恩讐
「半兵衛え!」
「白郎う!」
半兵衛と白郎は、互いに吠える。
都が危うくなると知りつつも、出奔しし半兵衛は。
かつて救えずじまいであった村へ向かい、次こそはかつて討てなかった亡き友、春吉・吉人の仇を討つことを決めていた。
そうしてその日にこそ、母を見つけられず終いであったが。
母の方より半兵衛の下に赴いてくれ、こうして戦になったのである。
しかし、借りにも育ててくれし大恩のある母を。
半兵衛は斬れずにいた。
だが母は、半兵衛に自らを憎むようひたすらに促す。
「私はそなたが悲しむと知りながら! 村の者たちを骨の髄まで食い尽くしてやったわ! そなたの友二人を屠りしも、私自らがそれによって奴らより仇討ちされぬようにと思いしが故よ! そなたらなど、この白郎は初めより知らなかったのだ!」
「くっ……黙れ!」
白郎は九つの尾を広げ縦横無尽に半兵衛を攻める。
そして半兵衛を煽り続ける。
果たして、煽られ続けし半兵衛は。
「ああ、そなたがいなくなり清らかな心になったぞ半兵衛! そなたのような忌まわしき子など、私と同じく忌まわしき血が流れし子など!」
「……黙れと言ってるだろ!」
半兵衛は怒りのままに、紫丸を振るい続ける。
白郎もまた、容赦なく自らの研ぎ澄ましし九尾を振るい続ける。
忌まわしき血が流れし子――
白郎の言葉を思い返しつつ、半兵衛はその攻めを防ぎ続ける。
そうだ、この母――すなわち、妖より生まれたということは。
「そうだな白郎う! 俺の中にはあんたの……忌まわしき妖の血が流れてんだよなあ!」
半兵衛は白郎の攻めを押し切り、次には自らが攻めに行く。
「ああ、そうだ……そなたの中には、私と同じ血と肉がある!」
「ほう……そりゃあ、やっぱり忌々しいなあ!」
半兵衛は白郎の話に、更に心を燃やす。
自らの中に妖の血――それは前より、考えていたのであるが。
やはりそのことを改めて聞くと、自らを忌々しく思う心持ちは増していく。
「来い、半兵衛!」
「ああ、白郎!」
半兵衛は紫丸を振るう腕に、憎しみを籠める。
そうだ、全ての禍根はこの白郎。
ならば、此奴を絶てば禍根は絶たれる。
半兵衛は、その一心にて白郎と斬り合わんと――死合わんとする。
「半兵衛え!」
「白郎う!」
白郎は九尾全てを向け、半兵衛を迎え討つ。
半兵衛は向けられし九尾の一つ一つを、紫丸にて受け流しつつ白郎に迫る。
「これで……終いだあ!」
半兵衛はたちまち、尾を受け流されがら空きになりし白郎を狙う。
「胴が、がら空きだあ!」
半兵衛はそのまま、紫丸を振るう。
これで――
「……ぐっ!」
「半兵衛……胴ががら空きとはその言葉、そっくりそのまま返す!」
しかし、呻めきを上げしは半兵衛の方であった。
先ほど受け流しし白郎の尾の一つが、翻り半兵衛を後ろから貫いたのである。
その、左脇腹を。
「ふん!」
「ぐっ!」
白郎は半兵衛より尾を抜き、彼を地に倒す。
半兵衛は左脇腹を抱える。
「尾を受け流せばそれでよいなどと……返す返すも甘き奴め! 尾を斬らぬのか? 私を舐めているのか!」
「くっ……」
白郎は獣が吠えるが如き形相をして、半兵衛に怒りをぶつける。
半兵衛は何も言い返せぬとばかり、黙り込む。
「まだ甘さを残すか……ならば、そなたが私により恨みを抱くようにしてやろう!」
「くっ……何!」
半兵衛は白郎の言葉に、左脇腹を抑えつつ返す。
「私はかつての、百鬼夜行を率いし棟梁だ! 先頃、そなたと争いし者たちより誘いを受けた。……再びの百鬼夜行に、加勢してほしいとな。」
「なっ……!?」
半兵衛は息を呑む。
まさか、白郎が百鬼夜行の棟梁?
