表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第9章 転生(無限輪廻編)
149/192

弩撃

「(よく面出してくれたなあ……さあて、どう借り返さしてもらうべきか!)」


 屋根の上より、下に集まり自らを見上げる妖喰い使いらを見つけ。


 半兵衛の心は、憎しみにて燃え上がる。

 その意を受けし両面宿儺の身体は、吼える。


 夜空に響き渡る程に。


 半兵衛が死神・綾路を介し地獄の十王より受けし罰・無限輪廻。


 それは、かつて人間道にて暮らしし日々を忘れ、六道を輪廻転生し続けるという苦しき罰であった。


 そのまま天道・阿修羅道・餓鬼道での苦しき日々を送り。

 今畜生道では事もあろうに、二人が左右にて繋がりしが如き二面四臂の妖・両面宿儺へと転生している。


 しかし、その姿は誠であればの話である。

 今は、両面宿儺の右側を妖喰い使いらにより屠られてしまい左側のみになっている。


 先ごろ長門一門の薬売り・向麿も言いしことであるが、今は片面宿儺とも言うべき姿である。


 しかしその半身をもがれし痛みは今、かつて仲間であった妖喰い使いらを憎み仇を取らんとする訳になっている。


「皆、分かっていると思うが……あれは」

「うむ!」

「ああ!」

「はい!」

「はい!」


 頼庵の呼びかけに、夏・広人・白布・刈吉は答える。

 その声を聞く限りにては、迷いは見てとれぬ。


「杞憂であったか……ならば皆よ! あの妖を倒すぞ!」

「応!!」

「はい!」

「はい!」


 頼庵は再び皆に呼びかけると共に、翡翠に殺気の矢を番える。


 他の妖喰い使いらや白布・刈吉も構える。


「(ほほう、矢を射掛けるか? ならば……こっちも同じように行かせてもらわねえとなあ!)」


 両面宿儺の目よりこの様を見し半兵衛は、たちまち妖気を練り上げる。


 妖気は、弩の形となる。


「さあ妖い、喰らえ!」

「(こっちの言葉だ、喰らえ!)」


 頼庵と両面宿儺は、ほぼ時を同じくして片や殺気の矢を、片や妖気の矢を放つ。


 それぞれより放たれし矢は、宙にてぶつかる。


「く、まだ足りぬな!」

「(まだ足りねえな!)」


 これでは戦は決せぬと見し頼庵と両面宿儺は、再び互いに矢を放つ。


 再び妖気の矢と殺気の矢が、ぶつかり合う。

 しかし。


「くっ!」

「(ははは、僅かに俺が放った矢が上だったか!)」


 数多の殺気の矢と数多の妖気の矢は競り合いの末、妖気の矢が打ち勝ち妖喰い使いらに迫る。


「案ずるな、頼庵! ……紅蓮、剣山!」

「はあっ!」


 呆けし頼庵の前に広人、夏が出る。

 広人は殺気の剣山、夏は鱏の形の殺気にて迎え討つ。


 たちまち妖気の矢は尽く、防がれる。


「さあ頼庵!」

「早く、新たに矢を!」

「……何?」


 広人・夏の促しに頼庵は、間の抜けし声を出す。


「どうしたのだ、頼庵!」

「そうだ、戦で呆けるなど」

「皆様、危のうございます!」

「えい!」


 呆けし頼庵におかしき様を見し広人・夏は頼庵を促すが。


 その内にも三度、妖気の矢が放たれる。


「(戦場で呆けるなんざ、死にたがりがやることだ!)」

「ぐっ、殺気剣山!」

「はあっ!」

「くっ、捌き切れませぬ!」


 白布の呼びかけにより刈吉が黄金丸により防がんとし、それに続き広人・夏も前に出る。


 しかし先ほどとは異なり遅きに失ししがため、妖気の矢は彼らの抗いをすり抜ける。


「くっ!」

「こ、これは……」

「ふ、防ぎ切れませぬ!」


 妖気の矢を数多避けつつ、避け切れぬ妖喰い使いらは幾らか矢を喰らう。


