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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第9章 転生(無限輪廻編)
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妖尾

「くっ、影の中宮め! 半兵衛様の言葉を」


 頼庵は影の中宮と、野干を睨みつつ言う。


 半兵衛は地獄の十王による無限輪廻の罰により、今地獄にいる。


 そして、何故か地獄にいし仇・鬼神長門道虚と邂逅し戦となった。


 しかしその戦も、百八獄卒が現れしことにより今はひとまず止んでいる。


 そして、この人間道にては。

 妖・野干を率いし鬼神一派と妖喰い使いらが、激しき戦いをしていた。


 しかし妖喰い使いらに業を煮やしし影の中宮は、自らの兄たちでもある二人の翁面より妖を取り上げ。


 自らの憎しみと妖気により


「叔父上、早くしなければ」

「邪魔する、頼庵ら!」

「⁉︎ ひ、広人ら!」


 初姫が声を上げかけし時。

 にわかに広人・刈吉・白布が刃白に乗り込む。


「お、お邪魔いたします……」

「申し訳ございません!」


 刈吉と白布はしおらしくしている。


「く、皆集まってしまった……」


 そう、これにて刃白の上に。

 今この戦場にいし全ての使い手が集まってしまった。


「お戯れも、そこまでですわ!」

「くっ……初姫! 右の弩を!」

「はっ、叔父上!」


 影の中宮は野干の九尾の一つより、妖気の尾を伸ばす。


 これを初姫、頼庵は刃白の両の舷より翡翠の矢を放ち迎え討つ。


「くっ! どこまでも……左様な忌まわしき矢など、この私が!」


 影の中宮も怒りを新たに、九尾全てより妖気の尾を伸ばす。


「夏殿! 白布殿と刈吉殿もその尾より頼む!」

「応!」

「は、はい! ……さあ行くぞ白布!」

「は、はい! こ、こうですか?」


 広人は夏と刈吉・白布に呼びかけ。

 自らも刃白の首より殺気の槍を伸ばす。


「はあっ!」

「はあっ!」


 たちまち刃白の四つ足より殺気の爪が、尾より黄金丸の刃が飛ぶ。


 妖気と殺気、二つの力が宙にてぶつかり合う。


「ぐううっ! ……なるほど、しかし!」


 影の中宮は一時押されつつ、しかしすぐに立て直す。

 刃白の両の舷、すなわち二つの所より殺気。

 刃白の首より殺気。

 刃白の四つ足、すなわち四つの所より殺気。

 刃白の尾より殺気。


 すなわち、刃白より伸びし殺気は八つ。


 片や、野干より伸びし妖気は九つ。

 そう、妖気の方が一つ多かったのである。


「さあ……この妖気の尾にて!」


 殺気と妖気のぶつかり合いにて起こりし土煙の中より、妖気の尾が一つ伸びる。


 このまま、妖喰い使いらを――


「お、叔父上! このまま」

「……殺気迅雷の小筒!」

「……え?」


 しかし、頼庵の迎え討ちもまた早く。

 奇しくも、半兵衛と同じ名の技を放つ。


 それはかつて半兵衛が両面宿儺となりし頃に見せし技を真似しもの。


 弩に番えし矢の後ろに雷玉を作り、続け様に爆ぜさせ矢を撃ち出したのである。


「ぐうっ……うっ!」


 さすがに影の中宮も、その余りの凄まじき勢いに押され。


 終いに残りし妖気の尾も砕かれる。


「さあ皆、再び武具の力を刃白に纏わせよ! ……初姫、来い!」

「え? お、叔父上?」


 初姫が驚きしことに。

 叔父・頼庵は皆に命じ、更に初姫を自らの下に来させ、抱きしめる。


「な、何を⁉︎」

「頼庵、こちらはよいぞ!」

「私もだ!」

「私もです!」

「私も!」


 初姫が驚きし間も、妖喰い使いらや刈吉・白布の支度は整う。


「よし、では前に向けて構えよ! さあ皆、そして初姫……掴まっておれ!」

「え? お、叔父上え!」


 初姫が更に、驚きしことに。

 頼庵はいつの間にか、刃白の四つ足の下に殺気の矢を生み出し、その後ろに雷玉を生じさせて爆ぜさせ。


 その勢いにより刃白諸共、飛ばす。

 狙うは無論、野干。


「ぐうう!」

「ひたすらに前のみ見よ! さあ構え続けよ!」


 またも奇しくも、それは今地獄にて半兵衛が自らを打ち出しし時と同じ技。


 雷玉の爆ぜにて生じし勢いに乗る、攻めである。


「なっ! くっ……左様な小細工ごとき!」


 影の中宮は凄まじき勢いの刃白にたじろぎつつ、自らも野干も、先ほどにも増して妖気を噴き出し。


 再び妖気の尾を九つ、伸ばす。


「はああ!」

「妖気が!」

「怯むなあ! この刃白は今、前にしか進めぬ!」


 しかし、妖喰い使いらは引けぬのもあるが、引かぬ。

 そのまま刃白よりその前に元々向けられし殺気の武具らが、差し向けられし妖気の尾を物ともせず突っ切る。


「くうう! ……無念!」


 影の中宮は敵わぬと悟り、宙に飛ぶ。

 次の刹那、取り残されし野干に刃白の矛先が届く。


 たちまち凄まじき音を立て、野干は切り刻まれその血肉は緑の、青の、白の殺気と同じ色に。


 またそれらとは逆さまに白き殺気を赤に、黄の光を橙に染め上げていく――




 全ては刹那の内に、喰いつくされる。


