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京都の王  作者: 宇井九衛門之丞
第8章 剣璽(神器探求編)
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剣槍

「ツカヤに……傷を付けるやも知れぬだと!」


広人は鎮西八郎を睨みつける。


「左様なこと……断じてさせぬ!」

「はははは! ならば見せよ、そなたの心行きを!」

「ぐっ!」


鎮西八郎からは言葉ではなく、その手に持つ剣より放たれし殺気が返る。


神器・剣が盗まれた。

出雲と九州のどちらかにあるため、九州には広人が向かい、出雲には残る半兵衛らが向かっている今において。


九州にて広人は、一度は剣――神器の剣かは定かではないが――を持つかつて京の大乱にて大暴れしし武将・鎮西八郎に戦いを挑むがその時は敗れてしまう。


そして、今。

広人は再び、鎮西八郎と相見える。


しかし、今は一度鎮西八郎と戦いし時とは、大きく異なっている。


まず、鎮西八郎の後ろには高き柱がそそり立っているが。

そこには鎮西八郎が一度は守りし者にして広人を介抱してくれし者・ツカヤが括り付けられている。


そしてその有様は、鎮西八郎が持つその剣より放たれし、白き殺気によって照らし出されている。


「くう……鎮西八郎殿! そなたにとりて隼人の民は、守るべき者らではなかったのか!」


鎮西八郎より向けられし殺気を、自らの妖喰い・紅蓮により受け止めつつ広人は問う。


「ははは……さよう。しかし、今はそなたと戦いたきがために! ツカヤには今、力を貸してもらっておる。」

「な、何!」


広人は首をかしげる。

自らと戦いたきがため?


何故戦いたがるのか。

一度戦いし時は、終始自らが押されてばかりの体たらくであってというのに。


「何故か……私などと戦っても、詮無きことであろう! 何故、私などと戦うためにツカヤを巻き込む!」


広人の問いは、口をついて出る程に膨れ上がってしまう。


「ははは! ……そうであるな。確かにそなたは、()()()()()()拙き腕。よくもまあそれで妖喰いなどと宣っていたものよ!」

「くっ……分かっておるなら! ツカヤを離せ、かように不毛な争いをしても何も得られまい!」

「ふふふ……果たしてそうかな?」

「何?」


鎮西八郎の言葉に、分かっていたとはいえ自らの不甲斐なさを改めて感じ恥じ入る広人であるが、これまた続けて出し鎮西八郎の言葉にまたも、首をかしげる。


「私はそなたとの前の戦にて……終いには京の大乱にても得られずじまいであった手応えを得た! であればヒカヤ……いや、それも偽の名であるな? まあそれはよい! この私に再び、あの手応えを得させよ!」

