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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第9章 転生(無限輪廻編)
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小傑

「たあっ!」

「はっ!」


 地獄道にて。

 紫丸を遥々人間道より呼び出しし半兵衛は、その紫丸にて鬼神・長門道虚と相対す。


 半兵衛が死神・綾路を介し地獄の十王より受けし罰・無限輪廻。


 それは、かつて人間道にて暮らしし日々を忘れ、六道を輪廻転生し続けるという苦しき罰であった。


 そのまま天道での、母と近くの村人たちと暮らしし幸せではあったものの最も苦しき人間道での頃と似し暮らし。

 そして戦乱の世、阿修羅道での人の血に手を汚しし暮らし。

 餓鬼道での、飢えに苦しみ何もできぬままであった暮らし。

 畜生道での、妖に生まれ変わりかつての仲間らと戦わねばならぬという暮らし。


 そして今、ここは地獄道。


 これまでとは異なり六道全ての思い出を保ちしままの半兵衛は、自らの半身を置き去りにしたという罪により一度は地獄道で過ごす咎を受け入れそうになるが。


 畜生道にて他の妖喰い使いらと躱しし誓いを思い出し、自らに無限輪廻の咎を全うさせんとする鬼神・道虚と今、鍔競り合いとなっている。


「はあっ!」

「うおっ!」


 半兵衛は再び紫丸を振り上げ、道虚も自らの刃を振り上げる。


「ふうむ……そなたも全く衰えておらぬな!」

「ああ! この六道じゃあ、相手が何だろうと戦わなければ生き残れなかったからなあ!」

「なるほどな……しかし!」

「ぐっ!」


 半兵衛の紫丸と道虚の刃がまたもぶつかり合う。

 あまりの激しさに、互いの刃より火花が散る。


「それは私とて同じ……いや、私こそこの無限輪廻を生き抜きし者! かつて宵闇を巡りそなたらに敗れしこの屈辱さえ糧に私は! この雌伏の時を生き延びたのだ!」

「へええ……そいつは偉いな!」


 半兵衛の紫丸と道虚の刃は、またも互いに打ちつけ合い離れる。


 しかし、またもすぐにぶつかり合う。


「くっ!」

「ふふふ、攻め切れぬか! ……しかし、こちらとて決め手には欠けるな!」


 道虚は半兵衛の歯軋りに笑みを返しつつ、すぐに渋き顔をする。


 尚も戦いは鍔にて競り合うばかりであり、一向に進まぬ。


 さて、どうしたものか――




「ここ辺りか……」

「妖は、何処に?」

「刈吉!」

「白布……気を緩めるでないぞ!」


 人間道にて。

 先ほど感じし、妖の気配を辿り。


 頼庵・広人・夏、そして刈吉・白布は周りを睨む。

 どこの物陰に妖は潜んでいるとも限らぬ。


 気を引き締めねば――

 その、刹那である。


「ぐっ!」

「紅蓮、剣山!」


 にわかに伸びて来し白き尾の攻めを、広人が防ぐ。


「くっ、この妖は」

「こ、此奴は!」


 広人はその妖の姿に、慄く。

 それは、白き毛と白き九つの尾を持つ狐の如き姿。


 噂に聞きし、かつて百鬼夜行を率いし妖・化け狐の如き姿。


「こ、これは……ば、化け狐⁉︎」

「ほほほ! やはり、そう見えましたでしょう?」

「⁉︎ な、影の中宮!」


 にわかに響きし声の方を見れば。

 そこには、影の中宮の立つ姿が。


「こ、この妖はやはり! そなたらのか!」

「ほほほ、その通りですわ。 まあ、誠の化け狐ではなく……野干に私の血を与え、変じさせしものですが!」

「くっ……誠か!」


 野干――忘れもせぬ、半兵衛が無限輪廻に堕とされる前に倒しし妖である。


 それをこともあろうに、再び妖喰い使いらの前に出すとは。


「鬼神、一派あ! そやつが如何なる妖か知ってのことか! 我らの、逆鱗に触れても構わぬと!」


 頼庵が叫ぶ。

 その言葉は他の妖喰い使いらの心を代弁しており、たちまち右腕に持つ弓・翡翠からもその心を映さんばかりに緑の殺気が、滾る。


「うむ、頼庵! ……鬼神、一派あ!」

「はああ!」


 それを見し広人も、夏も。

 怒りを顔にて、叫びにて表し。


