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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
最終章 京王(再びの百鬼夜行編)
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九尾

「ははうえ! その後は、どうなったのですか?」


 幼き日の今上の帝は、母にせがむ。

 しかし、母・上東門院は。


「そうですね、……続きを話さねば。」

「!? は、母上……?」


 ふと外を見つめる。

 その目は、どこか物憂げである。


「……何でもございません。さあ、続きをお話しせねばなりませんね。」


 上東門院は目元を軽く拭うと、改めて幼き我が子に向き直る。


「これは……再びの百鬼夜行が始まりし後のこと」




「……都は、無事なのであろうか。」


 今上の帝は、福原の内裏より外を見る。

 暗がりの中、目を凝らしている。

 その目の先は、都のある方である。


 時は、都にて再びの百鬼夜行が行われし時。

 都に半兵衛が戻り守護軍に加わりし時。

 中宮が京の内裏に忍び込みし時に遡る。


「み、帝! 一大事でございます!」

「! どうした?」


 帝の下へやって来しは、かつての摂政・道中であった。


「と、十拳剣が……新しき剣が消えました!」

「な、何!」


 帝は道中の言葉に、耳を疑う。





「まあ、何でもよいですわ!」

「ぐうっ!」


 随子は式神・白郎の九つの尾にて、にわかに空より来たりし天狗らが放ちし火玉を悉く防ぐ。


 所は再び、都にて。


 鬼神一派は、皆それぞれに付けし面を取り長門一門としての素顔を晒す。


 鬼神――一門が長・長門道虚。

 二人の翁面――道虚が長子・伊末と次子・高无。

 そして狐面の影の中宮――道虚が娘にして帝が女御・冥子。


 さらに半兵衛自らが明かしし、自らがかつての百鬼夜行が首魁・白郎に育てられし子であるということ。


 明かされし二つの秘事や長門一門の計略に翻弄されし都の守護軍であるが。


 それでも半兵衛が都を守らんがために戦うと改めて宣いしこともあり、再び戦を続ける。


 左様な中で道虚との壮絶なる斬り合いの後、半兵衛はこれに勝つ。


 だが、止めを刺す前に隼人を殺しし時について道虚に問い、返って来た答えにより。


 半兵衛は影の中宮が"中宮の影武者"、すなわち氏式部内侍であることに気づく。


 そうして大内裏にて、中宮を斬らんとする氏式部内侍――もとい、氏原随子。


 随子は異母姉・中宮が嫜子に牙を剥き。

 襲いかかるが、そうはさせじと半兵衛が、妖喰い使いらや刈吉・白布、刃笹麿が立ち塞がる。


 そして。


「まだまだ、撃ち続けよ!」

「応!」


 天狗らは尚も負けじと、火玉を放ち続ける。

 半兵衛らが先ほどは驚きしことに、天狗らは誠であれば不倶戴天の敵たる妖喰い使い――もとい、折鶴形の式神に乗りし広人と夏を伴い、今こうして妖喰い使いらに力を貸してくれていた。


