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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第10章 白郎(百鬼夜行前夜編)
168/192

前夜

「(な、何!? 右大臣が)」


 太政大臣・清栄は頗る驚いていた。

 右大臣・長門道虚が、再びの百鬼夜行を迎え討つ軍勢に加わりたいと言う。


 都が危うくなると知りつつも、出奔しし半兵衛は。

 かつて救えずじまいであった村へ向かい、次こそはかつて討てなかった亡き友、春吉・吉人の仇を討つことを決めていた。


 そうして、母と対峙し。

 戦いつつも母への思いに揺らぎ、一度は敗れつつも。


 憎しみではなく守心を戦いの訳とする決意により、母と再び戦い打ち勝つ。


 そして、都にても。

 半兵衛の無限輪廻を肩代わりしし義常らの魂が、妖に転生しているやも知れぬとの懸念と、蘇りし鬼神・道虚の強き力に恐れをなし、妖喰い使いらは戦いを渋るが。


 こちらも鬼神一派への憎しみなどではなく、守心を戦いの訳とする決意により鬼神一派と対峙。


 見事に彼らに、自らに打ち勝って見せたのである。


 そして、今は再びの百鬼夜行により攻められる時を控えし都は帝らの住まい・大内裏。


 多くの人々が戦を避け逃げ出しつつも、帝自らも含めこの戦を耐え抜かんとする者たちが、ここに集まりつつあった。


「うむ、右大臣殿。……そなたら長門一門には、そなたの父の代より、我が天皇家が世話になっておるな。」

「はっ、ありがたきお言葉!」


 訝る清栄の心などよそに。

 帝の言葉に道虚は、頭を下げる。


「殊にそなたの父・景虚(かげうろ)は、一門が皆殺しにされるという痛ましき目に遭いつつも、一人遺されし身として長門一門を盛り立てていかれた。私はその武勇に富みし話を、幾度となく父より聞かされしものだった。」

「……はっ、返す返すもありがたき、勿体なきお言葉!」


 道虚は尚も頭を下げつつ、帝が話ししその時を思い出す。




「や、やめよ景穂(かげほ)! そなたの瞳は、左様な罪人のごとき虚なる目では」

「申し訳、ございませぬ!」

「……ぐああ!」


 養父・穂景(ほかげ)のこの言葉も遮らんばかりに。

 景穂は養父を叩き斬る。


「……この罪を背負いし私には、養父上より賜りしこの名はあってはならぬ。……さて、どのように改めるべきか……」


 景穂は、養父の終いの言葉を思い出す。


 ――そなたの瞳は、左様な罪人のごとき虚なる目では


「……そうか、ならば私の名は」




「その景虚の盛り立てし、長門一門を子たるそなたが守って来た。ならば、右大臣よ……次は、私からもお願いする! 都を静氏一門や、他の侍ら……更に! 妖喰い使いらと共に守ってもらいたい!」

「はっ……元よりこの命、この都のため帝のため、捧げる所存にございます!」


 かつて長門一門が皆殺しにされし――いや、長門一門を皆殺しにしし時に思いを馳せつつ、道虚は帝の命を承る。





「道中様……どうか、お元気で。」

「ああ、広人……そなたも、達者でな。」


 氏原の屋敷にて。

 道中は再びの百鬼夜行を避けるため、荘園(貴族の所有地)の一つへ赴く所であった。


 広人は従者として、道中を見送りに来ていた。


「広人……隼人を逝かせてしまいしこと、誠に」

「……道中様が、謝られることではございませぬ! 責があるは、やはり鬼神一派の者たち! しかし……私は其奴らへの憎しみではなく、あくまでこの都を守らんがために戦う所存でございます!」