いや、それのみならず。
あの鬼神一派が、母に誘いを?
「それで……あんたはどうすんだ! ……いや、わざわざそれを言って来たということは。」
「ああ……無論、受けるつもりよ!」
「くっ……この……!」
半兵衛は歯軋りする。
この村を焼きしのみならず。
今再び、都を焼かんとするとは。
「白郎……! あんたはつくづく、俺が屠るべき奴だ!」
半兵衛は傷口が開くことなどお構いなしに。
白郎に叫ぶ。
「ならば……私を止めよ! いや、そもそも私を憎み仇を討つためにここへ来たのであったな? しかし、今の有様は何か! 左様な甘さで私に勝てると思ったか!」
「くっ……いや、まだまだだ……!」
半兵衛は口より、腹より血を流しつつ。
再び紫丸を握りしめる。
しかし。
「その傷は、一日もあれば癒えるな? ならば、猶予を与える。日が明けてより、また戦じゃ!」
白郎はそう言うや、踵を返す。
「待てよ……舐めてんのか、白郎!」
「ふん、今のそなたなど虫を叩き潰すも同じ。左様な中で息の根を止めても、つまらぬからな!」
「くっ……」
半兵衛は足を踏み出すが。
白郎はそのまま、凄まじき速さにて山の奥へと退く。
「くっ……何でだ! 俺は、俺は……」
半兵衛はそのまま倒れ込み。
地を叩く。
既に腹は決まったというのに。
何が足りぬのか。
――まだ、甘さを残すか
つくづく、白郎の言う通りなのである。
自らは――
「俺は、甘いな……」
半兵衛は心労と傷の痛みからか、いつの間にやら微睡む。
それから、どれほど時が経ちしか。
「……半兵衛?」
「……ん?」
何やら、目蓋の裏に見える闇の向こうより。
女の声がする。
女の、声。
まさか――
「くっ! ……っ!」
「は、半兵衛……」
しかし、半兵衛が紫丸を抜きその刃先を向けし先には。
氏式部を装いし中宮が。
「ち、中宮様、か……」
「あ、ああ……」
「……って、中宮様!?」
「うわ、何だ半兵衛! にわかに叫びおって!」
「え? ……あ、ああすまねえ……痛た!」
「ん? は、半兵衛! しっかりせよ!」
半兵衛は驚き、大声を出ししことが傷に障り。
激しく痛がる。
中宮も、おろおろする。
「半兵衛、そなた傷を」
「あ、ははは……なあに、こんなもの」
「こんなものではない! この傷は……ん?」
中宮は半兵衛の左脇腹を見て、驚く。
衣に付きし夥き傷とは裏腹に、傷は塞がりつつあったのだ。
「これは……妖にやられたのか? 半兵衛!」
「あ、ああ……」
半兵衛は中宮の問いに、はっきりとは返せぬ。
あまり深く言えば、母が妖であると知られて――
いや、待て。
「いや……中宮様になら、話してもいいかな。」
「? あ、ああ……」
半兵衛は、中宮の目を見つめる。
中宮に嫌われれば、白郎との終いの戦に臨むだけの腹は決まるやも知れぬ。
愚かにも半兵衛は、そう考えた。
「はあ、はあ!」
「くっ、また妖か!」
「白布、急ぐぞ!」
「え、ええ……」
翻って、都にて。
氏式部が都を発ち、幾日か経ち。
頼庵・広人・刈吉・白布は妖の気配を感じ向かう。
未だ初姫は、塞ぎ込んでしまい出られぬ。
「(だからせめて……私が初姫や兄者の分まで!)」
頼庵は気負う。
と、その時である。
「!? 皆、後ろに下がれ!」
「くっ……広人!」
何やら土煙が舞い、広人は皆を後ろへと突き飛ばす。
「殺気、剣山!」
