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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第8章 剣璽(神器探求編)
128/192

共闘

「くっ! これはもしや……鬼神一派あ!」

「なっ……鬼神一派!?」


九州にて。

にわかに現れ、セクマを始めとする隼人の民らを襲い始めし妖らを前に、鎮西八郎は叫ぶ。


奪われし神器を巡る戦。

その神器・剣があると目されし出雲・九州のうちこの九州にて。


剣と目される武具を持つ、鎮西八郎と広人の再びの戦が繰り広げられていたが、それは思わぬ邪魔立てにより止められる。


それは妖・禍や鬼たちによる邪魔立てである。

そして、それが何の差し金かを鎮西八郎は分かっている。


「鬼神一派あ! 話が違っておろう、未だ時はあった筈である! 何故今なのだ!」

「そなた……やはり鬼神一派と!」


鬼神一派に怒り狂い叫ぶ鎮西八郎をよそに、広人は彼に怒る。


薄々分かっていたとはいえ、やはり鬼神一派と此奴は繋がっていたか。


「答えよ! いることは分かっておる!」


鎮西八郎は広人の言葉が聞こえておらぬのか、尚も叫び続けている。


「そうですわね……しかし、鎮西八郎よ。これを見て分かりませぬか? 私たちも既に、付き合い切れぬということです。」

「何?」


果たして、鎮西八郎の声には影の中宮の言葉が返る。


「私たちにも、時はそこまでないということです……もう既に、十二分に待って差し上げましたわ。さあ早くしませんと、あなたや守るべき民は全て滅びますわよ?」

「くっ……おのれ!」


影の中宮の言葉に、鎮西八郎は歯ぎしりする。

できれば見境なく八つ当たりのごとく暴れたき心持ちであるが、ここで暴れれば。


たちまち今妖に襲われている隼人の民にも傷を負わせることになろう。


「悔しいが鎮西八郎! あの者の言う通りよ。今我らは、妖より隼人の民の方々を守らねばなるまい!」


セクマに襲いかかりし鬼の攻めを防ぎつつ、広人が訴える。


「ああ……そうであるな。」

「鎮西八郎、後ろ!」


広人の目には今、鎮西八郎の後ろより襲いかからんとする鬼の姿が。


「ああ……知っておる!」

「な、何!」


しかし、さすがは鎮西八郎と言うべきか。

後ろの鬼には一瞥もくれず、そのまま手にしし剣にてその鬼を斬る。


「ぐああっ!」

「それで後ろを取りしつもりか!」


鎮西八郎の剣の白き殺気は、そのまま鬼の血と混ざりて紅く――はならず。


そこは、元の殺気の色こそ同じくする紅蓮とは異なり、鬼の血肉の方を白く染め上げていく。


「あの殺気……やはり、あの剣は。」


元より疑っていた訳ではないが。

誠に、妖喰いに間違いない。


「さあ、妖喰い使い! そなたはツカヤを救え、ここは私が引き受ける!」

「し、承知した!」


言いつつ鎮西八郎は、次々と鬼らを蹴散らし広人が今攻めを受け止めている鬼をも剣により斬り捨てる。


「さあ行け!」

「頼む!」


広人は走り出す。

しかし、ツカヤが括りつけられし柱には鬼たちが群がり、ツカヤを振り落とさんとしている。


「う、うわああ! あ、主人様あ!」

「ツカヤ! このお!」

「ぐああ!」


泣き叫ぶツカヤを助けんと、広人は紅蓮の殺気による剣山を発する。


たちまち生えし幾多の殺気の槍が、群がる鬼らを突いてゆく。


「ケ、兄者(ケセケ)!」

「セクマ、伏せよ!」

「くっ!」


兄の身を案じしセクマを、鎮西八郎は守る。


「セクマ、私の側を離れるな! そなたの兄者はあのヒカヤとかいう奴に任せておけ!」

「くっ……あ、主人様が! かような戦をしなければ」

「……すまぬな、セクマ。」

「……っ! ……え?」


