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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第9章 転生(無限輪廻編)
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友討

「(くっ、欠片たちが!)」


 両面宿儺の目を通じ、自らの放ちし妖気の欠片の行方を見し半兵衛は歯軋りする。


 たちまち刃笹麿の作り出しし炎の壁に阻まれ、両面宿儺により飛ばされし欠片たちは爆ぜたのである。


「皆、刃白に乗れ! 直に結界は爆ぜて消える!」

「う、うむ!」


 戸惑いつつも頼庵・広人・夏・白布・刈吉は刃白に乗り刃白諸共退がる。


 半兵衛が死神・綾路を介し地獄の十王より受けし罰・無限輪廻。


 それは、かつて人間道にて暮らしし日々を忘れ、六道を輪廻転生し続けるという苦しき罰であった。


 そのまま天道・阿修羅道・餓鬼道での苦しき日々を送り。

 今畜生道では事もあろうに、二人が左右にて繋がりしが如き二面四臂の妖・両面宿儺へと転生している。


 しかし、その姿は誠であればの話である。

 今は、両面宿儺の右側を妖喰い使いらにより屠られてしまい左側のみになっている。


 先ごろ長門一門の薬売り・向麿も言いしことであるが、今は片面宿儺とも言うべき姿である。


 しかしその半身をもがれし痛みは今、かつて仲間であった妖喰い使いらを憎み仇を取らんとする訳になっている。


 そうして半兵衛と妖喰い使いらは互いに戦い、やがて半兵衛は阿修羅道にて扱いし武具・小筒(火縄銃)をにわかに思い出し。


 右腕の妖気の刀にて巻き上げられし瓦の欠片に妖気を纏わせ、更にそれを左腕に作り出しし妖気の弩に番え。


 そのまま弩の後ろ側に妖気の雷玉を作り出し、妖気纏う欠片をその雷玉の爆ぜによる勢いにて撃ち出し妖喰い使いらを追い詰めていたのである。


 しかしそれも、にわかに式神・刃白に乗り現れし刃笹麿の術に防がれ、今に至る。


「私に知らせぬようにするとは……水臭いぞ!」

「す、すまぬ……ここは、妖喰い使いらだけであの妖を討ちたくてな。」


 刃笹麿の叱責に、頼庵は弁明する。

 この場にこれまで刃笹麿がいなかったことは、そういう訳である。


「私もまた、あやつを倒さねばならぬ! 半兵衛とは浅からぬ縁があるのだ、そなたらにも負けぬほどにな!」

「阿江殿……」

「あ、阿江様! 次が来ます!」

「くっ、火炎招来、急急如律令!」


 頼庵と刃笹麿の話を遮らんばかりに、またも両面宿儺より妖気纏う欠片が放たれる。


 またも刃笹麿は炎纏いし結界にてこれを防ぐ。


「ありがとうございます!」

「ああ、何のこれしき……しかし、このままでは奴を攻められぬな。」


 白布の礼に刃笹麿は事も無げに返す。

 が、やはり結界の後には退がらねばならず歯軋りする。


「それにそなたら……あわよくば、この戦をやり過ごせればなどと思っているのではないか?」

「なっ!」

「え?」

「な、何をおっしゃいます!」


 刃笹麿からの思いがけぬ言葉に、頼庵・広人・夏・白布・刈吉は驚く。


「(戦場で、呆けるなっての!)」

「くっ、火炎招来! 結界封魔! 急急如律令!」


 しかし、両面宿儺はその隙を見逃さず。

 またも妖気の雷の爆ぜによる欠片の撃ち出しを仕掛ける。


 刃笹麿は再び炎纏いし結界によりこれを防ぐ。


「時はないので今ここにて問う。……そなたら、誠にあの妖を、半兵衛を! 討つ腹は決まりしか?」

「さ、左様なことは!」

「当たり前であろう!」

「は、はい!」

「わ、我らもでございます!」


 刃白を再び退がらせつつ、刃笹麿は皆に問う。

 広人・夏・白布・刈吉らはこれに答える。


 しかし。


「嘘は吐かずともよい! 先ほどから何じゃ? あの妖を攻めんとししは初めのみで、後はただ防ぐのみではないか!」

「うっ……」

「それは……」