「はっ! み、皆!」


 その様に、防ぐ皆の後ろにて先ほどまで呆けし頼庵はようやく気づく。


「よ、ようやく気づいたか……」

「しかし済まぬ! これだけの妖気の矢は」

「くっ!」

「す、すまぬ……」


 広人・夏・刈吉らの傷つきし様に、頼庵は恥入る。

 やはり、自らでは兄には――


「皆様! 妖気の三の矢は既に番られているようでございます!」

「くっ、ならば」


 しかし、ここは戦場である。

 いつまでも呆ける訳にはいかぬ。


「皆様、お待ち下さい!」

「? し、白布殿?」


 白布がそこにて、再び立ち向かわんとする皆を止める。


「私に考えがございます! 皆様、半……ではなく、あの妖を川に引きつけて下さいまし!」

「か、川にか……? 承知した!」


 にわかなことにて驚く妖喰い使いらであるが、ひとまずは白布の策に乗らんと動き出す。


「(何だ? ……おいおい、逃げるってかい!)」


 半兵衛は両面宿儺の目によりこれを見咎め、ため息を吐く。


 よもや、都を守る妖喰い使い共がここまで――


「(……っ! 何だ……今のは)」


 しかし、半兵衛は頭に痛みを覚え。

 この意を受けし両面宿儺は頭を抑える。


 そして、その痛みは告げる。

 あの妖喰い使いらはただ逃げるようなことはせぬと。


「(何だか分からないが……なるほど、何か策があるだろうってか。……いいだろう、ひとまずはその策に乗ってやるよ!)」


 半兵衛は逃げる妖喰い使いらを尚も両面宿儺の目にて捉え。


 その妖気の弩を、ひたすら妖喰い使いらに向け続ける。





「よし、鴨川じゃ!」

「皆様、お入り下さい!」

「う、うむ……」


 またも妖喰い使いらは戸惑いつつも、白布に促されしままに鴨川に入る。


「(ふん、何かと思えば……これで終わりだ!)」


 その様を見し半兵衛は、もはや付き合う義理はないとばかり、弩に番えし妖気の矢を放つ。


 矢はまたも数多に分かれ、鴨川にいる妖喰い使いらに襲いかかる。





uwxa()ixomyxun()uxo()、ywxobuywxo()bu! uxai(我らを)sikxon(お助け) ixe(下さい)!」

「な、何?」


 白布の蝦夷の言葉によるまじないに、頼庵らは戸惑うが。


 たちまち川より水柱が立ち、それが妖喰い使いらを取り囲む。


「こ、これは……お?」


 頼庵らは驚くが。

 取り囲む水は、妖気の矢を撥ね付けていく。


「uxaixomyxunuxo……水の神の助けでございます!」

「我ら蝦夷に伝わる、まじないでございます!」

「お、おお……」


 目を輝かせ話す白布、刈吉に、頼庵らは今一つ解せぬままではあるが感心する。


「(防いだか……だが防ぐなよ、綾路を屠ったお前らがよお!)」


 半兵衛はその様を見下ろし、怒りを強める。

 その意を受けし両面宿儺は、右腕に握る妖気纏う刃を一度鞘に収め、自らの左にある傷に触れる。


 既にいくらかは癒えているが、癒え切りはせぬその傷と心故に尚も疼いている。


「(防ぎようのない矢を、次こそあいつらに……ん!)」


 しかし、またも半兵衛は頭の痛みを感じる。

 その痛みにより頭に浮かびしは。


「(な、鉛の玉が……手元で起きた爆ぜで飛ぶ様だと!)」


 それは、他ならぬ阿修羅道の思い出。

 無論、半兵衛はその全てを思い出せる訳ではないものの、これは良きものを得たとばかり。


 すぐにその頭は、それをどうすれば使えるかという考えに向け動かされている。


「(よし……ならこれだ!)」


 半兵衛の意を受けし両面宿儺は、またも動く。

 たちまち、先ほど鞘に収めし刀を抜き。