 たちまちその妖喰いも、滾る。


「白布!」

「ええ、刈吉! 何か詳しくは分かりませぬが……妖喰い使いの方々がお怒りとあらば、私たちはお力添えするまで!」


 刈吉の呼びかけに、白布が応える。

 たちまち刈吉の持つ黄金丸、白布の持つ毒矢は黄金色に光り、滾る。


「ほほほほ! ええ……あなた方のその顔が見たく、この妖をよりにもよりて! 選ばせていただきましたわ!」


 影の中宮の高笑いが、その狐面越しに響き渡る。


「おのれえ!」


 頼庵らもその影の中宮の言葉に、更に怒りを、殺気を滾らせる。


「ううむ、これは見物であるな!」

「え、ええ!」

「⁉︎ 翁面、共か!」


 影の中宮を真ん中にする形にて、二人の翁面――伊末・高无も現れる。


 高无の方は怯えておるが。


「さあ……兄上方。この野干は差し上げますわ、なので……妖喰い使いらめを、確かに屠って下さいませ!」


 影の中宮は初めは小声にて、やがて終いには大声にて叫び。


 一人刀を抜き、飛び出す。


「ふん、影の中宮……そなたに言われずとも!」


 伊末は右腕を高らかに、掲げる。

 たちまち野干が、吠える。


「あ、兄上!」

「高无! いつまで怯えておる? ここは戦場ぞ、ならば腹を括れ!」

「は、はい!」


 高无は怯えつつも、兄に叱咤され。

 兄と同じく右腕を、振り上げる。





「そうだな……こんなんで競り合っても埒が明かねえ、なら!」

「ぐっ!」


 またも、地獄道。

 進まぬ戦いに業を煮やししは、半兵衛とて同じであり。


 ならばと、半兵衛はまたも勢いよく紫丸の刃を道虚の刃に打ちつけ、間合いを取る。


「ふん、何をするつもりか!」

「そうだな……これはどうだ!」


 言いつつ半兵衛は、紫丸の蒼き殺気を滾らせる。

 そのまま宙にて紫丸を振るうや、元の刃より殺気の刃が、宙に幾らか出来る。


「さあて……阿修羅道や畜生道での、あれをやってみるか!」

「……ほう?」


 言いつつ半兵衛は、宙に並びし殺気の刃の後ろに殺気の雷玉を産み出す。


 狙いはただ一つ、鬼神・道虚のみ。


「……殺気、迅雷の小筒!」


 半兵衛は叫び。

 殺気の刃を、雷玉を爆ぜさせ次から次へと撃ち出す。


 撃ち出されし殺気の刃たちは、ひたすらに道虚めがけ宙を飛ぶ。


「ほほう……しかし、それは既に見切っている!」


 しかし道虚も、先ほど自らを無限輪廻を生き抜きし者と言いし通り。


 刃より、殺気の雷を数多放つ。

 放たれし雷は、道虚を狙い撃ち出されし殺気の刃たちを尽く打ち砕く。


「ははは、何をするかと思えば……ぐっ⁉︎」


 しかし、所詮は見切りし技と高を括り、道虚が気を緩めしその刹那。


「はあっ!」

「ぐうう! ……くっ、防ぎ切れぬか!」


 半兵衛が勢いよく道虚の懐に、飛び込む。

 そう、先ほど殺気の刃たちを撃ち出しし後に、自らも撃ち出したのである。


 さすがに道虚も、これは思いの他であり。

 その刃は紫丸の凄まじき勢いにて粉々に砕かれつつ、何とか横に逃げる。


「ぐううう! ……どうだ、鬼神さん!」


 半兵衛は真上に自らを打ち上げ。

 宙にて殺気の雷玉を爆ぜさせ勢いを減らしつつ、地に降り立つ。


「ふふふ……ははは! なるほど、一筋縄ではいかぬか……よかろう認める、私は少しそなたを見縊っていたようじゃ!」

「へえ。」


 道虚は刀を失いつつ、何故か未だゆとりありげに笑う。


「今となっちゃ、あんたの方が刀無しになっちまってたが?」

「ふん……ならば、私を斬りに来る好機であろう? 来い、一国半兵衛!」

「ふうん……なら、行かせてもらう!」


 半兵衛は道虚の煽りに、弾かれんばかりに動き出し間合いを詰める。


 そのまま道虚に、斬りかかる――


「ぐっ!」

「ふん、一国半兵衛よ……そなたも見縊ったな!」

「……ああ、そうみてえだな!」

「くっ!」


 半兵衛は紫丸を、道虚が生み出しし殺気の刃にて防がれ。


 さらにもう一つ道虚が生み出しし殺気の刃を脇腹に喰らいつつ、紫丸を道虚の殺気の刃に打ちつけ離れる。


 その殺気の刃は、やや暗いが。

 見ようによっては紫――かの強大なる大鎧型の妖喰い・宵闇の色である。