 広人は深々と、道中へ頭を下げる。


「そうか……広人! そなた、大きくなったな!」

「は……あ、ありがたきお言葉!」


 ともすれば、父より言われるような言葉であるが。

 割合幼き頃より氏原に仕えし広人にとりては、道中は父も同じなのである。


 と、そこへ。


「父上、嫜子が参りました!」

「おお、嫜子よ!」

「は、ち、中宮様!」


 中宮嫜子――もとい、今は誠の中宮が半兵衛の下にいるため、氏式部が装いし姿であるが――が氏原の屋敷にやって来る。


「広人、左様に畏まらずともよいのです! ……父上、荘園へ戦乱をお避けになると聞きまして。」

「うむ……そなたは帝と共に、隠れるのであろう?」

「はい。」


 中宮を演ずる氏式部は、道中に歩み寄る。

 道中は、左様な氏式部を中宮と思い抱きしめる。


「父上……どうか」

「うむ。かつて帝の側にお仕えさせていただいた身としては、真っ先に逃げること誠によいのかと思うがな。」

「左様なことは……」


 氏式部を抱きしめつつ、道中は語る。

 そして。


「中宮、私はそなたに……」

「? 父上、何か?」

「……いや、よい。この再びの百鬼夜行の後、再び都にて会ってからの話としよう。」

「……はっ。」


 道中は何かを言いかけるが、口を噤む。


「……では、私は」

「あ、いや。私も間もなく内裏へ戻る。広人、私が屋敷に戻りしはな。……そなたに、言伝があるからだ。」

「! は、中宮様!」


 広人は立ち去らんとするが、氏式部のその言葉に跪く。








「そうでしたか、妖は……」

「うむ、死にし兄者の……そなたの父の生まれ変わりやも知れぬ。」


 同じ頃、半兵衛の屋敷にて。

 頼庵は、これより共に百鬼夜行に立ち向かわんとする姪・初姫に訳を話す。


 無限輪廻を肩代わりしし、初姫の父であり頼庵の兄たる義常、更にその他の者たちの魂は妖に転生し、妖喰い使いらと対峙するやも知れぬということを。


「初姫、受け入れがたきことだと思うが……」

「はい、叔父上。……しかし、私は既に決めました。この心と折り合いをつけ、この百鬼夜行に臨みとうございます!」

「初姫……」


 頼庵に初姫は、目を向ける。

 その目は爛々と光り、やはり強き心持ちを伺わせる。


「うむ、初姫……何としてもこの再びの百鬼夜行より、都を守り抜こうぞ!」

「はい!」


 と、その時。


「初姫様! そろそろ母上と弟君が発たれます。」

「ばあや……今行きます。」


 侍女の言葉に、初姫は頷く。




「あねうえ!」

「竹若……母上を頼みます。」

「頼庵……初姫を頼みます。」

「うむ、治子よ!」


 車の中より、治子と竹若が顔を出して頼庵・初姫に見送られる。


 二人は戦乱を避け、水上家の所領たる尾張へ行く。


「では……母上、竹若! お気をつけて。」

「初姫、そなたも……お気をつけて。」


 母娘が言葉を交わし終えると、車は出る。


「ははうえ?」

「竹若……案ずることはございませぬ。きっと姉上も叔父上も、何事もございませぬよ。」


 車の中にて治子は、竹若を抱きしめつつ涙を堪えていた。




「初姫……」

「叔父上……私は泣きませぬ! この、京の都を守るまでは。」

「……うむ。」


 初姫が死に物狂いにて涙を堪える様を頼庵は、微笑ましく頼もしく思う。


「初姫殿……」

「白布。我らも……奥州の同胞らに恥じぬよう、戦わねばな!」

「……はい、刈吉!」


 刈吉と白布も、頼庵と初姫の様を見つつ改めて意を決する。


 と、その時である。



「たのもう! 陰陽師・阿江刃笹麿が参った!」

「!? 阿江殿!」

「阿江様!」

「阿江様!!」


 にわかに屋敷を訪ねて来し刃笹麿に、頼庵らは驚く。