「くっ……手応えだと! ……うっ!」


言う間にも鎮西八郎は、間合いを詰め、広人の紅蓮に自らの剣を打ちつける。


「どうした! あの時の手応えを……まさか、まぐれとは言うまいな?」

「まぐれも、何も……私にはそなたのことなど知らぬ! だからツカヤを放せええ!」

「ふんっ!」


広人の言葉に応えてか、紅蓮は殺気を強く吹く。

鎮西八郎はそれにより、少しばかり間合いを取る。


「いや、まぐれではあるまい……まだ気概が足りぬな! より強めよ、ツカヤを助けんという心を!」

「相変わらず解せぬな、そなたの言葉は!」


鎮西八郎は広人の紅蓮を見、あの手応えを得る機はまだあると希みを持つ。


広人は鎮西八郎の言葉の意は分からぬが、とにかくツカヤを――ひいては亡き友に似し彼を守ることにより、亡き友に報いらんとする。


「ならば……ツカヤを守れ!」

「な!? そなた、何をする!」


広人が驚きしことに。

鎮西八郎はツカヤが囚われし柱の元に殺気を炎のようにして放つ。


「ツカヤ!」

「ん……? あ! ヒカヤ。……ひいい!」


柱に囚われしツカヤは、目覚めるなり自らの足元まで迫りし殺気の炎を見咎め、怯える。


「守りたくば……よそ見をするな!」

「くっ! ……おのれえ!」


またも間合いを詰め自らの剣を打ち込む鎮西八郎に、広人は怒りのままに自らも紅蓮を打ちつける。


「はーははは! よいぞ、それだ!」

「黙れ! ……そなたの道楽に付き合う義理などない!」


あの手応えには及ばぬが、力を強めつつある広人に。

鎮西八郎は称賛の言葉を贈るが、もはや広人には煩わしきものに他ならぬ。


「さあ、妖喰い使いとやら! その力を見せよ!」

「黙れと言っている!」


広人は怒りのままに、紅蓮を握る手に力を込める。

未だ妖の血に染まらぬ、紅蓮なる名とは裏腹に白き殺気と、剣の白き殺気。


二つの妖喰いは、その使い手の意に応え滾る。


「ふふふ……ならばよい。さあ行け、ツカヤの元へ!」

「くっ!」


鎮西八郎の剣により、広人は持つ紅蓮ごとツカヤの括り付けられし柱の近くへ飛ばされる。


「くっ……ん!? 何か分からぬが……これでツカヤは助けられる!」

「ふんっ、妖喰い使いよ! 仇に背を向けておるぞ!」

「ひ、ヒカヤ! 後ろ!」

「何? なっ!」


ツカヤを助けんと柱に向かい走り出しし広人であるが、彼が背を向けし隙を突かんとして鎮西八郎は、殺気の刃を飛ばす。


「ははは! さあ妖喰い使いよ、防いでみよ!」

「言われずとも!」

「ひ、ヒカヤ!」


ツカヤは目を瞑る。

広人がやられてしまうと思ったからである。


しかし。


「……ん?」

「案ずるな、ツカヤ。……そして隼人よ。再びそなたを失うくらいならば、この命を代わりに差し出す方がマシだ!」

「ひ、ヒカヤ!」


何やら刹那、静かになりしことを訝り、ツカヤが目を開けると。


広人の紅蓮より殺気が溢れ、広人自らとツカヤを包み鎮西八郎の刃を防いでいた。


「ふんっ!」


広人は紅蓮を振るう。

たちまち彼らを包み込みし殺気の結界は開き、鎮西八郎の刃を払い除ける。


「ふふふ……はははは! さすがであるな妖喰い使いよ、まだあの手応えには足りぬが……近づきつつある! さあ早く、再びあの手応えを味わせよ!」

「黙れと幾度言わせる!」


次には広人は、鎮西八郎に向かう。

鎮西八郎は剣を構え、迎え討つ。


「えい!」

「ふん! ……ううむ、やはりまだまだ足りぬ足りぬ!」


鎮西八郎は受け止めし紅蓮を、そのまま押し返す。


「くっ! この」

「足りぬと言っておるぞ! そんなものか!」


鎮西八郎は攻めに転じる。

たちまち彼の剣が紅蓮に、打ちつけられる。


「くっ! まだまだ!」

「ほほ、その意気であるぞ!」


鎮西八郎は笑う。

その目にあるは守るべき民をこうして危うき目に晒ししことに対する後ろめたさではない。


ただただ、戦を楽しむ心である。

いや、戦を楽しむ心のみであったのだが――


「あ、兄者!」

「!? な、セクマ!」

「!? な、何!」


にわかにセクマの声と、それを案じるツカヤの声が響き鎮西八郎らが見れば。


そこには、いつの間にやら現れし妖に襲われかけるセクマの姿が。


いや、セクマのみならず。


「そなたら、何故か!」


鎮西八郎が叫ぶ。

襲われかけるは、セクマのみならぬ、多くの隼人の民たちであった。





鎮西八郎と広人の、妖喰いによるぶつかり合いを見つめる者がいた。


「兄上……侍たちに関してはあなた様のおっしゃりしこと、やはり正しゅうございましたわ。やはり奴らは所詮御しがたき蛮族。手懐けようなどと愚かなことでしたか……」


狐の面越しにため息を吐くは、影の中宮である。