「ぐうっ! ……初姫よ、大事ないか?」

「は、はい……叔父上……」


 頼庵は抱きしめて守りし姪の顔を、覗き込む。

 初姫は顔を赤らめつつ、顔を上げ答える。


「くっ、何をするかと思えば……断りもなく無茶を! 頼庵そなた、半兵衛に似たな!」


 広人は未だ刃白にしがみつきつつ、言う。


「ははは、いい褒め言葉じゃ!」

「あ、お待ち下さい!」

「? 白布?」

「ああ、まだ終わってはおらぬぞ!」


 しかし、左様な広人と頼庵はよそに。

 白布が再び弓を、夏が殺気の爪をそれぞれに構える。


 その目の、先には。


「ふふふ……やってくれましたわね! 溜飲を下げるどころかこの屈辱、なんとしても!」


 いつの間にやら影の中宮が地に降り立ち、刀の柄に手をかけている。


「ふうむ……やはりまだ生きていたか!」


 頼庵も翡翠を、構えんとする。

 と、その刹那である。


「待て! ……影の中宮よ、ここは奴らに華を持たせるぞ!」

「う、うむ!」

「何ですって?」


 影の中宮の前に二人の翁面・伊末と高无も降り立ち。

 影の中宮を促す。


「ふん……武の心得なきお二人が我が前とは! お退きになった方が」

「先ほど、薬売りより知らせがあった! ……鬼神様が危ないとのことだ。」

「なっ……」


 その言葉に、さしもの影の中宮も。

 読んで字のごとく矛を、いや刀を納める。


「……妖喰い使いらよ、命拾いしたな! 戦は……またの機に!」

「くっ!」


 伊末は捨て台詞と共に、土煙を起こし自ららを覆う。


「待て!」

「逃すか!」


 頼庵は殺気の矢を飛ばし、広人は殺気の槍を土煙めがけ伸ばすが。


 手応えはなく、土煙が晴れし頃には鬼神一派の姿はなかった。


「くっ……逃したか!」

「ああ……」

「し、しかしあの者たちは確か、鬼神がどうのとか……」


 悔しがる頼庵と広人に、白布は言う。

 しかし。


「白布殿……仇の将がどうなどと、我らにはどうでもよい。」

「あ……すみませぬ……」


 未だ半兵衛の無限輪廻と鬼神・道虚の繋がりを知らぬ妖喰い使いらにとりては、鬼神がどうかなど些事であった。


 と、その刹那である。


「皆、そこに……刃白の中におるのか!」

「あっ……あ、阿江殿!」


 頼庵はにわかに響きし声に返す。

 刃笹麿が刃白を通し、自らの声を届けているのだ。


「すまぬ、刃白がにわかに消えて初姫殿もおらず……申し訳ない!」

「ああ、案ずるな。初姫も刃白の中じゃ!」

「……何⁉︎」


 頼庵の言葉に、刃笹麿は頗る驚く。

 さぞかし腰を抜かしていることであろう。


 その様を思い浮かべると頼庵・夏・広人は少し笑えてくるが堪える。


「はっ! そ、そういえば義常殿の娘御がここに!」

「あ、はい……いつも叔父がお世話になっております!」

「いや広人よ、今更か!」


 広人は頗る遅ればせながら驚き、頼庵は突っ込む。

 しかし、そういえばここに刃白と共に来し時の初姫の言葉を鵜呑みにするならば。


 義常は刃白を、刃笹麿にも内緒にて持ち出したということか。


 まったく、あの兄者は。

 頼庵は苦笑いをする。


「ま、まあよい……ならば、早く戻って来てはくれぬか? 半兵衛は危ないのだ!」

「ははは、ああ……何⁉︎」

「な!」

「何!」

「ま、誠ですか⁉︎」


 しかし、この刃笹麿の言葉は。

 皆を驚かせる。


「わ、分かった! 皆、早く戻ろうぞ!」

「う、うむ!」

「応!」

「は、はい!!」


 刃白は皆の意を受け。

 半兵衛の屋敷へと急ぐ。


 しかし頼庵は、ふと考える。

 鬼神が危ないという、先ほどの影の中宮らの話。

 そして、半兵衛が危ないという刃笹麿の話。


 二人が時同じくして危なき目に遭うなど、果たしてこれは偶々なのか――






「くう……またも、効かねえかい!」


 地獄道にて。

 時は少し、遡る。


 にわかに獄卒らが現れ、半兵衛・道虚は一度戦を止め奴らを迎え討たんとする。


 そうして先ほどより半兵衛も道虚も、襲い来る獄卒らを自らの妖喰いを振るうが。


「くっ! ……手応えがねえ!」

「ふんんっ!」

「うおっと!」

「はああ!」

「くっ、この!」


 やはりというべきか、獄卒らも死神・綾路と同じく。

 妖喰いは擦り抜け、手応えは何もない。


 故に半兵衛・道虚は退がりつつ徒らに抗うより他なく。


 既に追い詰められつつある。


「やはり、通じぬか。」

「くっ……まあ、死神の嬢ちゃんが出て来ねえのがただ一つの救いか……」


 半兵衛は呟く。


 更に言うなれば、この獄卒らが妖喰いの効かぬ身ということにおいては綾路と同じであっても、妖喰いを暴れさせる性質(たち)のないことも幸いであった。


 しかし、それらの幸いも長続きはせぬことを半兵衛も、道虚も知っている。


 ここにて綾路が目の前に現れれば、それのみにても彼らは刹那のうちに滅びかねぬ。


 どうすべきか――


「……止むを得ぬか!」

「え? ……って! こら、鬼神さんよお!」


 しかし、道虚は。

 にわかに、半兵衛に殺気の刃を振るう。



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