「阿江殿、そなたの所の上姫殿は」

「! あ、ああ……既に里下りさせた。そちらについてはもはや憂いはない。」

「そうか、よかった……」


 頼庵も皆も。

 刃笹麿の話にほっとする。


「……いや! そんなことは……いや、どうでもよくはないのだが……た、直ちに内裏へ! ……再びの百鬼夜行を迎え討つ者たちは全て集まるようにと。」

「!?」

「し、承知した!」


 刃笹麿のこの言葉に、頼庵らはいそいそと支度を始める。






「では、彼奴ら――鬼神一派はそう言ったので間違いないな?」

「はい。……この大内裏の方より、都を攻めると。」

「……うむ。」


 所は、大内裏は清涼殿。

 今ここには清栄自らを初めとする静氏一門の主だった者たち。

 そして頼庵・初姫・広人ら妖喰い使い、刈吉・白布。


 刃笹麿率いる陰陽師ら。


 泉頼益とその家臣の四天王をはじめとする侍たち。


 更には頼庵らには馴染みのなき顔として。

 右大臣・道虚の姿も。


 何でも、彼も都を守る軍勢に加わりたいという。


 尤も、右大臣としては馴染みがないのみで、鬼神一派の首魁・鬼神としては大いに馴染みがあるのだが。


 さておき。


「……では、帝! 太政大臣様! 我ら妖喰い使いを先鋒に」

「いや、待たれよ妖喰い使いらよ!」


 頼庵の進言を、清栄は遮る。


「は、な、何か?」


 妖を確かに屠れるは自ら妖喰い使いらのみであり、先鋒に立つは妖喰い使いらであって然るべきと考えていた頼庵は面食らう。


「……今、帝よりこの都を守り統べるよう言い渡されしは、我ら静氏一門である! ……然るに」


 清栄は今一度、清涼殿を見渡す。


「……我ら静氏一門が、先鋒としてこの大内裏を守る! であればその後方に妖喰い使いらを、そして最後方には長門の右大臣殿と、頼益殿率いるその他の侍らを守りに当たらせよ!」

「!? ……はっ!」

「なっ!」


 清栄は大声にて、清涼殿に集まりし者たちに伝える。

 無論、ここにてその言葉に疑いを持つ者もいた。


「(これはどういったことか……何故静氏一門が、自らの勢いを削ぐような真似をする?)」


 その一人は、頼益である。

 尤も、清栄がいつもの通り、自らとその一門の都合を最上とする考えを持っているとするならばこの疑いは持たれて然るべきである。


 清栄がかような策を思いつきし訳は、少し時を遡る。







「ん? ここか……」


 清栄は内裏の中にて、空いている部屋へとやって来る。


 時は、頼庵らより初めて再びの百鬼夜行について聞かされてより少し後に遡る。


「ご機嫌麗しゅう、静清栄殿。」

「!? そ、その声は」


 清栄はその声に忘れしことを思い出す。

 京の二つの大乱のうち、一つ目の大乱のすぐ後。

 自らに信東に取り入るよう促し。


 更に二つ目の大乱の折にはその信東を信用・義暁に討たせ彼らを賊軍とする口実にするよう促ししあの声である。


 その声の主は、影の中宮であるが。


「そ、そなたは一体……」

「これよりお話しいたしますことの前にはそのような些事、何でもよいと思いますが。」

「いや、そんなことは」

「いいのですか? あなた様がようやく治めし天下。それが再びの百鬼夜行とやらにより揺らがんとしている。しかし私は、それを守るための策をお授けできるというのに。」

「なっ、何!」


 清栄はその言葉に、自らの耳を疑う。


「ま、誠か!」

「嘘など申しませぬ。……何も難しきことはございませぬ。鬼神一派は内裏の方より都を攻めると申しますから、あなた様方は御自ら内裏を守ると帝にご進言ください。」

「!? な、何!?」


 しかし清栄は、またも驚く。

 内裏の方より都を攻めると、鬼神一派が宣う?