広人は紅蓮の力により、地より殺気の槍を数多生やす。
それらはたちまち、恐らくは妖からである攻めを防ぐ。
「おやおや……動きがお早いですわね。」
「くっ……影の中宮らか!」
土煙が晴れし向こうには、影の中宮が。
さらに。
「影の中宮のみではない!」
「我らもいるぞ!」
「くっ……翁面共もか!」
頼庵が叫ぶ。
そこには二人の翁面――伊末と高无の姿も。
そして。
「さあ……妖・どうこう! あの妖喰い使いらを屠ってしまいなさい!」
影の中宮は呼びかける。
「くっ……妖か!」
そこには、二面九尾の妖・どうこうの姿が。
白毛と九尾を持つその姿からして、影の中宮の血を受けしことは分かる。
更に、その右腕には。
野干の姿が。
「かつての私と同じく……右腕に他の妖を合わせし姿! さあ、高无よ。影の中宮と私の力を注ぎ込まれし妖、存分に操るがいい!」
伊末は、高无に命じる。
「兄上……はっ! ありがたき幸せ!」
高无は兄に一礼し、そのままどうこうを操る。
たちまちどうこうの二つの頭より吐かれし炎、野干の口より放たれし炎、そして九尾を妖喰い使いらに差し向ける。
「くっ……まるで両面宿儺じゃ! ここに来てこれを……」
頼庵は無限輪廻の時を思い返しつつ、翡翠を構える。
しかし。
「ぐうっ! このお!」
「広人!」
広人は剣山を更に生やし。
どうこうの攻めを一人で防がんとする。
「広人! 我らも」
「そうです、広人殿!」
「広人殿!」
頼庵・刈吉・白布も、戦うと言うが。
「ああ、頼庵たち! 私を盾にして、攻めが止みし時を狙え! あの鬼神一派は我らが仇そのものだからな!」
妖の激しき攻めを剣山にて防ぎつつ、広人は答える。
「何故だ……自らを盾にせよなどと!」
「言ったであろう? 私には、もはや守るべきものがない! しかしそなたらにはある。……だから、そなたらは守るべき者を守れ!」
「広人……」
「広人殿……」
「広人殿……」
広人の言葉に、頼庵らは言葉を失う。
「ぐうっ! この!」
「広人!」
しかし、広人は攻めに苦しむ。
あの鬼神一派は、我らの仇そのもの。
やはり、我らには憎しみが足りぬのか。
広人の先ほどの言葉が、頼庵に刺さる。
しかし、ふと思い直す。
―― 私には、もはや守るべきものがない! しかしそなたらにはある。……だから、そなたらは守るべき者を守れ!
「……そうか。」
頼庵は広人のその言葉を思い返す。
そして、次に考えしは――
「……そうか、そなたは……」
「ああ……すまねえな。今まで帝もあんたも……妖喰い使いの皆も、全て騙してた。」
中宮に半兵衛は、自らと母の因縁について語る。
これでさぞかし、中宮は自らを嫌うであろう――
そう思い、一度は逸らしし目を中宮の目に向ければ。
「!? ち、中宮、様……」
「半兵衛……辛かったであろうな。」
思いの外、中宮は慈しみを含みし目にて半兵衛を見ていた。
「お、俺は……妖の子なんだぞ! 忌まわしい血が」
「半兵衛! ……すまぬ、ひとまず私の話も聞いてはくれぬか?」
「……へ?」
半兵衛が中宮に繰り返し言わんとしし言葉は、中宮により遮られる。
「私は……半兵衛の心は分からぬ。」
「……何?」
中宮は、そう言葉を絞り出す。
「私自らは、そなたの母君をよく知らぬからだ。だが……私はそなたの母君に、礼を言いたい。」
「れ、礼!?」
中宮のこの言葉は、半兵衛を驚かせる。
礼とは?