「ふん、通じぬと申しているでしょうに!」

「ぐっ!」


 随子は尚も、烏天狗らの火玉を白郎の尾にて防ぎ続ける。


「皆すまぬ! 遅くなった!」

「ああ……遅えぞ!」

「いや半兵衛、そなたが言えた義理か!」

「あ、すまねえ……」


 刃白に背負われし屋形に、皆に謝りつつ乗り込みし広人・夏。


 半兵衛は彼らに軽口を叩きつつ刃笹麿に窘められ肩をすくめる。


「しかし広人……よくやった!」

「あ、ああ……いや、それほどでは」

「夏殿……よくぞ戻った!」

「ああ……すまぬ、皆。」


 刃白の中にて、広人と夏は皆より歓待を受ける。

 今ここに、亡き義常を除く妖喰い使いらと。


 刈吉・白布ら、刃笹麿と。

 都を守る要が、勢揃いする。


「ぐああ!」

「! 天狗ら!」


 しかし、やはり睦み合う暇はなしとばかり。

 随子は白郎の尾にて、天狗らをねじ伏せる。


「なあ広人、夏ちゃん! あの天狗たちはどういう風の吹き回しで俺たちに与してくれてんだい?」

「まあそれは……話せば長くなるので今は置いておこう。なあ、夏殿?」

「うむ、すまぬな半兵衛。」

「そうかい……」


 半兵衛の問いに、広人と夏は答えられぬ旨を伝える。


「そなたこそ、半兵衛。……そなたが戻りしばかりの時は聞けなかったが、都の守りを放り出してどこへ行っていた? そして、あの中宮様に似し女は何者なのだ?」


 次には広人が問う。


「ああ……まあそれについては。話せば長くなるんだが。……少なくとも、あの人は俺たち――ひいては、都の仇って所かな。」

「……なるほど。」

「……なるほど。」


 半兵衛は躊躇いつつ、随子についてを簡潔にではあるが伝える。


 広人と夏は頷く。

 よく分からぬが、ここは納得するより他ない。


 そうして刃白に乗る皆が、目の前を睨む。


「……随子。」


 半兵衛は、義妹に呼びかける。


「……義兄上。そして、妖喰い使いらよ。よくぞ抗いましたね……しかし、それもここまで!」


 随子はちょうど天狗らをねじ伏せ終え、義兄らに呼びかける。


「ああ……随子! お前をそんな風に変えちまったのは俺のせいだ! ここは……せめて償う!」


 半兵衛は構える。

 右手に紫丸を、左手に十拳剣を。


「随子とやら! 我らも鬼神一派――長門一門もも欺き通ししその腕、見事であった! だが……そなたにこの都は渡さぬ!」

「はっ、叔父上!」

「はっ、頼庵様!」

「頼庵様!」


 刃白より頼庵が呼びかけるや、初姫、白布、刈吉も刃白のそれぞれの持ち場にて構える。


「さあて……夏殿、我らも!」

「ああ、広人! ……一度は出家しし身にして、及ばぬ身ながらも私は! この都を守るため今一度加勢させていただく!」

「応!」


 広人・夏も高らかに言う。


「ふ……はははは! 改めて自ら対峙すれば……義兄上、妖喰い使いらとはどこまでも、忌々しき者たちですわね!」


 随子がそれに対し笑うと共に、白郎の九尾を大きく広げる。


「くっ……ああ、お褒めに与り光栄だな皆!」

「応!!」


 随子の圧により刃白に乗りし妖喰い使いや刈吉・白布らはややたじろぎつつも、威勢よく声を返す。


「私も、妖喰い使いではない身ではあるが! かつての百鬼夜行にて妖喰いの元となりし陰陽術にて! 妖喰い使いらや刈吉殿、白布殿を守ることはできる!」

「応!」

「ああ……はざさん、頼もしいぜ!」


 刃白が背負いし屋形の真ん中に鎮座しし刃笹麿も、威勢よく叫ぶ。


「はあっ!」

「!? くっ……あなたは。」


 その刹那。

 にわかに随子に、空より斬りかかりし者が。


 随子は驚きつつ、白郎の尾の一つにて防ぐ。

 その者は。


「……兄者、かい。」

「おや……異父兄上(あにうえ)。」


 宵闇の鎧を纏いし者。

 鬼神・長門道虚である。


「なっ……う、右大臣殿が宵闇の鎧を!?」

「よ、宵闇は私たちが壊したはずでは……」

「ああ……そっか。」


 訳を知らぬ広人と夏に、半兵衛は鬼神一派の正体や(これは広人は知っているが)宵闇がいつの間にか直されしことを聞かせる。


 その間。


「ふうむ……認めよう、我が異父妹(いもうと)よ! 我らには、いや私には驕りがあった! 母上が今更私を許すはずなどないにも関わらず……私が分不相応なことをしたがために! そなたにつけ込まれた!」

