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旅が突然始まった! これは普通に不幸だ。



 にぶかげが、不条理の逆流を知っている理由。


 クラスカードがメッセージを出すと、他のクラスカードにもそれが知られるのだろうか。


「いえ、拙者もそれは初めての経験でした。

 そうそうあることではないかと思いますが、ともかく、拙者に、クラスカードから勇者ulなる人が、【不条理の逆流】を取得した、と教えられました。

 貴方にも、同じような可能性が眠っている、というメッセージ付きでです」


「そう、なんだ。

 じゃあ、僕たちには何らかの共通点があるのかな?」


「一番可能性が高いのは、一つのパラメーターに、F-がある、ということではないでしょうか?」


 にぶかげの言うことは一理ある。

 その可能性はかなり高い。


「だけど、クラスカードって一体、何なんだ。

 僕、全く正体を知らずに持ってるんだけど」


「え? 

 株式会社『勇者育成』から発行されるおなじみのカードじゃないですか」


「またっ、株式会社!?

 一企業が世界を救うために自主的に勇者を育成してるのっ!?」


 というか、世界観は一体どうなっているんだろう。

 西洋ファンタジーに、株式会社って、なんか間違っていないだろうか。


 そもそも、勇者育成とか、魔王派遣とか、結構、メタ化されてるよなあ。


 僕は頭をかりかりと掻いた後、しばらく目を閉じた。

 目を開けると、二つ、可愛らしい顔が僕を見上げている。


 二人とも、すごく不思議そうな表情である。

 特に、にぶかげの表情は不思議を通り越して不審そうだ。


「いえ、どこかの国の王族が、企業に依頼をしたとかの話しだそうですが」


「な、なーんだ。

 じゃあ、カードの管理とかを請け負っているだけで、実務はその国がやってるんだね?」


「いえ、拙者も詳しい訳ではないですが、王族は全ての業務をやるように、土下座をして頼んだそうです」


「王族安っ!

 え、じゃあ、この世界って企業>王族なの?」


「そうですよ。

 と言っても、『魔王派遣』と『勇者育成』が双璧を為す、という感じで、他は有象無象のゴミですが」


「随分な言い草だね。

 他の企業だってきっと頑張って働いているんだから、もう少しマイルドに」


 僕がたしなめると、にぶかげは慌てた。


「し、失礼しました。

 聞いた話しをそのまま話しただけなのです。

 忍びは正確に情報を伝達する物ですから」


 もっともらしい理屈だった。

 忍者の掟とかは知らないから、分からないけど。


「って、その話しはいいんだよ。

 その『勇者育成』って、どんな企業なの?」


「実態は謎に包まれています。

 クラスカードの発行の他に、勇者育成闘技会や、冒険者ギルドの結成などなど、色々な事業を展開していますが、どんな人物が経営しているのか、規模はどれくらいなのか、というのは分かっていません」


「となると、クラスカードの謎を聞くのも難しいか」


 僕は自分のクラスカードを取り出して、見下ろした。

 僕をこの世界に呼び寄せてくれたカードの発行者。

 もしかすると、その『勇者育成』という企業に僕を呼び寄せた何者かがいるのかもしれない。

 感謝しないでもない。

 あのまま、死んだ方が良かったのかもしれない、とは、時々思うことがある。


 この街での生活は幸福ではあるが、だからと言って、この幸運がいつまでも続く訳が無いことを、僕は知っているのだ。


 だけど、こうして、ここにいることで、レーナをあの時救うことが出来たのは、幸福だ。


 だから、僕のためではなく、レーナのために、感謝の気持ちを伝えたい。


 金色のカードは陽光を受けて光っている。

 僕はカードを掲げて、光にかざした。


「まあ、魔王を倒すために、勇者を育成しようってんだから、きっといい人が経営しているんだろうな」


「拙者もそう思います。

 きっと、仁義に厚く、強く、逞しく、賢く、素晴らしい人なのでしょう」


 にぶかげは腕を組んで、うんうんとうなずいた。

 すると、レーナは「うー」と迷惑そうに非難の声をあげる。

 動くな、ということらしい。

 にぶかげは慌てて謝罪をして、僕に笑いかけた。


「まあ、ともあれ、街について、ご飯を食べたら、すぐに出発しよう」


「あ、その、拙者」


 街の入り口が見える頃になって、にぶかげは慌てた。


「どうしたの?」


 僕は、ふと、振り返った。


 すると、にぶかげは言いにくそうに口をもごもごした。


「拙者、二年をかけてここまで来ました」


「ん?

 それがどうしたの。

 だって、すごく遠い国から来たんでしょ?」


「ち、違うのです。

 隣町から、この街まで二年です」


「隣町って、どれくらい遠いの?」


「十里くらいです……」


 十里って、四十キロくらいだろうか。

 それは、確かに掛かり過ぎだ。


「何でまた?」


「その、拙者、先程も言ったように敏捷F-。

 必死で走っても、止まっているような遅さなのです」


「なるほど、つまり、君と一緒に旅をするには、君をおぶっていかないと行けないわけだ?」


「極論を申しますと」


「それくらい、いいよ。

 僕が担ぐし、レーナも担いでくれると思うし」


「う♪」


 僕たちのやり取りに、レーナはこくりとうなずいた。


「まあ、僕も幸運F-だから、多分、戦闘中とか、他のことでもすごく、迷惑かけると思うしね」


 それは、慰めでも何でもなく、本当のことだ。

 にぶかげはそれを聞いて、じっとうつむいてしまった。

 何か、この子にとって嫌なことでも言ってしまっただろうかと、僕は慌てた。


 にぶかげはすぐに顔を上げる。

 そうして、にこりと笑うのだ。


「ありがとうございます。

 主殿」


「あ、あるじどの?」


 また、幼児退行してしまった。


「はい、主殿です!

