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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
最終章 京王(再びの百鬼夜行編)
171/192

帰都

「半兵衛様!」

「半兵衛小父様!」

「半兵衛!」

「半兵衛様!」

「半兵衛様!」

「半兵衛!」

「半兵衛!」


 にわかに現れし、妖喰い使いらの主だった力・一国半兵衛。


 空より、都の守護軍の第二陣の中に降り立つ。


 その有様には仲間たる頼庵・初姫・広人・白布・刈吉・刃笹麿のみならず。


 清栄も驚く。


 母・白郎との因縁を決するべく都を出奔していた彼であったが、今こうして戻って来ていた。


 時同じくして鞍馬山にて。


 自らの妖術に誇りを持つが故、鬼神一派に組みすることを拒んで来し天狗らは。


 予め施されし妖傀儡の術により、心変わりしし首魁たる大天狗の命により今鞍馬山より動かんとしていた。


 しかし夏に邪魔立てされ、今足止めを食らっている。


 そして、前に鬼神が宣いし通り都の北――大内裏の方より再びの百鬼夜行は攻め入らず。


 自らの言葉を違える形にて都の南――羅城門の方より攻め入る。


 それにより誠であれば第三陣となる筈であった泉頼益率いる四天王らを初めとする軍勢が第一陣として当たった。


 しかし再びの百鬼夜行を都の近くまで運び込みし大章魚の足が飛び出し都の守護軍を襲わんとする。


 そしてその時。

 半兵衛が現れたのである。


「すまねえな、皆! ちいと野暮用――いや、俺にとっちゃあ外せねえ用なんだが――。いずれにせよそれで任をほっぽり出しちまった。」


 半兵衛は現れるなり再びの百鬼夜行の最前と大章魚の足を攻め、止める。


「まったくじゃ……どこを!」

「半兵衛様……よくぞ!」

「半兵衛様!」

「半兵衛様!」


 頼庵を始め妖喰い使いら、そして白布・刈吉らは半兵衛を迎える。


 都が危うくなると知りつつも、出奔しし半兵衛は。

 かつて救えずじまいであった村へ向かい、次こそはかつて討てなかった亡き友、春吉・吉人の仇を討つことを決めていた。


 そうして、母と対峙し。

 一度は敗れつつも、再び母とぶつかり合いし半兵衛は母との因縁を決する。


 そして今、ここに至る。


「あ、あの……半兵衛様!」

「ん? ああ、白布ちゃんも! 今帰ったぜ!」

「あ、はい……お、お帰りなさいませ……」


 白布は逸る気を抑える。

 半兵衛を呼びに行きし――白布は知らぬが、中宮の化けし――氏式部はどこにと聞きたき気があるが。


 今は左様な場でもないと思い口を噤む。


「さあて……いつまでも睦み合っている場合じゃなさそうだな。」


 半兵衛は周りを見渡す。


 先ほど半兵衛が足止めしし再びの百鬼夜行も、大章魚の足も。


 新しきものが次々と、都の近くに向かって来ている。


「ええ、半兵衛様! 我らは真っ先に前に出るべきであったにも関わらず……静氏の方々が、太政大臣様が第一陣を引き受けて下さったのです……」

「……へえ。ただ、見た所、静氏一門は最も後ろにいるみてえなんだが。」

「は、それは……」


 頼庵は鬼神が宣いし通りに都の北を第一陣として待ち構えていたが、再びの百鬼夜行がその言葉を違える形にて都の南より攻めて来しことを話す。


「なるほどな……(まあ、あの清栄さんが自ら、最も前に立つなんざ考えづらいがな……)」


 半兵衛はその話を聞きつつ、頼益と同じことを考えていた。


 私と私の一門()()のため、この京を守ってほしい――


 もはや天下、すなわちこの京は静氏一門の物であるから、静氏一門のためだけにこの京を守ることはよかろうという心を持ちし男・清栄に率いられし一門である。


 元より静氏一門が最前に立ち都を守るなどと、眉唾より他の何物でもないと。


「なら、遅くなって申し訳ねえついでに! ここは都を守り切らねえとなあ!」

「応!!」


