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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
最終章 京王(再びの百鬼夜行編)
184/192

九喰

 ――はははは! よくぞやってくれた……異父弟(おとうと)よ、義弟(おとうと)よ、異父妹(いもうと)よ!


「なっ……何!」

「そ、そなたは……」

「な、何奴……」

「やはり……あなたでしたか。」

「!? は、はざさん?」


 にわかに頭に響きし声に、半兵衛らは驚くが。

 刃笹麿は冷ややかに、一点を見つめる。


 そこは、刃笹麿のいる所より東。

 内裏越しの、都の北東に当たる所である。


 刃笹麿は睨んでいたのだ。

 そこには恐らく、()()()がいる。


 今十拳剣を持ち、それより伸びし光の柱の元となりし()()()が。




 鬼神一派は、皆それぞれに付けし面を取り長門一門としての素顔を晒す。


 鬼神――一門が長・長門道虚。

 二人の翁面――道虚が長子・伊末と次子・高无。

 そして狐面の影の中宮――道虚が娘にして帝が女御・冥子。


 さらに半兵衛自らが明かしし、自らがかつての百鬼夜行が首魁・白郎に育てられし子であるということ。


 明かされし二つの秘事や長門一門の計略に翻弄されし都の守護軍であるが。


 それでも半兵衛が都を守らんがために戦うと改めて宣いしこともあり、再び戦を続ける。


 左様な中で道虚との壮絶なる斬り合いの後、半兵衛はこれに勝つ。


 だが、止めを刺す前に隼人を殺しし時について道虚に問い、返って来た答えにより。


 半兵衛は影の中宮が"中宮の影武者"、すなわち氏式部内侍であることに気づく。


 そうして大内裏にて、中宮を斬らんとする氏式部内侍――もとい、氏原随子。


 随子は異母姉・中宮が嫜子に牙を剥き。

 襲いかかるが、そうはさせじと半兵衛が、妖喰い使いらや刈吉・白布、刃笹麿が立ち塞がる。


 そうして中宮を都の外に逃しし後。

 鞍馬山より天狗を伴い帰って来た広人・夏を迎え。


 ようやく妖喰い使いは、亡き義常に代わりその娘・初姫がその穴を埋め揃う。


 今、妖喰い使いらと刈吉・白布、刃笹麿。

 更に、随子に騙されし鬼神・道虚も加わり。


 随子と都にて相見えていたが。

 にわかに都中より、色とりどりの光が溢れ。


 妖喰い使いら、刈吉・白布、刃笹麿。

 随子、道虚は動きを止められている。


 左様な中にあっても。


 ――やはり……そなたならば気付いてくれると思ったぞ! 我が玄孫よ!


「何……!? や、玄孫!?」


 半兵衛のみならず、今この声が聞こえし者たちは皆驚く。


「ええ……そこにいらっしゃるのですね?」















































「我らが祖――阿江幻明(あえのげんめい)よ!」

「!? な……」


 しかし、次に刃笹麿より言われしこの言葉には。


 ――そうだ。まあ、少々遅かったが……よくぞ気付いた、我が玄孫よ!


「あ、阿江幻明!?」


 皆、腰を抜かす。

 阿江幻明。


 かつての百鬼夜行よりも、更に前にその辣腕を振るいし陰陽師である。


 刃笹麿の高祖父。

 しかし、それならば既に天寿を全うしているはず。


 何故今、ここに?

 更に訝るべきは。


「……なるほど。じゃあよ、はざさんのひいひい祖父さん! …… 異父弟(おとうと)義弟(おとうと)異父妹(いもうと)ってのは、誰のことを言ってんだよお!」


 半兵衛が尋ねる。

 尤も、敢えて聞くべきでもないとも言うべきか。


 ――ふふふ……義弟よ! 分からぬか? 私こそ、そなたらが母・白郎と阿江保真(あえのやすま)という男の間に産まれし子! 白郎が初めて産みし子、すなわち……道虚よ、半兵衛よ、随子よ。そなたらが異父兄(あに)じゃ! ……まあ、母は私と父を捨て。帝の后……ひいては皇子を産み、国母にならんというつまらぬ道を歩み始めたがなあ!