「こ、この村はあいつに滅ぼされたんだ! それに奴は妖だ! そんな奴」
「半兵衛……自らの母を、奴などと呼ぶな!」
「!?」
しかし、半兵衛を中宮は叱りつける。
「半兵衛、忘れてはならぬ。……そなたが今、ここにいるは何故か? 母上がいらっしゃったからであろう?」
「中宮様……」
半兵衛は中宮を見つめる。
中宮も半兵衛を見つめ返し、続ける。
「私が、そなたの母上に礼を言いたいと言ったのはな、半兵衛。……半兵衛を産み、育ててくれたからだ。だからこそ、私は半兵衛と出会えたからだ。」
「!?」
半兵衛は、言葉を失う。
「それに半兵衛……誠に憎しみなどで、そなたは母君に勝てると思うのか?」
「……何?」
半兵衛は中宮の更なる言葉に、何かが頭に浮かぶ。
それは。
「半兵衛。亡き義常殿は……憎しみの虚しさを知ったぞ。」
「……!? そうか、そうだったな……」
半兵衛はがくりと、腕を下ろす。
今頭に浮かびしそれは――
――あなたの亡き兄上は、どうであったか。
「……そうであったな、氏式部殿よ。」
頼庵ははたと気づく。
半兵衛と同じく、中宮の言葉にて。
そして半兵衛と同じく、憎しみの虚しさを。
時は、かの京における二度目の大乱。
尾張にて水上兄弟は治子らを手篭めにせんとした父の仇・夕五と対峙していたが。
その夕五は、弟は兄を越えんとするもの。
兄の寝首を掻かんとするもの。
その信条を語り、手を組みし筈の翁面・伊末の怒りを買い。
妖傀儡の術にて、妖・鵺に変えられてしまった。
「ははは! さあ水上兄弟よ。さぞかしいい気味であろう? 仇の叔父貴の、惨たらしき最期は!」
伊末は水上兄弟を煽る。
目の前には、鵺に変えられし夕五の姿が。
「……戯れにもならぬな、かように悍ましき様は。」
「ほう?」
しかし義常のこの言葉は、伊末にとりて思いの外であった。
「どこまでも哀れの一言に尽きるな、夕五よ。……せめて、花と散れ。」
義常は叫ぶ訳でもなく、諭すがごとく呟く。
たちまち翡翠に番えし殺気の矢を、放つ。
矢はそのまま、夕五の変じし鵺の鼻っ柱を捉え――
刹那、鵺は血肉の雨となる。
たちまち赤き雨粒は、一つ一つが緑の光となり消えていく。
「……そうだ、憎しみではない!」
再び、妖・どうこうと相対しし時。
頼庵は叫び、前に出る。
「な……よ、頼庵! ここは私が!」
「広人! 守るならば、攻めよ! 攻めこそ最大の守りだ!」
「な、何?」
「うおお!」
頼庵は走りつつ、殺気の矢を数多翡翠に番え。
そのまま紅蓮の剣山を突き破り、放つ。
たちまち雷を帯びし矢たちが、網を編み。
どうこうの攻めを、押し除けて行く。
「広人お! そなた……ふざけるな!」
「な、何じゃ頼庵! 何が」
頼庵はにわかに、広人に怒り出し。
広人はただ、戸惑う。
しかし、頼庵は構わず続ける。
「守るものが何もないなどと! 私は、初姫や竹若、治子は、白布殿は、刈吉殿は……そなたの何だ! この都はそなたの何だ! それに……忘れるな! そなたは友を亡くし、私は兄を亡くした……そして夏殿が出家するに際しても見送るのみであったが……夏殿はまだ、生きておるぞ!」
「!?」
頼庵のその言葉は、広人の胸をさながら矢の如く刺す。
そう、まだ夏は、守らんとした夏はまだ生きている。
それに気づかなかった自らを、今すぐ恥じたき心持ちである。