 半兵衛の言葉に、妖喰い使いらや白布・刈吉・刃笹麿は叫ぶ。


 と、その時である。


「一国、半兵衛え!」

「おう?」


 半兵衛は響きし声に、目を凝らす。

 再びの百鬼夜行の遥か後方に、二人の翁面と狐面の影の中宮の姿が見える。



「今更、のこのこと! そなたが来ぬ間に今の仲間のみならず、昔の仲間すら危うき目に遭っているというのに!」

「あ?」

「昔の仲間……まさか!?」


 翁面の一人・伊末の言葉に。

 半兵衛は今ひとつ解せぬ有様であるが、広人ははたと気づく。


「昔の仲間……夏殿のことか!」

「何!?」

「ふふふ……その通り。」


 広人の問いかけに、伊末は笑い答える。


「あの娘は生意気にも、鞍馬山より我らに組みせんとする天狗らを一人で足止めしている! まあ、いつまで保つかは分からぬがな……いずれにせよこの戦は、我らの勝ち戦と元より決まっておる! 大人しくしし方が身のためであるぞ?」


 伊末は尚も、続けて勝ち誇りしように言う。


「何だと……? 夏殿が左様なことでやられるなどと!」

「ははは! かつての仲間が気がかりか、仲間思いなことよ! ……しかしよいのか? 今のそなたらに、そんなゆとりはあるのか!」


 伊末が尚も、叫ぶ。

 彼に乗じるが如く、大章魚の足は大きくうねり。


 再びの百鬼夜行が都に向かう勢いは、更に激しくなる。


「くっ……!」

「皆、刃白に乗り込め!」

「応!!」

「はい!」

「はい!」


 半兵衛の命に頼庵・初姫・広人・白布・刈吉が応じる。


「よし……広人! あんたは、鞍馬山にこっから飛んで行けや!」

「うむ! ……ええっ!?」


 半兵衛のこの言葉に、一度はうなずきかけし広人は驚く。


「だってよ……夏ちゃん助けに行きてえって顔してるぜ! なあ、皆?」

「なっ……!?」


 半兵衛の言葉に、広人は周りの妖喰い使いらを見渡す。


 見れば頼庵も初姫も、刈吉・白布も。

 刃笹麿も、大きく頷いている。


「広人、そなたの考えは皆知っておる。惚れし女子を助けたいなど、中々に男らしいと思うが。」

「皆……」


 広人は皆に礼を言いたき気持ちと恥ずかしき気持ちを抱える。


 まさか、皆に知られていたとは。

 しかし。


「し、しかし……行ってよいのか! 今しがたあの翁面が言いしように、妖喰いを欠いている場合ではないようであるし……そもそも、どう行けばよいのだ!」


 広人は声を上げる。

 見れば、都には今百鬼夜行が迫っている。


 かような時に鞍馬山に行けるのか。

 いやそもそも、今から鞍馬山に向かい間に合うのか。


 しかし、広人の左様な懸念も。


「おいおい、広人よお! あんた人の話聞いてなかったろ? 言ったじゃねえか、"鞍馬山にこっから飛んで行けや"ってな!」

「な……と、飛んで行く!?」


 半兵衛に事も無げに返され、広人はますます混迷を深める。


「なあはざさん! そんぐらいできるよな?」

「ふう……まったく、こうも当てにされてばかりとは」


 半兵衛の言葉に、刃笹麿は苦々しき顔をする。


「ご不満かい?」

「……いや、まあそうでもない。」


 しかし刃笹麿は、懐に手を入れる。

 取り出ししは。


「広人、この式神を使え!」

「うわっ……お、折り鶴か!」


 刃笹麿が懐より取り出しし式神は、刃白の首元にある丸太の上にて大きな折り鶴となる。


「こ、これに乗るのか!?」

「当たりめえよ! 他にどうするってんだい、え!」

「あ、いや……」


 広人は躊躇いつつ折り鶴に乗る。

 しかし。


「半兵衛様! 再びの百鬼夜行の動きが!」

「おうや……こりゃあ、来たねえ。」


 先ほどより迫りし再びの百鬼夜行は、再び都の第一陣に迫る勢いである。


「さあてそれじゃあ……刃白から攻めつつ、広人を鞍馬山に飛ばすとしようぜえ皆!」

「応!!」

「いや、それでよいのか……」


 半兵衛の言葉に、刃白に乗る皆が応じ。

 広人は首を傾げている。


 誠に、都がかような中。

 自らは鞍馬山に行かせてもらっていいのであろか? 