「くっ……」

「お、陰陽師の高祖父が……母上の長子だと!?」

「なっ……あなたが!?」


 幻明のこの言葉に、既に分かり切りしこととはいえ半兵衛らは顔を顰める。


 まさか。

 しかし、半兵衛はふと思い出す。


 自らが母に止めを刺す前、母が自らに言いしこと。


 ――半、兵衛……我が子らを、止めてくれ……


 あの我が子()との言葉。

 あれの意は確かに、道虚と随子のことも含んでいたが。


 あの言葉の中には、幻明も含まれていたのである。


「あんたも……母さんの子なのか!」


 ――ははは! その通りじゃ、義弟よ。……そうして私は、母の憎しみを煽りかつての百鬼夜行を起こさせた! それから、実に長き時を経て……今、再びの百鬼夜行を引き起こしたのだ!


「な!?」

「ふ、再びの百鬼夜行を……?」

「わ、私たちを……操っていたとでもいうのですか!」


 半兵衛・道虚・随子は。

 この言葉に驚く。


 ――ああ、そうじゃ。……そして、よくぞやってくれた我が兄弟らよ! そして玄孫よ妖喰い使いらよ! 九つの妖喰いが、その年の後天定位盤の並び通り都の各々に配されし時! "極みの傀儡の術"を使うことができるのだ!


「な……極みの傀儡の術!?」


 半兵衛らは首を傾げる。

 妖傀儡の術ではなく、極みの傀儡の術?


 ――覚えておろう? かつて宵闇が都に封じられし折の、この都に施されし方陣を!


「……あ!」

「え?」


 刈吉・白布を除く妖喰い使いらは、この幻明の言葉に合点する。


 そう、宵闇が九つに分かれ封じられし、あの方陣である。


 四◼️九◼️二

 三◼️五◼️七

 八◼️一◼️六


 緑◼️紫◼️黒

 青◼️黄◼️赤

 白◼️白◼️白


 陰陽道における、術式にも使われる型であった。

 上は、かつての宵闇を巡る戦に際しての並びであったが。


 今も年が明け、並びは下のようになった。


 白■白■白

 紫■黒■緑

 黄■赤■碧


 そうして、それぞれの色に合いし妖喰いがその場にいることにより、極みの傀儡の術は成せたのである。


  刃白■白郎■十拳剣

  紫丸■宵闇■翡翠

 黄金丸■紅蓮■蒼士


 しかし、訝るべきはそれのみではない。


「待て! 阿江殿。それではあの十拳剣も黄金丸も……刃白も式神・白郎も妖喰いということになってしまうが?」

「!? そ、そういえば……」


 頼庵の言葉に、皆合点する。

 そう、前に刃笹麿が言いし通りならば。


 十拳剣と黄金丸は、妖喰いとは似て非なる物のはずである。


「そうだはざさん! 俺の知る限りでは、黄金丸は妖喰いじゃない!」


 前に刃笹麿が話しし時には都を出奔したがために聞いていなかった半兵衛も異を唱える。


 ましてや、刃白も式神・白郎なども妖喰いでは――

 しかし、刃笹麿は。


「いや、あの時はそう思った。しかし……今しがたこの都の各々に配されし"妖喰い"より感じるは、やはり殺気である! 間違いない……今妖喰い使いらが! そして刈吉・白布殿らが! 鬼神が! 随子とやらが持つ物は! ……そして」