 何故左様なことをこの者が知っているのか。

 何より。


「な、何故そなたが左様なことを? いや、何より……何故我らが、最も前に立たねばならぬのだ!」


 清栄は、大いに問う。

 それこそ、静氏一門が力を削がれることにはならぬのかと。


 しかし。


「案じなさいませぬな。……静氏一門には、何事もなく終わりますから。」

「な、何?」


 清栄は首を傾げるばかりである。

 が、影の中宮は更に続ける。




「(……誠に、これでよいのだな?)」


 清栄は、名も知らぬ者より受けし話を思い返しつつ。

 策を述べる。


 再び時は、再びの百鬼夜行を前にしての帝との謁見の時に戻る。


「し、しかし! 妖喰い使いたる我らこそ、前に出るべきでは」

「よいと言っておる! ……我ら静氏一門が、都を守る。」


 頼庵は清栄のその言葉に、静氏一門を見渡す。

 皆、あらかじめ清栄より話は聞いており。


 躊躇いのなき顔をしている。


「し、しかし」

「かしこまりました。では、我らは第二陣として、静氏一門の後方よりお助けさせていただきます!」

「なっ、頼庵!」


 広人も納得できぬらしく、頼庵に迫るが。


「広人……ここは、太政大臣様の仰せのままに。」

「……うむ。」


 頼庵からは有無を言わさぬとばかり言葉が返り、広人はひとまずは落ち着く。


「……では、引き続き陰陽師たちは魔除の武具を支度し! 直に妖喰いや武具をとる者らも、各々に支度せよ! これは……負けられぬ戦である!」

「応!!」


 清栄の言葉に、静氏一門を主とする叫びが返る。


「うむ……皆の者よ! 百年余り前に起こりし災厄が再び起こることはもはや止められぬ! であれば……どうか、力の限り都を守ってくれ!」

「はっ、帝!!」


 帝の言葉には、清涼殿に集まりし全ての者が叫ぶ。


「(よし、これで半兵衛が戻れば……我らは!)」


 清栄はやはり自らの一門のことを最上に考えつつ、皆を奮い立たせる。


 そして。


「(……ふふふ、精々抗うがよい! この世が滅ぶ、その時まで!)」


 道虚は心の中にて、嘲笑う。







 ある夜。

 都の北・船岡山にて。


 にわかに、しかし静かに大きな蛸足のごとき物が先に何かを包みし有り様にて地を突き破り出てくる。


 やがてその蛸足は、包まれし先を開く。

 中からは、妖を数多乗せし蛟が。


 そのまま蛟は、妖を乗せしまま山をこれまた静かに降り始める。


 やがて、蛸足は一つにあらず。

 幾つも、地を破り這い出す。


 それらはいずれも、足の先に包まれし数多の妖を乗せし蛟を乗せており。


 足の先を開き、次々と妖を運んで行く。


「さあて伊末様、滞りはないかいな?」


 この様を少し離れて見し向麿は、隣にいる伊末に尋ねる。


「ああ、今の所は。……これならば、定められし通りに出来そうであるな。」

「くくく……それはそれは。」


 小声にての伊末の言葉に、向麿は笑う。

 これらは無論、再びの百鬼夜行に列する妖たちである。


 その内訳は、山猫・鉄鼠・管狐・野襖・赤舌・首切馬、などに加え。

 更に、鬼の軍勢。


 更に、それらを運びしいくつかの蛟や、大章魚(おおだこ)