「あ、あの妖めの力が強すぎ、後手に回らざるを得なかったのでございます……」


 刃笹麿のこの叱責に、広人・夏は返す言葉無しと言いし様である。


 白布はどうにか、皆を庇わんとするが。


「左様な言い訳を聞きたい訳ではない! ……殊に頼庵殿よ。何故そなた、一言も話さぬ!」

「……⁉︎ そ、それは……」


 刃笹麿はまたも一喝し、次には頼庵に詰め寄る。


「そもそもあの妖に射掛けし殺気の矢だとて、射返されし妖気の矢に打ち負けていた。……手を抜いていないと心から言えるか?」

「そ、それは……」

「(いつまで話してんだ!)」


 しかしまたも、両面宿儺は妖気纏いし欠片を放つ。


「火炎招来、急急如律令!」

「(くっ、また防ぐか! ……しかし、退がり過ぎじゃねえかい?)」


 半兵衛は笑い、その意を受けし両面宿儺も口の端を上げる。


 既に刃白は、かなりの間合いを取っていた。


「(じゃあよ……とっておきの大きいのお見舞いしたらあ!)」


 両面宿儺はまたも、妖気を刀に纏わせる。

 そうして妖気の刃を伸ばし、そのまま自らの乗りし家を叩き割る。


 舞い上がりしは、家の半分である。


「(さあ……終わりだ!)」


 半兵衛は両面宿儺の目により狙いを定める。

 たちまち左腕に構えし妖気の弩の後ろ側にはとてつもなく大きな、妖気の雷の玉が形作られる。


「あ、あれを撃ち出すというのか!」

「く、防がねば!」

「待て! 防ぐのでは我らは刃白諸共撃ち砕かれるぞ! ……時がないので今すぐ答えよ。そなたらにあの妖――一国半兵衛を葬り去る腹は決められるか⁉︎」


 刃白の背に負われし屋形の中にて右往左往する妖喰い使いらを宥め、刃笹麿は彼らに問う。


「……うむ!」

「無論!」

「はい!」

「はい!」

「……無論である!」


 少しばかり躊躇いし後、広人・夏・刈吉・白布、そして頼庵の順に答える。


 見し所、もはや悩んではいられぬが故の腹決めか。

 しかし、刃笹麿が先ほど言いし通りもはや時はない。


 よってもはや、その言葉を信ずるより他なし。


「ならば……皆! 私の陰陽術と白布殿のまじない、そして皆の妖喰いを使い攻めるぞ!」

「応!!!」

「はい!!」


 刃笹麿の呼びかけに、皆が答える。





「(ふん! 何をごちゃごちゃと……これで終わりだ!)」


 何やら妖喰い使いらが話し合う様を遠目に見し半兵衛であるが、もはや相手には抗う術なしと見て妖気の雷玉を爆ぜさせる。


 たちまち番えられし妖気纏いし家は、そのまま凄まじき速さにて刃白とそこにいる妖喰い使いらに迫る。


 その勢いにより、撃ち出しし弩も爆ぜてしまう程である。


「(さらばだ……妖喰い使い共お!)」


 半兵衛の強き心の叫びは、両面宿儺の口より誠に咆哮となり出る。


 綾路の仇、今こそ――



「今だ! ……火炎招来、結界封魔! 結界変陣、攻呪! 急急如律令!」

「……kyxagxe()ixomyxun()uxo() ywxobuy()wxobu! gxe(仇を)baywxan(焼き尽くし) ixe(たまえ)!」


 刃笹麿・白布はそれに抗せんと、まじないを唱える。


 たちまち刃白の前には燃え盛る結界が出来、やがてそこより炎の渦が起こる。


 その渦の後ろにて、炎が膨らみ爆ぜる。


 その勢いにて渦はそのまま、伸びて行き。

 迫る妖気纏いし家の欠片へと迫る。


「(ふん、俺の技を真似たか……しかし所詮は……⁉︎)」


 自らの技を真似し所で、所詮は真似。

 及ぶはずがない。


 そうたかを括りし、半兵衛であったが。


「はあっ!」


 何と、妖気纏う家の欠片が妖喰い使いらの起こしし炎の渦とぶつかり。


 それにより爆ぜし煙の中より。


「頼庵! 誠にそなた行けるのか? 私が行こうか!」

「よい、広人! 私が行く!」

「うむ、ならばしっかりやれ!」

「頼む、頼庵!」


 刃白より放たれし殺気の槍先に、夏の力による鱏の形の殺気が広げられ。


 その上に乗りし頼庵が、踊り出る。