 しかし、左様な広人の心持ちを知ってか知らずか。


「もう、呆けている暇はないだろ!? なら、さあ早く行けや!」

「……承知した。」


 広人は半兵衛のその言葉に、腹を括る。


「……行くぜ、皆!」

「応!」


 刃白のそれぞれの持ち場に、それぞれが収まる。

 左の舷・弩には初姫。

 右の舷・弩には頼庵。

 今広人を乗せし式神のいる刃白が首元の丸太には白布。

 尾には半兵衛。

 そして屋形の天井に黄金丸を嵌めし刈吉。


「よし、支度は上々だな……はざさん! 鞍馬山は」

「案ずるな、私が刃白を動かし導く! 鞍馬山は都が北じゃ!」

「……よし! 皆!」

「応!!」


 もはや幾度目か分からぬが。

 半兵衛の呼びかけに、またも皆が答える。


 まずは。


「はああ!」


 刃白の両の舷より緑の雷纏いし殺気の矢が数多放たれ。


 続けて、刃白は身体を回し。

 半兵衛が受け持ちし尾より。


「殺気、迅雷の小筒!」


 半兵衛が都に戻りし時と同じく、数多の殺気の刃が雷玉の爆ぜによる勢いにて放たれる。


「結界変陣、攻魔! 急急如律令!」


 刃笹麿、及び配下の陰陽師らによる陰陽術によりそれらの攻めは包まれ。


 その結界により第一陣を守り、包まれし妖喰いによる攻めは百鬼夜行らへと届く。


 たちまち再びの百鬼夜行の最前、及び大章魚に足は妖喰いの攻めにより、またも数多やられる。


「くっ……おのれえ! 一国半兵衛め、のこのこと……」


 再びの百鬼夜行が後方より伊末はこの有様を見、腸が煮えくり返る思いである。


 否、彼のみではない。






「(おのれえ! 一国半兵衛……よくものこのこと現れおって!)」


 都の守護軍、第一陣と第二陣の間に陣取りし道虚もまた。

 半兵衛の帰還に、怒り心頭に発する。

 母を変えし者。


 あれほど人への憎しみに燃えていたであろう母を変えてしまいし者。


 母・白郎に再びの百鬼夜行への加勢を懇願するも断られし時をきっかけとする、先ほどまで燻りしこの思いが。


 道虚を、今すぐにでも半兵衛を攻めたき心持ちへと掻き立てる。


「(こうなれば……少々早いが、()()を出させねばな。)」


 しかし道虚は努めて冷徹に考える。

 そして息子たちや娘に、意を送る。





「さあ、後はあんただ! 広人!」


 再び、都の守護軍第二陣にて。

 刃白の首元より広人を乗せし式神は、飛び立たんとしている。


「う、うむ! さあ、白布殿!」


 広人も腹を括り、今にも白布により撃ち出されんとしていた。


「お任せ下さい、広人殿!」


 白布は丸太の溝に嵌め込みし、黄金丸の力篭めし矢を今にも放たんとする。


「(ああ、神よ仏よ!)」


 広人はしかし、未だ憂いが多く神仏に、心の中にて祈る。


 と、その時であった。


「な……何だ!?」


 半兵衛が、驚きの声を上げる。

 その目の先は、都が北側である。


「(何!? な、何が……うわ!)」


 目を瞑っていた広人も、目を開けて見れば驚く。

 そこには――





「(ははは、見たか一国半兵衛よ! そなたらの目当て、悪いが果たさせる訳にはいかぬ!)」


 道虚はその有様を見て、歓喜する。


「(なっ……お、おのれえ! は、話と違うではないか!)」


 清栄は、もはや言う相手も分からぬ言葉を心の中にて叫ぶ。


 彼らが見しは。

 都の北より姿を現しし、大章魚の数多の足であった。





「さあ娘っ子よ! これにて終いであるな!」

「くっ……」


 時同じくして、鞍馬山では。

 夏が烏天狗らに追い詰められていた。


 果たして、広人は間に合うのか――


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