「……ほう。」


 道虚は随子を異父妹と認め。

 自らの非を恥じる。


「であるが……もはやこれより先! 我が一門に手出しはさせぬ! 私の命はくれてやろう、だが……せめて、共に地獄に堕ちようぞ!」

「……ふふふ。」


 道虚の言葉に、随子は口元に手を当て笑う。


「ああ、俺も! さっきも言ったが……俺の命はくれてやっていい! だが……もう都を、人々を傷つけるな!」


 広人・夏に訳を話し終えし半兵衛も、随子に訴える。


「ほほほ……はははは! ああ、全く……つくづく兄弟とは因果な者ですわね。……兄上方! 今更御自らの尻拭いができるなどと、誠にお思いですか?」


 随子は、兄らの言葉を笑い飛ばす。

 しかし声は笑いつつも。


 目には怒りの光が宿り、さらに頬も少し引きつる。


「尻拭いなどとは思わぬ! これはただ……私がせめて満たされたきが故よ!」

「ああそうだな……俺もつまるところ、自らが納得したいだけだ! 随子、お前を俺が止める! それがせめてものやり方だ!」

「……ふん。」


 兄たちより返りし言葉に、次には随子は。

 呆れ混じりに、ため息を漏らす。


「……もはや言葉は要りませぬ! ならば兄上方よ、妖喰い使いらよ! せめて"死合い"ましょう! 同じ母から産まれた、または育てられたというだけの我ら兄妹が分かり合えるとすれば……もはやそれしかありませぬ!」

「……応!」

「応!」


 随子は高らかに言う。

 もはや笑ってはおらず、ただただ苛立ちとも呆れとも、或いは悲しみとも取れる顔になっている。


「さあ皆も! ……共に死合ってくれるよな!」

「応!!!!!!」

「よし……行くぞ!」


 半兵衛の呼びかけに、妖喰い使いらや刈吉・白布。

 さらに刃笹麿が応える。


 たちまち刃白の背に、色とりどりの殺気が輝く。

 尾からは蒼き殺気、屋形の屋根からは白き殺気、両の舷からは緑の殺気、首からは黄の光、そして足からは蒼き殺気が。


「……うおおお!」


 道虚も力を放つ。

 宵闇より闇色の殺気が長く伸び、それが天を衝く。


「ふん……小癪な!」


 随子は再び、牙を剥く。

 たちまち広げし白郎の九尾を、目の前の仇へと差し向ける。


「くっ、隆綱様! このままでは埒が明きませぬ!」

「くっ……分かっておる!」


 都の南・守護軍の第一陣では。

 大将たる泉頼益が家臣たる四天王が一人・渡部隆綱を筆頭に引き続き、再びの百鬼夜行に当たるが。


 妖は減らず、どころか先ほどよりも更に、勢いを増しているようにすら見える。


「隆綱あ!」

「! 頼益様!」


 その時後ろより大将たる頼益直々に、馬に乗り兵を率いて助けに来る。

 しかし、それでもやはり心許ない。


「頼益様、妖喰い使いらは」

「隆綱! どうやら静氏一門は……福原へ逃げたようじゃ!」

「!? な、何と!」


 しかし隆綱は、頼益のこの言葉に驚く。

 まさか。

 いや。


「ううむ……まあ、彼奴らならばやりかねませぬな。」


 目の前に迫る妖に斬りつけつつ、隆綱は頼益に叫ぶ。

 隆綱もどうやら、静氏一門への見方は主人たる頼益と同じくする所があったようである。


「ああ……しかし、元より彼奴らなど腰抜けじゃ! ならば我らで!」

「はい!」


 頼益は事も無げに言いつつ、隆綱と同じく妖を斬り伏せる。


 と、その刹那。


「そなたらのみで……誠にできると思うてか!」

「くっ! なっ!?」


 空よりにわかに、鳥のごとき妖が降り。

 守護軍らの前に立つ。


「そなたら……長門の一門かあ!」


 隆綱はその妖の背に乗りし者らを見て、いきり立つ。

 それは道虚の子・伊末、高无、そして。


 何故か高无に抱き抱えられし、女御・冥子が。

 此奴らはこれまで妖を都に手引きしし者たち。


 おのれ。

 隆綱が、彼らに向かわんとししその時であった。


「ぐああ!」

「あ、兄上!」

「ああ……やれ、そこの鬼よ!」

「はあ!」

「ぐっ!」

「!? なっ……」


 にわかに長門兄妹の後ろより襲いかかりし化け猫を、伊末が近くの鬼に命じ討たせる。


 これには隆綱や頼益、その他守護軍の第一陣にいる兵らは驚く。


「さあて……癪ではあるが、ここにて我らも妖を相手する!」

「はっ、兄上!」


 長門兄弟は高らかに、叫ぶ。




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