 刃笹麿は都は北東にいるであろう影を睨む。

 それは。


「……我が高祖父・幻明が持つ十拳剣は! 正しく妖喰いで間違いなかろう!」

「くっ……た、確かに……」


 刃笹麿の言いしことは、にわかには信じ難きことであるが。


 今言われし半兵衛・頼庵・初姫・広人・夏は。

 そして、刈吉・白布は。

 刃笹麿は。


 道虚は、随子は。


 各々が持ちし物の放つ、気を感じ。

 そして、先ほどまでは異なるものに感じられしその気は、紛れもなく妖喰いの殺気であると感じ取る。


 更に。


「鬼神よ! その鎧・宵闇は。一度は壊れし妖喰いは、どのようにして直したのだ!?」


 刃笹麿は、道虚に問う。

 すると。


「う、うむ……京における二度の大乱にて、侍らが纏いし鎧。あれには……向麿が何故か隠し持ちし、かつての百鬼夜行にて失われしはずの魔除けが施されていたのだ!」

「何!?」

「……やはり、大乱が終わりし後に戦場に転がるそれらの欠片を集め。宵闇を直したのであるな?」

「……うむ。」


 道虚の言葉に、刃笹麿は頭を抱える。

 そう、あの京の大乱を長門一門が引き起こしし真の訳は、宵闇を直すための材を集めるためであった。


 そして、再び幻明へ向き直る。


「……私は、今ここにある全てが妖喰いであると分かりしことにより気づいたのです。新たに妖喰いを作れる者など、あなたしかいないと言うことを。」


 刃笹麿は言う。

 今や、かつての百鬼夜行の折に都の守護軍に遍く渡されし武具に施されし最上の魔除けは残ってはおらぬ。


 最上の魔除け――すなわち妖喰いの(もとい)

 それも無き中にて新たに妖喰いを作るなど、確かに出来よう者は一人しかおるまい。


 ――ふふ……神代にて、古の妖たる八岐大蛇を葬りし折。その尾に宿されし草薙剣に当たり欠けし剣・十拳剣! 


「!? な、何の話だ?」


 にわかに幻明が始めし話は、更に半兵衛らを驚かせる。


 十拳剣――それは、幻明が今持ちし妖喰いではないか。


 ――しかし十拳剣は……その後に継ぎ合わされた! そして妖に折られし恨みによってか、宿る神力は歪み……妖を喰う剣として蘇った! それが、そなたらの持つ"妖喰い"の祖よ!


「な、何い!?」


 ――私はそこにて……この"妖喰い"が持ちし凄まじき力に目をつけた! この"妖喰い"が持ちし、妖への殺気……それは人の心と心を繋ぐことすらできる! だから私は……これを陰陽術にて模倣し、九つの妖喰いによる極みの傀儡の術を編み出したのだ!


「なっ……!?」


 幻明の言葉が響く。

 そう、妖喰い。


 後天定位盤に擬えられし、九つの妖喰い。


 紫――半兵衛の持つ太刀の妖喰い・紫丸。


 碧――夏が喰いし妖喰い・蒼士。


 赤――広人が持つ槍の妖喰い・紅蓮。


 緑――かつては水上義常・頼庵兄弟が、今は義常が娘・初姫と頼庵の姪と叔父が持つ弓の妖喰い・翡翠


 黒――道虚が持つ鎧の妖喰い・宵闇。


 黄――刈吉・白布が持つ蕨手刀の妖喰い・黄金丸。


 白――今、幻明が持つ剣の妖喰いにして全ての妖喰いの雛形たる、十握剣。


 白――刃笹麿が持つ式神の妖喰い・刃白。


 白――随子が持つ式神の妖喰い・白郎。


 これらはいずれも、幻明により生み出されし物である。


 紫丸・蒼士・紅蓮・翡翠・宵闇は偶々を装い、かつての百鬼夜行の折に。


 そして黄金丸・刃白・白郎は再びの百鬼夜行に際し、生み出されし物。


 刃白は、八岐大蛇と相対しし折。

 頼益と四天王らが、自らの魔除けの武具の力を注ぎ込みし折である。


 あの時、刃白は一度八岐大蛇にやられ。

 妖喰いとして、蘇ったのである。


 そして、半兵衛らが母・白郎は。

 半兵衛は知らぬことであるが、白郎は今際の際に気づいていた。







 白郎はあの折、身体の内より()()が湧き上がりしを感じた。


 これは、まさか。


 ――(そうか……これは全て、そなたが仕組みしことか……我が子よ!)