「うおお!」

「(くっ、攻めるに事欠いて殴り込みか! 今弩に次を番える時はない……止むを得んてかい!)」


 半兵衛の意を受け。

 両面宿儺は、その左腕に握る妖気の刀を構える。


 もはや、直に刃を交えるより他なしである。




「ぐおおお!」

「がああ!」


 頼庵は翡翠の殺気纏わせし刀を抜き。

 殺気の槍に尚も乗りしまま、両面宿儺に迫る。


 両面宿儺もそれにより、殺気の槍に乗り。

 互いの刃を打ちつけ合いし後、飛び降りる。


 殺気の槍先は先ほど両面宿儺により抉られし家に当たり、家が爆ぜる。


「さあ……お覚悟!」

「(ぐっ……! 中々の使い手だな!)」


 頼庵は両面宿儺に受け止められ、防がれし自らの刃を再び振り上げ、振り下ろす。


「(くっ! おうりゃ!)」

「がああ!」


 半兵衛の意を受けし両面宿儺は言いながら身ごと躱すが、すぐさま次の刃が迫り、再び自らの刃にて受け止める。


「今は戦の時! 語るならば刃にて語ろうぞ!」


 頼庵は三度、四度と刃を振り下ろす。その度に両面宿儺は防ぐが、これでは守るのみである。


「どうしました、さあ! ……あなたらしくもないですよ、この腹の決まらぬ者めが!」


 そんな両面宿儺を嘲り、汗を散らしつつ頼庵は尚も刃にて攻め続ける。


「(らしくもないだと? あんた俺の何を……まあいい、そこまで言われては、お望み通りにって所か!)」


 両面宿儺は次に来し頼庵の刃を、大きく振り払い、すかさず頼庵の懐に入らんとする。


 しかしどことなく、両面宿儺――の中の半兵衛は懐かしさを覚えていた。


 それは頼庵にではなく、その太刀筋にである。

 これはどこかで――


「甘えなさるな!」


 頼庵も素早く刃を構え直し両面宿儺の刃を受け止め、かと思えば大きく振り払い、間合いを詰める。


「(そっちこそ!)」


 半兵衛は少しばかり呆けしことに恥入る。

 そしてその意を受けし両面宿儺は頼庵の刃を受け止める。


 そして強く振り払い、再び頼庵へ迫る。


「何を!」


 頼庵はまたも防ぐ。

 そして先ほどと同じく、両面宿儺の刃を振り払い――


 お互い一歩たりとも引かぬ。


「(中々やるねえ……だが! そろそろだあ!)」


 半兵衛は頼庵に怒り、その意により両面宿儺は刃にて迫る。


「そう来なくては……我らが主人よ!」


 頼庵は刃を防ぎつつ、再び半兵衛に迫る。


「(主人い⁉︎ 何を言ってやがるあんたは!)」


 頼庵の両面宿儺に振り下ろされし刃は、両面宿儺に防がれる。


「(あんた……何を知っているってんだ!)」


 両面宿儺は頼庵の刃を防ぎ、次に攻めつつ問う。

 しかし、問うと言えども頼庵には妖の咆哮にしか聞こえず。


「(戯言抜かしてんじゃねえ!)」


 この両面宿儺の攻めを受け止め、次に頼庵は大きく振り払い、間合いをとる。


「ああ、知っておる!」


 しかし頼庵には果たして、その意が伝わっていた。


 頼庵は後ろに一度下がりしと思えば、次には先ほどより勢いをつけ、両面宿儺へ向かい来る。


「かような心持ちで当たるべきではないとは承知しておる! ……しかし! どうか、思い出してはくれませぬか! 我らが主人……半兵衛様よ!」

「(何⁉︎ )」


 頼庵の刃を妖気の刃にて受け止めつつ、半兵衛は心乱れる。


 主人? 先ほどからこの妖喰い使いは何を言っておるのか。


 しかし、この太刀筋は――



 その刹那、半兵衛の心に蘇りしは。

 かつて、都を水上兄弟が初めて訪れし時。


 そして兄弟は伊末・高无らに騙されており。

 半兵衛を父・義夕の仇として討たんとしていた。


「我らは、過ちを犯しているやも知れぬ! そして兄として、弟にさようなことはさせぬべきであったやも知れぬ!」


 内裏の中にて頼庵が、帝を襲うさなか。


 勢いに任せ振り下ろされし義常の刃に、半兵衛も思わず少し退く。


「であるが、止められぬ! 自らも、弟も! であれば進むのみよ! この戦が我らが進むべきか否か、教えてくれようぞ!」