 私をあしでまといと認めながらも、なお、自分の欠点をさらけだし、持ちつ持たれつと断じるその姿勢、感服致しました」


「あー。

 ねえ、にぶかげ、そういうのは無しにしよう」


「……認めてもらえぬ、ということですか?」


 にぶかげは、がっくり、と言った感じで肩を落とした。

 レーナは、今度は気遣わしそうににぶかげを見上げている。


「そうじゃなくて、上下関係は絶対作らない。

 対等な関係で、一緒に歩こう。

 第一、僕は一度も人の上に立ったことって無いんだ。

 それに、上に立つことに憧れたことも無い。

 小さい頃から、ずっと望んでいたのはさ、僕を身近で励ましてくれる、対等な人なんだ。

 だから、僕はそれが増えたら嬉しい」


「あ、わ、じゃあ、その、ul殿。

 では?」


 にぶかげは、もじもじしながら、僕の顔を見上げた。


「うん、僕は、かげちゃんって呼ぶ

 にぶかげって、なんか言いにくいし」


「かげちゃん、素敵な響きです」


 拒否されるかと思っていたけど、案外、喜んでくれたので、僕はいくらかほっとした。


 かげちゃんは、目をきらきらとさせていた。


 良かった、本当に喜んでいるらしい。

 僕は、かげちゃんから顔を逸らして、前を見た。


 すると、


「ul様!」


 幼い声が聞こえた。

 聞き慣れないようでいて、かなり聞き慣れた声である。


 僕は視線をさまよわせて、ようやく、その声の主を見つけた。


「ようじょめいどのまなさんだあ(混乱)」


 僕の幼児退行もさることながら、マナさんの幼児退行は著しい。

 だって、本当に幼女になっていたのだから……。


「マナさん!

 なんてことをおおおおおおお!」


 リズさんに殺される。

 街の人達に殺される。

 ロリコンが、好みの女性に幼児化の薬を飲ませてロリ化させたあげく、かどわかそうとしていると思われかねないようなというかどういう状況なんだと言うかあの立派なおバスト様は一体どうなったんだというかこれは本当にもとに戻れるのかと言うかそもそも身体は無事なんだろうかというか無事ではないんだろうが今直ぐ身体に悪影響がでたりはしないんだろうかというか可愛い(混乱)


「な、よ、幼女が一人、増えてる」


 マナさんが言った。

 かげちゃんを指している。


「いえ、増えた幼女は貴方です」


 僕はすぐさま誤りを正した。


「く、確実に勇者ハーレムを形成しているという訳ですか。

 いいでしょう!

 二番手だろうが、後妻だろうが、性奴隷だろうが知ったことですか!

 私は貴方の女になります!」


「待って、待って、最後の例えはおかしいですよ!」


「百十九人も奴隷を飼ってるくせに!」


「確かにそうですけど!」


 僕は思わず魂のシャウト。

 なぜか、かげちゃんが、僕を尊敬の表情で見る。

 というか、よく考えると、僕人の上に立ったことめっちゃあったじゃないですか、やだー。


「マナさん、性格が歪んでませんか?」


「薬の副作用と、幼児化によって、少し自己中心的になると、薬屋が言っていました」


 悪びれないマナさん。

 どころか、胸を張るマナさん。

 く、柔らかそうなほっぺたをしやがって、ロリコン云々関係なく、突っついてやりたい。


 というか、本気で叱ってあげたい。


「どうですか?

 私を旅に連れて行かないと、街に戻って幼女にされた挙げ句、犯されそうになったと言いますよ」


「な、な、自己中心的云々じゃなく、正確が歪んでませんか?」


「だ、だって、男性からあんなに手痛く振られたの初めてですもの」


 まあ、マナさんからの誘いを無下に出来る男も少ないだろうけど、僕はマナさんが素敵だと思うからこそ、ああいう断り方をしたのだ。


「それに、私が幼女になったんですよ?

 嬉しく無いんですか?」


 目からハイライトが消えている……。


 僕が実はロリコンでないことを知ったら、刺されそうな勢いである。

 それは嫌だ。


「う、嬉しいです。

 胸がぺったんこになって、これ以上無い喜びです。

 ありがたき幸せです。

 ロリ、さいこー」


 テンション駄々下がりを隠すために頑張ったのだが、ごまかせたかは怪しい。


 マナさんは、多少疑わし気に僕を見たが、やがて、納得したように吐息を吐いた。


 僕が別にロリコンでないと知ったら、自殺を選びかねないテンションである。

 それは、絶対に嫌だ。


「では、食料を持ってきましたから、そちらの方も一緒にどうぞ。

 これから、旅に出かけましょう」


「え? でも、全然準備してないよ?」


「旅に必要な道具は全て揃えました」


 マナさんは、そう言って、後ろを指差した。

 そこには、どうやって持って来たんだと突っ込みたくなる大きさのリュックサックがあった。


「ず、随分、用意周到であらせられますこと」


 思わず古語を使う勇者ul。

 略して、古語使ul(こごづかウル)


「ず、随分不幸であらせられますこと」


 僕は、続けて古語を使った。

 略して、続けて古語使ul。


 いや、もうそれはいい。


 僕の旅はこうして始まるのだった。

 しまらねえなー。


 レーナが突っ伏す僕の肩をポンと叩いた。

 この最強無敵のパーティー(妄言)で、僕は魔王を倒せるのだろうか。


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