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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第9章 転生(無限輪廻編)
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畜生

「ん……? ここは……」


刃笹麿は目覚める。

見渡しし所、ここは自らの屋敷のようである。


半兵衛が死神・綾路による地獄の十王による裁定の執行により、無限輪廻の罰に処され既に幾日か経ち。


残されし頼庵らに憂いが漂う中、妖・野鉄砲との戦となった。


少しばかり苦しめられし後、ようやく屠ったのであるが。


そのすぐ後に刃笹麿は、にわかに激しき頭の痛みを感じた――所までは覚えている。


しかし、そこより先が思い出せぬ。


「私は……?」

「おやおや! よくぞお目覚めで!」

「? 上姫か……」


そこへ、刃笹麿の許嫁たる上姫がやって来る。


「刃笹麿様! お身体の具合は?」

「ああ……すまぬ、それが……自らが何故ここにいるのかも分からぬ有様でな。」

「おやおや……頭を痛みにて抱えられた後、にわかに倒れてしまわれたのです。それをあの妖喰い使いらめが、運んで来てくれたのです。」

「ああ、そうであったか……」


刃笹麿は上姫のその言葉に、僅かながら思い出す。

そうだ、あの妖を屠りし後ににわかに頭の痛みを覚え。


その時に浮かびしは――


「……そうだ、半兵衛の見し有様……」

「え? あの半人前がどうかなさいましたか?」

「あ、いや……何でもない。……それより上姫。先ほど、私に身体はどうかと尋ねたが」


刃笹麿は上姫に言葉を返す。


「……そなたこそ、自らの身体を労われ。そなただけの身体ではないのだからな。」

「……はい、刃笹麿様。」


刃笹麿は上姫を労る。

その腹は、膨らんでいるのである。


未だ半兵衛のことは気がかりであるが。

今は、時折見えるあの様も何か分からず、考えても致し方なかった。


しかし、その半兵衛は――







「しかし、薬売りよ。此奴はあの妖喰い使いなのだろう? 我らに牙を剥いたりはせぬのか?」


高无が向麿に尋ねる。

所は長門の屋敷にて。


今まさに、半兵衛が転生しし妖・両面宿儺を前に長門兄妹と向麿が話し合っている。


「ほっほっほ、なあに心配要りませんわ! 此奴が人間道その他の六道で生きとった頃の思い出はもうありませんし、今此奴は……畜生の身に生まれし者としての使命に燃えていますわ!」