 それらは、海より岸から掘り進み妖を、送り込んでいた。


「しかし薬売り……鞍馬山の天狗共はどうした?」

「ああ……あれはちと、話し合うんは出来んかった。すんませんなあ。」

「……まったく!」


 伊末が尋ねしは、夏が覗き見しあの天狗らのことであった。


「くくく、まあ案じなさんなや! あの、ちいと妖術が使えるからってお高く止まっとる奴らも……棟梁たる大天狗が妖傀儡の術で動き出しゃあ動かざるを得んさかいなあ!」

「……さようか。」


 伊末は向麿のこの言葉に、ひとまず落ち着く。


「……さて、では麓に私も行こう。愚鈍な弟や妹らだけでは誠に妖を纏め切れるか、今一つであるからなあ。」

「ほほほ……精が出ますなあ!」


 言いつつ山の麓へ向かう伊末を、向麿は見送る。

 いよいよ、再びの百鬼夜行は迫っていた。






「……ん?」


 半兵衛はふと、目覚める。


 寒さ故である。

 やはり、衣を布団の代わりとするのは今は寒い。


 しかし、あばら屋ではあるが、屋根があるだけまだましであるか。


 そして、何より。

 ()()と、触れ合いつつ寝し夜はまだ暖かかった。


 時は、白郎との戦が決しし日の次の日。


「ん……半兵衛、か……」

「あ、悪い中宮様……起こしちまったか。」


 半兵衛の俯せの下にて。

 中宮が目覚める。


「……! そ、そうだ半兵衛! その……き、聞いてほしいことが」

「あ、ああ! わ、分かったから……ひ、ひとまず、衣着ようぜ?」

「ん……? あ、ああ! こ、これ、見るな!」


 中宮は半兵衛の言葉により自らがあられもなき姿であることを思い出し、慌てて衣を着る。


「そ、そなたも早く着ぬか!」

「あ、す、すまねえ!」

「あ、阿呆! 見るなと!」

「す、すまん重ね重ね!」


 二人は慌てつつ、互いに衣を着る。

 そして、落ち着きし時を見計らい。


「再びの百鬼夜行はな……年明けに攻め寄せると、鬼神一派が申しておった。」

「……そうか。」


 半兵衛は中宮の言葉を、呑み込む。


「すまぬ、早くに伝えねばと思ったのだが……」

「ああ……俺に、気を回してくれたんだよな?」

「う、うむ……」

「……ありがとう。」

「!」


 半兵衛からの礼に、中宮は顔を赤らめる。


「と、とにかく……早く、京に戻らねばな! 皆、怒っているやも知れぬし……」

「ああ、そうだな……でも、その前に。」

「? 半兵衛?」


 半兵衛は、あばら屋の板を一つ剥がす。

 そうして外に出るや、地に突き立てる。


「これは……墓か?」

「ああ、かなり遅くなったが……ようやく、これで少しは弔える気がするよ。」


 半兵衛は言いつつ、板の下に盛り土をする。

 そうして、手を合わせる。


「……じゃあな、春吉、吉人。……母さん。」


 半兵衛はそのまま、立ち上がる。


「さあて、中宮様も氏式部さんの化粧直さねえとな。それじゃ、バレるぜ?」

「! そ、そうであったな……すまぬ、もう少し待て!」


 中宮は再びあばら屋に入り。

 化粧直しを始める。


「(さあて……再びの百鬼夜行までに間に合えばいいが。)」


 半兵衛は空を仰ぎつつ、都への思いを強める。







 しかし、やがて時は師走、大晦日となる。

 既に日は落ちし中。


 都は、策通り静氏一門が先鋒として大内裏を。

 その後方に妖喰い使いらを配し。

 そして最後方には長門の右大臣・長門道虚と、泉頼益率いるその他の侍らが守りに当たっていた。

 

 妖喰い使いの他は、陰陽師がどうにか間に合わせし魔除の武具を持つ。


 但し、それらも主だった者たちだけである。


「いよいよ……明日ですか!」


 初姫は殺気にて作りし弓を持ちつつ、震える。


「何じゃ? 震えておるか?」

「こ、これは! ……武者震いでございます!」


 初姫は頼庵に返す。


「さあて……いよいよであるな!」


 刈吉も黄金丸を握りしめつつ言う。


「ええ……我らはどこまで力となれるか。」


 白布もあるだけの矢を矢筒に入れ。

 弓を握りしめる。


「ううむ……半兵衛は遅いな!」

「……そうであるな。」


 頼庵は広人の言葉に、返す。

 とどのつまり、半兵衛を欠きし有様にて妖喰い使いらは戦うことになりそうである。


 そう、明日――

 の、はずであった。


「!? な、この妖喰いの騒ぎは!」

「まさか……再びの百鬼夜行が!」


 にわかに妖喰い使いや黄金丸が騒ぎ出し、妖喰い使いらは驚く。


「み、皆! 周りを見渡すのじゃ! 再びの百鬼夜行が」


 頼庵が叫びし、その時であった。


「!?」

「何やら……煙が!」


 にわかに轟音が響き、煙が上がる。

 おまけに、その煙の上がりし所は。


「み、都の……南!?」


 皆、驚く。

 果たして、都の南。


 羅城門の向こうより。

 目を光らせし妖の大軍――百鬼夜行の迫り来る様が見える。


次回より、最終章 京王(再びの百鬼夜行編)が開始。

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