 白郎は悟る。

 これは、かつての百鬼夜行の折に。

 魔除けの武具の欠片を、体にねじ込まれていたことを。


 そして、それを仕組みしが自らの長子・幻明たることも。






「十拳剣や刃白や式神・白郎。そして黄金丸を妖喰いと見抜けず終いであったのは……あなた様が誤魔化しのまじないをかけていたからですね。」


 ――ふふふ……その通りだ、我が玄孫よ! ……道虚とその子らよ! そなたらは新たな妖喰いを生み出すためよくやってくれた! 我が思惑通り……異父妹・随子に操られてなあ!


「くっ……おのれえ!」

「そんな……私すらも!」


 幻明のこの言葉は、道虚と随子を慄かせる。

 全てを操っていると考えていた道虚ら長門一門。


 しかし、彼らの娘を影の中宮が影武者に仕立て上げ操りしは、真の影の中宮たる氏式部内侍――随子。


 だが、そうして全てを操っていると考えられし随子すらも。


 幻明という全てを操りし者に、操られているに過ぎなかったのである。


 ――はははは! 大儀であったことよ我が兄妹たちよ!


「くっ……ならば! 我らを妖喰いを作らせるがために操っていたならば……何故、宵闇を一度は壊させた!? それもそなたが思惑通りと申すか!」


 道虚は声を荒げる。

 しかし、幻明は。


 ――ああ、異父弟よ、まさにそれも我が思惑通り。……宵闇は思いの外、力が大きくなり過ぎてしもうてのお。力を削らねばならなかったのよ!


「くっ……我らをどこまでも!」


 幻明の小憎らしきまでの言葉に、道虚は歯軋りする。


 重ね重ね、何故気付かなかったのか。


 今にして思えば、ここにある妖喰いは。

 武具の妖喰いが七つに、式神の妖喰いが二つ。


 まさに宵闇の欠片九つの組み合わせと同じである。


 また、後天定位盤の黄と三つの白に対応する妖喰いは、宵闇を巡る戦の折にはまだなかった。


 にも関わらず、まるで後に生まれることを見越ししがごとく書かれていた。


 これも今にして思えば、疑うべきことだったのである。


「私も……そなたの傀儡であったというのですか!」


 随子も異父兄・幻明に食ってかかる。


 ――……ああ、異父妹よ! そなたが腹違いの姉・中宮を見る姿はまさに、私と相通ずるものがあると見做してのことよ! ははは、私の目はやはり必ず正しいのであったな!


「くっ……ぐっ!」


 随子は、この幻明の言葉と。

 屈辱と、更に術により苦しむ。


 自らの、異母姉への憎しみを弄ばれていたとは。

 長門一門を間抜けと罵りつつ、自らも間抜けであったとは何とも滑稽な。


 随子は自らを、恥じる。


「なるほどなあ……だけどよ、幻明兄者よお! あんただって、こんな大層なことやりながら! つまるところ、母さんに捨てられたことをまだ引きずっているだけなんじゃあねえのか!」


 しかし半兵衛は、幻明に食ってかかる。

 すると。


 ――ふふふ……その通り! 母の大願を潰し、かつての百鬼夜行を起こさせしは母への恨み故だった! だが……今となってはそれは些事であるぞ義弟よ!


「何?」

「で、では……あなたの目当ては」


 ――ふふふ……ははは!


 幻明は半兵衛と刃笹麿の問いに、笑う。


 ――元は母への仇討ち……しかし今やそれも些事となった。この世の人っ子一人残らず、我が掌で踊る傀儡にするという大願の前にはなあ!


「くっ……!?」


 この言葉に、妖喰い使いらは皆驚く。

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