セクマは驚く。

あまりに兄を案じるあまりとはいえ、自らの主人に無礼を働いた。


このまま責められて然るべきと思っていただけに、これは思いの外である。


「皆も守らねば……これは単に私の独りよがりが招きしことよ。」

「主人様……」

「ふんんっ!」

「うわっ!」


自らの行いを悔いる鎮西八郎であるが、そうそう浸らせぬとばかり。


鬼らに慈悲などあるはずもなく、ひたすら鎮西八郎に襲いかかる。


「主人様!」

「ふんっ、これしきで!」


鎮西八郎は構わず、自らに向かう鬼らを次々と斬り捨てていく。




「ツカヤ、大事ないか!」

「あ、ああ……すまんヒカヤ!」

「私は何もない。……それと済まぬ。私は、ヒカヤではない。」

「へっ……?」

「私は、広人だあ!」

「ぐわっ!」


広人は名乗りつつ、柱よりツカヤを降し向かい来る鬼らを斬り捨てる。


「ひ、広人……? そ、そっか! は、ははは!」

「う、うむ……すまぬな。」


ツカヤは笑う。

広人はその笑顔を見て、彼に似し亡き友の方はここまで笑う者ではなかったと思う。


しかし、笑っている場合ではない。


「囲まれて……しまっただな。」

「ああ……」


広人は周りを見渡す。

周りは鬼らに、囲まれてしまっている。


いや、鬼らのみであればまだよかったであろうが。


「あれは……この薩摩に来し時の!」


頭の上には、件の妖・禍の姿も見える。


「ひ、広人?」

「……くっ、私とししことが。」


ツカヤが驚きしことに。

広人の身体は、ガクガクと震えている。


「案ずるな……ただの武者震いよ!」

「そ、そうか……」


広人は自らにも言い聞かせんと、言う。

ここで怯えても、仕方あるまい。


「紅蓮……剣山!」


広人の意に応え、紅蓮の殺気は刃の寄せ集めとなり四方八方に広がる。


これにより囲っていた鬼らは、剣山により突き刺されその殺気の白き槍を紅く染めていく。


「広人、やっただ!」

「あ、ああ……しかし!」


広人はツカヤを連れて走りつつ、空を見る。

この剣山も、空に浮かぶ禍までは捉えきれぬ。


「くっ、彼奴め!」


そして禍もまた、打って出る。

今も、周りに旋風を小さく起こし浮かぶ有様であるが。


次には更に大きく旋風を起こしたのである。


「おのれえ……このお!」


広人は上を睨む。

しかし、そうそう上ばかり見てもいられぬ。


「ひ、広人!」

「……こちらもか!」


やはり周りより襲い来る鬼らも、未だいるのである。


「紅蓮、剣山!」


周りより襲う鬼らには、殺気の槍を数多生み出し抗う。

しかし、その間にも。


「ぐわっ!」

「くっ……ひ、広人!」


空より禍の風が襲い来る。

その凄まじさに、広人とツカヤは怯む。


そしてその隙を突かんとして。

次には先ほどまで攻めあぐぬきし鬼が、これ幸いとばかりに攻めて来る。


「くっ……風が強き中だというのに!」

「いや、あいつらの所には……風は吹いていないだ!」

「くっ!」


広人は歯ぎしりする。

風を当てる所を絞っているということか。


何と器用な。

と、感心してもいられぬ。


「くっ……再び、紅蓮剣……ぐっ!」

「広人!」


殺気の剣山を発せんとする広人であるが、風にて踏ん張り切れぬ今それはできぬ。


たちまち鬼らは、間合いを詰めて迫る。


「くっ! このまま……また何もできぬのか!」


広人は自らを呪う。

頭に浮かびしは、かつて隼人が妖に変えられ自らが為すすべもなきままに半兵衛により斬られざるを得なかったあの時の有様である。


「いや……違う!」


広人は顔を振る。

そして――


「私は此度こそ……隼人! そなたを守る!」

「え、ええ!? は、隼人……? あ、ああ。おらたちは隼人の民だあ広人……くっ、眩しい!」