「守るべき者を守れ? ……その言葉、そっくりそのままそなたにお返しする! さあ、刈吉殿も白布殿も、共に攻めという最大の守りをしようぞ!」
「頼庵殿……はい!」
「はい!」
頼庵の呼びかけに、刈吉と白布も前に出る。
そして。
「はああ!」
「えい!」
刈吉は黄金丸の刃より黄金色の光の刃を放ち、白布は黄金色の光の矢を放つ。
いずれも、雷を帯びており。
どうこうの攻めに対し、守りとなる。
「ほう……」
「これはこれは。」
「くっ、おのれ妖喰い使いらめ!」
伊末・影の中宮はこの様を見て感心する。
高无は歯軋りする。
「どうやら……これは父上がおっしゃりし、少しは噛みごたえがある方に転んだな。」
「ええ。」
彼らは、父より命じられていた。
妖喰い使いらがもはや腰抜けならば、屠れと。
しかし、まだ噛みごたえがあるならば百鬼夜行の時のお楽しみとしてとっておくようにと。
「さあ……ならばどこまで噛みごたえがあるか、見せてもらおうではないか!」
伊末は叫ぶ。
「叔父上……」
その頃、半兵衛の屋敷にて。
初姫は戦への恐ろしさのあまり塞ぎ込んでいたが。
やはり、戦の有様は気になり。
今、叔父・頼庵が持ちし翡翠の殺気を通じて有様を知る。
――守るべき者を守れ
「私の、守るべき者……」
と、その刹那である。
「あねうえ!」
「!? た、竹若!」
にわかに、弟・竹若の姿が。
「こら、竹若! そこは姉上のお部屋でしょう!」
母・治子も入って来る。
「竹若……どうしたのですか?」
「あねうえ〜」
「!? た、竹若……」
竹若は、初姫に抱きつく。
「あ、甘えたいのならば言ってから」
「ちちうえは、ここにいらっしゃいまするか?」
「!? ……竹若、そなたは……」
「竹若……」
竹若のその言葉に、初姫は彼を抱きしめ返す。
そうだ。
竹若が今如何なる思いか。
自らは、鑑みただろうか。
初姫は自らに、首を振る。
自らのことで一杯であった。
幼き弟が、如何なる思いだったかなどと――
「すみませぬ……竹若。私はそなたの姉なのに……そなたの心を……」
初姫は竹若を、更に強く抱きしめる。
「謝らねばならぬのは、私です。初姫、竹若。」
「! 母上……」
二人を、治子は抱きしめる。
「私こそ母であるのに……あなた方の心を……」
「……母上。」
初姫は意を決し弟を抱きしめしまま、そして母を抱きしめしまま顔を上げて母を見る。
「母上はお許し下さらないかもしれませぬが……私は、叔父上と共に戦いとうございます!」
初姫は母の、目を見据えて言う。
「……その目は、私が止めても止まらぬ目ですね。いいでしょう、初めは叔父上に守っていただいてばかりでしょうが……せめて、戦いなさい!」
「……はっ!」
治子に促され、初姫は弟をそっと離し。
治子からも離れる。
「あねうえ!」
「竹若……すみませぬ。父上を見送りし時を思い出させますね。……しかし、姉上は必ず帰ります! 待っていなさい!」
「あねうえ!」
初姫は駆け出す。
そう、私は守る。
母と、弟を。
そして――
「……半兵衛、傷は治ったか?」
「ああ、お陰様でな。」
再び村跡にて。
白郎に半兵衛が一度は敗れ、一夜明け。
白郎は再び、半兵衛の下を訪れる。
「さあ……此度こそ、私への憎しみに染まり切ったか?」
白郎は問う。
そうでなければ、もはや――
しかし。
「……母さん、すまなかった!」
「!?」
半兵衛の口より出し言葉は。
怨嗟ではなく、謝りであった。




