鎧を纏いし姿ながらも、その頭には一つの角、一つの目が。


 さらに両の腕は、左右それぞれに五十。

 合わせれば百。


 そして腰より下は、四つ足の馬の如き姿。

 単眼鬼面百臂、半人半馬。


 ――さあ、これぞ我が新たなる器! 妖も妖喰いも超越しし者……一つにして百鬼夜行に匹敵する凄まじき力、"夜行(やぎょう)"である!


 幻明は誇らしげに言う。

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