 再び妖気を纏わせ、自らが今乗りし屋根に叩きつける。


 たちまち瓦や木の欠片が舞い上がり、その内大き目の欠片に妖気が纏わされる。


 そして左腕の弩には、妖気の雷を玉の形にししものが。


「(さあて……綾路を屠ってくれた借り、ここでしかと返させてもらうぞ!)」


 半兵衛の意は両面宿儺の左腕に伝わり、たちまち妖気の雷の玉はその手元にて爆ぜる。




「⁉︎ な、何だあれは」

「くっ、gyxosi nwxuki、uxaixomyxunuxo ixe!」


 鴨川の妖喰い使いらは、またも両面宿儺より繰り出されし攻めに気付く。


 白布はまたも水の神に願う。

 そうしてまたも、水が彼らの盾となるが。


「うわっ!」

「皆様、お退き下さい!」


 たちまち先ほどの矢など比べ者にもならぬ勢いにて撃ち出されし欠片は、水の守りをも容易く撃ち抜く。


 かろうじて妖喰い使いらは避けつつ、退がる。


「(おいおいどうした? そんなもんかよ!)」


 自らの攻めに妖喰い使いらが苦しむ様を見し半兵衛は、僅かばかり溜飲の下がりし思いであるが。


 それでもまだ足りぬとばかり、再び妖気の刃を屋根へ打ちつけ、欠片に妖気を纏わせ弩に番える。


「(喰らいやがれえ!)」


 再び弩の後ろ側にて妖気の雷が爆ぜ、その勢いにて放たれし欠片は矢など比べ者にもならぬ威を帯びて妖喰い使いらを襲う。


「くっ、殺気剣山!」

「はっ!」

「uxaixomyxunuxo、ywxobuyxobu……」

「くっ!」


 広人・夏・白布・刈吉も尚退がりつつではあるが抗いを見せる。


 しかし、やはり放たれし欠片の勢いたるや凄まじく。

 尽く妖喰い使いらの守りを、撃ち抜いていく。


「ぐああ!」

「皆!」


 頼庵は皆の後ろにてそれを見つつ、自らも矢を射んとするが。


 何故か腕が、上がらぬ。


「(兄者ならば……やはりあれを討てるのか! あれを、あの妖を半兵衛様と知りつつも、討てるのか!)」


 頼庵の中は、亡き兄に及ばぬのではという恐れにより満たされていた。






「やはりよほど、半身をもがれし痛みとやらが堪えとるんですなあ!」


 向麿は笑う。


「ええ、そうですわね……そう、半身をもがれし痛み。それこそお前の最も思い出すべき痛みですわ一国半兵衛……」

「? 何?」


 影の中宮が零しし言葉に、それを聞き取りし伊末は首を傾げる。


「……しかし、拍子抜けですわね。あわよくばあれにて妖喰い使いらは戦えぬ様を眺められるかと思いましたのに。」


 しかし影の中宮は次には事も無げに続ける。


「いや、左様でもなさそうであるぞ。……まあ他の者はともかく、あの水上の弟御は今、後ろにて指を咥えておるではないか!」


 伊末も先ほどの引っ掛かりは一度置き、妹に言う。


「なるほど……兄上におっしゃられしこと、あの者に堪えしようですわね。」

「ふん……まったく、あれしきの言葉ごときでこの有様とはな。」


 影の中宮の言葉に、伊末は面白くないと言いたき顔をする。


「まあよい……前にそなたにも言いし通り薬売りよ、あの者らも、あれしきで終わるならば所詮それまでということよ。」

「ほほほ……いやしかし、そうでもないようやで?」

「何? ……ほう。」


 声をかけられし向麿が指し示しし方を眺めれば。

 そこには――






「火炎招来、結界封魔! 急急如律令!」

「ん!」

「あ、阿江殿!」


 声が響き、炎纏いし結界が妖喰い使いらを囲む。

 時同じくして、鴨川の中より刃笹麿を乗せし式神・刃白が浮かび上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