「なあるほど……そういやさっき生み出された雷は、殺気によるものか。」


 半兵衛は脇腹の痛みを堪えつつ、軽口を叩く。


「ふふふ……一国半兵衛よ! これで、あいこであるな?」

「何? ……へえ。」


 道虚のこの言葉に、半兵衛は刹那首を傾げるが。

 彼の肩の傷を見、合点する。


 先ほど、半兵衛も道虚に傷を負わせていたのである。


「さあて……今少しばかりは戯れていたき思いであるが。さほど時もない、次こそ!」


 道虚は二つの殺気の刃を、構え直し。

 両の刃の殺気を、滾らせる。


「ああ……そうだな!」


 半兵衛もまた、紫丸の殺気を滾らせる。


 そうして二人が互いに改めて斬り合わんと踏み出しし、その時であった。


「⁉︎」

「くっ、これは!」


 たちまち周りの景色は、にわかに見渡す限り炎の海に変わる。


 その中よりゆらゆらと、歩み寄りしは。


「こ、こいつらは……?」

「くっ、遅かったか……死神に、そして百八獄卒(ひゃくはちごくそつ)に、嗅ぎつけられた!」

「なっ!」


 道虚の言葉に、半兵衛は未だ話の見えぬ思いであるが。


「地獄でのこれより先の好き勝手、十王は許すまいぞ。故にこの死神……その意により百八獄卒とともにこの罪人に、裁きを下す!」

「死神の、嬢ちゃんかい。」


 死神・綾路が見え。

 場違いではあるが見慣れしその顔への安堵と共に、炎の海よりゆらゆらと現れつつある者たちへの恐れを抱き始める。


 それは、百八獄卒。

 各々が異なる獣の頭を持ちし、罪人を責め苛む地獄の鬼である。


「神妙にせよと、十王の命だ!」


 百八獄卒の前に綾路は、仁王立ちする。





「はっ!」

「くっ! ……おのれ、殺気」

「小細工をする隙など、ありますまい!」

「くっ!」


 人間道にて。

 影の中宮は刀を取り、自ら広人と対峙する。


 技を放たんとしし広人も、隙を見せぬ影の中宮に苦しめられる。


「おのれえ!」

「くっ! ……四葉広人、そなた技こそ拙いですが……強くなりましたね。」

「それはありがたい! ……守りたきものが、あるからじゃ!」

「ふんっ!」


 広人の紅蓮による突きも、影の中宮は刀にて受け流す。


「私もいるぞ!」

「ふんっ! ……今は四葉広人に、用がありましてね!」

「くっ!」


 影の中宮は斬りかかりし刈吉も跳ね除け。

 ただひたすらに、広人のみを狙う。


「この! 何故私を!」

「……せめてもの、溜飲を下げるためですよ!」

「くっ!」


 影の中宮は広人に、ひたすら刃を打ち込み続ける。

 九州にて、あの忌まわしき鎮西八郎に負わされし顔の傷。


 今は全て治ったが、屈辱は忘れぬ。

 その鎮西八郎も、今ここにはおらぬ。


 代わりと言うべきか、ここにはその時その場にいし広人が。


 ならばせめてもの腹いせとして、此奴を。

 影の中宮はそれにより広人を、狙っているのである。


「白布、我らも!」

「くっ……影の中宮の動きが速く狙いがつけられませぬ!」

「くっ……」


 白布も黄金丸の力纏わせられし毒矢にて影の中宮を狙うが。


 狙いがつけられぬのでは。

 しかし、その刹那である。


「⁉︎ くっ!」

「うおっ!」


 にわかに影の中宮と広人の間を、斬り裂かんばかりに飛びしものが。


 それは影の中宮の面を翳め、地に突き刺さる。


「くっ! ……ぐっ、これは!」


 影の中宮は驚く。

 自らの面を翳めしもの、それは。


 緑の、殺気の矢である。


「くっ、まさか……水上頼庵が!」


 影の中宮は考えるが、しかしすぐに頭に問いが浮かぶ。


 馬鹿な、今自らの兄たちが彼奴・そして夏と対峙ししはず。

 では兄たちが、しくじったか。


 そう思い、矢の飛んで来し方を見れば。




「なっ……は、初姫!」

「叔父上、助太刀に参りました!」


 影の中宮と同じく、矢の飛んで来し方を見し頼庵は驚く。


 そこには、式神・刃白に乗りし亡き兄の忘れ形見・初姫が殺気の弓を構えし姿が。

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