「まあ、憂いてばかりもいられませぬね。……さあお行きなさい、我らが僕の妖たちよ! もはや時はありませぬ。かように意義なき戦を、さっさと終わらせてしまいなさい!」


影の中宮が命じるや、妖らは動く。

その中には。


薩摩の沖にて広人らの船を襲いし、あの禍もいた。





「ひいい!」


セクマは妖・禍に襲われかけ叫ぶが、声にならぬ。


「セクマ!」

「ひいい……あ、主人様!」


禍は、鎮西八郎の放ちし殺気の刃にて飛ばされる。


「……どうやら、我らのみの戦どころではないな!」

「ううむ……止むを得まい!」


鎮西八郎の目より、先ほどの戦狂いとも言える光りが形を潜めていく。


さしもの暴れ者も、この有様では守るべき民を放ることはできぬ。







「半兵衛らよ、此度の務め。大儀であった。」

「あ、ああ……」


翻って、京にて。


帝よりかけられし労いに、半兵衛はただただ恥じ入る。

此度は勝てたとは言えぬからだ。


茨木童子を葬りし時より、一夜明け。

こうして清涼殿にて半兵衛が帝と顔を合わせている。


「して。……義常殿は。」

「……ああ。」


半兵衛は話す。

義常の命が、長くはなきことを。


帝は顔を歪め、さらに同席する公家らの間にてはざわめきが起こる。


「皆の者、帝の御前である。静まれ!」


場を宥めしは太政大臣・静清栄である。


「すまぬ、清栄。」

「ははっ。……しかし、ならば義常殿は。」

「ああ。……当人は構わずに、まだ戦いてえって言ってるが……」


半兵衛はそこにて言葉を詰まらせる。


「ううむ。元より、知ってはいた。妖喰い使いは長くないと。……しかし、すまぬ半兵衛。いざ目の前にしてはこの私も、何としたらよいのか……」

「……ああ。だから、義常さんのことは俺に任せてほしい。」


半兵衛は深々と、頭を下げる。


「奥州で既に、妖喰いを使うことによる人死には見た。その時義常さんだけじゃなく、夏ちゃん・頼庵・広人にも改めて覚悟を問うておいて何だが……こうなっちゃ義常さんには、戦ってほしくない!」

「……うむ。」

「……しかし、半兵衛。」


半兵衛の言葉に、清栄が声を上げる。


「聞けば、此度の戦も。義常殿が加勢しようやく勝てしと聞いておる。……申しにくいが、誠に義常殿抜きでこの京を守って行けるのか?」

「それは……信じてくれ、としか言えない。」

「……ほう?」


半兵衛は、清栄の目を覗き込むかのごとく見つめる。


我ら一門のためだけに、この京を守れ――

いつであったか、清栄が言いしことである。


此度こそ、それをさせんとしての今の言葉か。

半兵衛はそれを探らんと、今清栄を見ているのである。


「……もうよい、清栄。半兵衛がそう言うならば、その通りにせよ。」

「! み、帝!」

「……かたじけねえ。」

「し、しかし」

「恐れながら帝、我らもよろしいでしょうか?」


異を尚も唱えんとする清栄を遮るかのごとく、声を上げしは頼益である。


「頼益殿か。」

「うむ、述べよ。」

「はっ……此度の戦にては、確かに義常殿のお力がなければ勝つこと難しくございました。しかし。……恐れながら、我らもそれなりには役立ちましてございます。」

「うむ、聞いておる。」


帝は大きく頷く。

確かに、終いにあの茨木童子の動きを止めしは、頼益とその四天王が二人、賢松と杖季であった。


「ですから太政大臣殿。そっくりそのまま代わると申すのは厳しいですが、我らも妖喰い使いの方々の力にはなれるかと。」

「うむ。……そうであるな。」


清栄は不承不承といった様ではあるが、ひとまず納得の様子である。


「帝。次には私より奏上を。」

「うむ、刃笹麿であるな。……述べよ。」

「はっ。」


続けて刃笹麿が、声を上げる。


「此度、私は自らの式神・刃白を介し知りしことがあります。……それは、出雲にいると思しき酒呑童子が子と、鬼神一派。その目当てについて。」

「うむ。」


刃笹麿は、話を進める。


「此度、茨木童子たる鬼が更に、異形となりし様を見ました。その姿は、まさに……八つの頭を持つ大蛇のごとくであったと。そうであるな?」

「あ、ああ……」


刃笹麿に尋ねられし半兵衛は、肯んじる。


「八つの頭を持つ大蛇だと? ……ま、まさか!?」

「さすがでございます、帝。」


刃笹麿は帝を称える。


「そう、かつて帝の祖たる神・天照大神(あまてらすおおみかみ)が弟君・須佐男命(すさのおのみこと)が剣にて退けしという古の妖・八岐大蛇(やまたのおろち)。彼奴を蘇らせんことが恐らく、此度の酒呑童子が子と鬼神一派との大願でありましょう!」

「なっ、何!?」


帝は、息を呑む。


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