隼人、と呼びかけられ戸惑うツカヤであるが。

たちまち広人の持つ紅蓮が白く光り目が眩む。


「ぐああっ!」

「……え?」


ツカヤが、目を開ける。

何やら、おかしき様を感じたからである。


あれほど強かったはずの、風が感じられなくなったのだ。

それは。


「!? な、ひ、光の中……?」


ツカヤが周りを見渡せば、そこは白き光――殺気に囲まれし中である。


と、その白き殺気がみるみる、紅き色に染め上げられていく。


「!? こ、これは……」


ツカヤが驚いている間に、殺気は晴れる。

そうして、周りには。


「お、鬼らがいない……?」

「ツカヤ! 大事ないか!」

「あ、ああ広人……」


鬼が見えなくなり、呆けるツカヤに広人は駆け寄る。


「た、助かっただか?」

「いや、まだだ!」


広人が見上げる、先には。

今も尚、空に留まり咆哮する禍の姿が。


「くっ……やはりしぶとい!」

「ひ、広人! 何か来そうだ!」


ツカヤは怯える。

禍の周りの旋風は、激しくなっていくのである。


と、その刹那であった。


「!? な、何だ!」


広人は驚く。

にわかに、何やら光の刃が飛んで来たのである。


それも二つ。

それは禍に当たり、禍を退かせる。


「こ、これは……」

「待たせたな、広人殿!」

「!? た、隆綱殿、義銀殿!」


声の方を見れば、そこには薩摩の浜に入る時に離れ離れになりし、頼益が四天王のうち二人。


渡部隆綱と坂口義銀であった。


「ううむ、大事ないか!」

「ち、鎮西八郎!」


広人が更に驚きしことに、セクマを連れし鎮西八郎が広人の所に駆け寄る。


「まあそう身構えるな! そなたとの戦はひとまず休みよ。……今は、妖共が先であろう。」

「う、うむ……」


広人は未だ、身構えるが。

いずれにせよ、ここにて争っても詮方なしと自らに言い聞かせる。


「セクマ!」

「兄者!」


ツカヤとセクマは、ようやく再び会えたのである。


「大事ないだか?」

「兄者こそ!」

「おらはこの通り! ……あれ? そういえば、もう鬼全くいないだな。」


ツカヤは先ほどよりも、さらに遠くを見渡す。

しかし、鬼らは全く見当たらぬ。


「それは、既に私とそこの二人とで粗方片付けた!」

「なっ……鎮西八郎と、隆綱殿らが!?」


広人はもはや幾度目か分からぬが驚く。


「ああ、まあ誠であれば帝に背きしこんな大罪人。さっさと捕らえてもよいのであるが。」

「訳が訳であれば仕方ないと、我らも力を、此度だけは貸すことにしたのだ。」

「な、なるほど……」


広人はひとまず、やや呑み込みづらき心持ちながらも。

ここはさようなこともあるのだなと、納得することとした。


「睦み合いの時は、済みましたか?」

「!? か、影の中宮!」


空より声のする方を見れば。

そこには、影の中宮の姿が。


「やれやれ……邪魔者が増えましたか。こうなれば仕方ありますまい。……禍、さあ! こちらにいらっしゃい。」


中宮は手招きし、一度は退きし禍を引き寄せる。


「来るぞ!」

「彼奴は……」

「鬼神一派の者だ! ……何をする!」


広人・隆綱・義銀・鎮西八郎は身構える。


さような侍らをよそに、影の中宮は何と、禍の背中に刀にて切り込みを入れ。


さらに、自らの指をも少し傷つけ、そこより滴りし血を禍の傷より注ぎ込む。


「さあ……解き放ちなさい!」

「くっ! 激しい!」


影の中宮が呪いを唱えるや、たちまち血を注ぎ込まれし禍は、白き毛に覆われ九つの尾を備えし姿に変わる。


「あ、あれは!」


広人は驚く。

それは、かつて宵闇との戦の時にも見しものであったからだ。

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