向麿は笑いつつ、半兵衛いや、両面宿儺を見る。

両面宿儺の左側。


そこからは今の向麿の言葉に応えるがごとく、咆哮が響き渡る。


「お、おお……」

「これはこれは。」

「ほほほ……これは我が鬼神一派いえ、我らが鬼神様の為に働いて貰えそうですわね。」


長門兄妹は両面宿儺のその有り様に、笑う。


「ほっほっほっほ! 待っていて下さいな、此奴は応えてくれますさかいに。……なあ、両面宿儺よ?」


向麿は両面宿儺に、問う。


「(……無論だ。この力、妖として思うがままに振るい、仇を倒しまくるまで!)」


問いに、両面宿儺の中の半兵衛は殊更、強き咆哮を返す。


「よおしよおし……じゃ、これやるわ。」


そう言い、向麿が差し出ししは。

一振りの、刀であった。






「くっ、妖はどこか⁉︎」


頼庵・夏・広人は都の一角にて周りを見回す。

妖気をにわかに察し、駆けつけてみれば。


その妖がいないとは。


「頼庵、これは……」

「⁉︎ そこか!」


頼庵は再び気配を感じ、その元と見做しし所に殺気の矢を放つ。


果たして、そこより影が飛び出して来る。


「あれか!」

「来い!」

「何やら奇しき姿の妖であるな!」


頼庵・夏・広人は身構える。

それは二面四臂。


二人の人が合わさりしがごとき、頼庵の言葉通り奇しき妖である。


この妖の名は無論、両面宿儺。


「先ほどは外したが……喰らえ!」


頼庵は再び、殺気の矢を放つ。

しかし、両面宿儺は再び躱す。


「くっ! 動きが速い!」

「皆、ならば!」


頼庵らは円陣を組む。

動きの速き妖ならば、この前の野鉄砲を倒ししばかりである。


「妖め、舐めるな!」


広人は再び迫り来る両面宿儺に向け、剣山を繰り出す。


たちまち地より生えし殺気の剣山は、両面宿儺の攻めを防ぐ。


「ぐあっ!」

「ふん、見たか!」


広人は跳ね除けられし両面宿儺相手に、ふんっと鼻を鳴らす。


「(くっ……何だこりゃ、邪魔臭えな!)」


両面宿儺――の中に宿りし半兵衛は歯噛みする。

今は妖。


かつての仲間と戦わねばならぬことすら、知らぬ有様である。


よって相手がかつての仲間であっても、半兵衛は手抜きせぬ。


「(よおし……こちらの武を見せてやろう!)」


両面宿儺は向麿より受け取りし刀を、鞘より抜く。

そして、その刃に纏わせしは――




「なっ、殺気の剣山を!」


広人は殺気の剣山が斬られしことに驚く。

いや、それに加えその刃を見て驚く。


「よ、妖気を刃に⁉︎」

「くっ、前の鬼童丸と同じか!」

「よりにもよって……」


両面宿儺の刃に妖気が纏われし様を見て、広人のみならず夏・頼庵も驚く。


「(呆けているんじゃねえ……人共が!)」


両面宿儺――いや、半兵衛は妖喰い使いらが呆気に取られし様を見て、隙を逃すまいとばかり。


そのまま妖気の刃を伸ばす。


「くっ!」

「させるか!」

「⁉︎ な、夏殿!」


その妖気の刃は広人を捉えんとするが、すんでの所にて夏が殺気の爪にて防ぐ。


「(ほう……こりゃあ中々やるな! なら……これはどうだ!)」


両面宿儺の中の半兵衛は、ならばと次の手を繰り出す。


「ぐあっ!」

「夏殿!」

「一度退がるぞ!」


その次の手として、妖気の刃は雷を纏う。


「あれは……まさか殺気の雷までも!」

「くっ、そんな!」

「な、何という妖か!」


頼庵・夏・広人は両面宿儺より間合いを取りつつも、事ここに至り相手の力に恐れ慄く。


殺気の雷を、妖気の雷という形にて真似るとは。

これは、誠にただの妖ではない。


「しかし……ならばこちらとて!」


妖気の刃は尚も雷を纏いしまま、伸ばされる。

広人もそれに抗い、雷纏いし殺気の槍を伸ばす。


二つの雷が、ぶつかり合い、時に爆ぜる。


「ぐう、この!」

「はっ!」

「はあっ!」


夏や頼庵も、それに続かんとして。

頼庵は雷を纏う数多の矢を、夏は雷纏う爪を伸ばす。


たちまち妖気の刃にそれらも、ぶつかる。


「(くっ! なるほど……同じ手なんてな。でも、何故かは知らねえけど……俺は分かる! あんたらがどんな手を繰り出して来るかがなあ!)」


半兵衛はまたも両面宿儺の中にて考える。

何故か、妖喰い使いらの手の内が読めるように感じられるのである。