 義常は再び続けざまに、自らの刃にて半兵衛の刃を幾度も、打つ。


 半兵衛は、またも押される。


 あの時交えし、義常の刃。

 頼庵の刃は、まさに同じ太刀筋であった。



「ヨ……シ……ト……コ……サン」

「⁉︎ 半兵衛様! 皆、半兵衛様が思い出を取り戻されたぞ!」

「な、何⁉︎」


 頼庵は両面宿儺の口より出し兄の名に、半兵衛が思い出ししことを感じ。


 離れし所にいる皆に、伝える。


「ヨ……リ……イ……オ」

「半兵衛様……なるほど、妖の口にて人の言葉を話すことは辛いのですね。ならば……心空し!」

「が、がああ!」


 頼庵の技は、使わなくなり久しき心空し。

 自らの心を相手に写し、相手の心を自らに写す技である。


 ――頼庵?


「半兵衛様……戻られたのですね。」


 ――ああ……でも、俺は……


「ええ、妖として我らと……しかし、お落ち着き下さい! 我らは」

「ぐ……がああ!」

「⁉︎ は、半兵衛様!」


 しかし、それも長くは続かぬようである。





「まさか……あの妖が!」

「ううむ……あの水上の弟御、要らぬことをしてくれましたわね……」

「ど、どうすればよい!」


 戦場より少し離れし、長門兄妹と向麿の陣にて。

 半兵衛の思い出が戻るなどという思いの外であることが起き、揺らぐ兄妹であるが。


「案じなさんなや……ここはそれがしが思い出したるさかいに!」


 そうは問屋、ではなく薬売りがおろさんとばかりに。


「さあ……思い出すんや半兵衛! それはあんたの半身をもぎ取りし者やで……さあ、殺せ!」


 半兵衛の魂に、呼びかける。





「半兵衛様!」


 ――くっ、綾路を……俺の半身を捥いだお前らを……許……いや、頼庵!


「半兵衛様!」

「半兵衛!!!」

「半兵衛様!!」


 頼庵・刃笹麿・広人・夏・白布・刈吉が叫ぶ。

 今半兵衛は畜生道での妖としての半兵衛と、人間道での妖喰い使いとしての半兵衛の間にて揺れ動いておる。


 ――ぐうう……がああ!


「半兵衛様!」

「危ない、頼庵!」


 両面宿儺は先ほど降ろしし、妖気の刀持ちし右腕を振り上げる。


 そしてそのまま、頼庵を仕留めんとし――


 ――がはっ!


「……え?」


 しかし、頼庵が見れば。

 妖気の刀は、両面宿儺の足元に転がりし。


「なっ……紫丸を!」


 両面宿儺は、いや半兵衛は、自らを刺したのである。

 妖喰い使いとしての愛刀・紫丸にて。


「な、何故……?」


 ――何故? そりゃあもう面倒は掛けらんねえからさ。頼庵に、な。


「は、半兵衛様!」

「半兵衛!!!」

「半兵衛様!!」


 再び皆が叫ぶ。


 ――やれやれ……刈吉さんと白布ちゃん久しぶりだな。大方、勝手に抜け出したんだろうなあ悪い奴らめ! ……いや、俺に言えた義理はねえか……


「半兵衛様は我らの主人! ならばどうか……必ずお戻り下さい! この無限輪廻より。」


 ――無限輪廻? ……なるほど、あの死神の嬢ちゃんもそんなことを……ああ、何か分からねえが分かった! 必ず戻るよ。


「半兵衛様!」


 ――頼庵。あんたもう、太刀筋は兄者に追いついて来てるよ。……後は、超えろ!


「な……そ、そんな、私は!」


 ――じゃあな。


「……⁉︎ は、半兵衛様!」


 両面宿儺より来るその言葉を終いに。

 その身体は血肉となり、たちまち紫丸の青き殺気をその混じりにより紫と化す。





「……もはや、用無しや。行きましょか。」

「うむ。」

「う、うむ……」

「はい……」


 長門一門は興が削がれしとばかり、その場を後にする。





「半兵衛様……」

「半兵衛……」

「半兵衛様!!」


 頼庵・刃笹麿・夏・広人、そして白布と刈吉は。

 半兵衛の畜生道での最期を、看取る。


 両面宿儺のいし跡にはただ、紫丸の紫に光る様のみが残る。


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