無論、半兵衛が仲間の技を知っていることは然るべきことなのだが。


やはり天道・阿修羅道はおろか人間道の思い出をも失っているために今の半兵衛は、妖に過ぎぬのである。


「(さあて……次はこうしなけりゃなあ!)」


両面宿儺は、刀を握るその腕の力を強める。




「くっ、何だ!」

「よ、妖気の刃が弱って……?」

「い、今だ!」


にわかに妖気の刃が弱まりし様を感じ、頼庵らは戸惑いつつも。


これは好機とばかりに、今伸ばしている雷纏いし殺気にて押し切らんとする。


「ぐおおお!!」


そして、やがて殺気の槍・矢・爪は妖気の刃を押し切り。


両面宿儺の元まで届き、爆ぜる。


「よし!」

「やった!」

「いや待て、何かおかしい!」


妖喰い使いらが勝ちしかに思えた、その時であった。


「ぐっ! 雷が!」

「う、上か!」


頼庵・夏・広人が空を見上げれば。

飛び上がりし両面宿儺が、刀より妖気の雷を放ちつつ落ちて来る。


「くっ、避けるぞ!」

「ぐっ!」

「ちいっ!」


頼庵・夏・広人は急ぎその場より離れんとする。

すんでの所にて、両面宿儺の降り立ちを避ける。


「(避けたか……やはりやるねえこの奴ら。……だったら、より力を高めて行かねえとなあ!)」


両面宿儺の中の半兵衛は、すっかり戦いを楽しみつつある。


しかし片や、頼庵ら妖喰い使いらは。


「くっ……この妖め!」

「これは、手強い……」

「どうすれば……」


両面宿儺相手に、張り詰めし様である。

半兵衛とは違い、戦を楽しむゆとりなどない。


「(何だいその顔……そんな張り詰めていちゃあ、戦では勝てねえぜ!)」


両面宿儺の中にて半兵衛はまた、妖喰い使いらに狙いを定める。


たちまち両面宿儺は再び、動き出す。


「がああ!」

「くっ、向かい来るぞ!」

「いや待て……そう言えばあの妖……皆! 彼奴の右側を狙え!」

「なっ!」

「何! ……承知した!」


しかし迫る両面宿儺を前に、夏の言葉にて頼庵・夏・広人はその言葉に従い動き出す。


そう言われれば、あの二面四臂の妖でこれまで動いていたのは、左の一面二臂のみ。


ならば、そこを――


「(なっ⁉︎ しまった、右側を!)」


妖喰い使いの動きが自らの右側に向かい来るものと悟り、半兵衛も慌てる。


そういえばそちらは――


「ぐう!」

「こ、これは……」

「妖気の、槍⁉︎」


しかし、頼庵らが驚きしことに。

それまで何の動きもなかった右側の腕が、二臂共に動き出し。


妖気の槍を創り出し、頼庵らの攻めを防いだのである。


「(なっ、これは……)」


半兵衛もこれには、驚いている。

と、その時。


「(〇〇〇〇、ご安心を。右側はこの私であります故に。)」

「(……綾路、か。)」


両面宿儺の右側より、意が伝わる。

それと共に両面宿儺左の顔の目――引いては、半兵衛の目に浮かびしは。


あの死神・綾路と同じ姿。

無論その思い出なき半兵衛には、それは分からぬ。


さておき。


「(さあて……改めて死合おうか!)」


半兵衛のその意と共に、妖気纏う刀を握りし両面宿儺の左側にも、力強さが現れる。





「ふう、ふう……おお、都が見えて来たぞ!」


奥州より都へと、駿馬と金を供物として納めるべく旅路を急ぐ、氏原秀原の家臣らがいた。


「ふう、駿馬はともかくも……金は重くて敵わんな!」


家臣の一人が、漏らす。


「まあそうであるな……しかし、何やら金のみにしてはちと多すぎる気が。」


他の家臣は首を傾げる。

これは、間違いではない。


金の他にも、()()が紛れていたのである。


「しかし白布……よくもまあ思い切って。」

「全てはこの黄金丸――半兵衛様が名付けて下さったこの刀のお導きによるもの! ……刈吉、あなたはついて来なくともよいと」

「……できる訳なかろう?」


この供物に紛れ都に向かうは。

かつて奥州にて半兵衛と共に戦いし、白布と刈吉である。


「その黄金丸を持っているからとて……武の心得なきそなたでは使えぬであろうに。」

「それは……そうですが。」


刈吉のこの言葉には、白布も返す言葉なしである。

白布は黄金丸を、握り締める。


「半兵衛様……待っていて下さい!」


白布は想いを、強める。

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