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第41話 ロクでなし勇者はナリッサとクエストを受ける 1



 【功過の墓標】でのクエスト依頼を失敗した翌日、俺は冒険者ギルドへと赴いていた。


「婆さん、クエスト駄目だったわ」

「なんじゃ、もう諦めたんか」


 クエスト依頼を持ち込んで来たヨゼフに、俺は諦めながら言った。


「だらしないのう、【功過の墓標の深奥の土を袋一杯持ち帰る】。このクエストはそんなに難しくはないはずじゃがのう」

「いや、一緒に言ったやつと話し込んだせいで不死者(アンデッド)に滅茶苦茶追いかけられたわ。挙句、顔も覚えられるわ静かに行ってもおいかけられるわでどうしようもなくなっちまった」

「なるほどのぉ」


 ヨゼフはうんうんと呻る。


「だらしのない奴だ」


 クエスト失敗の旨をヨゼフに報告していると、後ろから声が聞こえてきた。

 俺は振り返り、声のした方に目を向けた。


「そんな簡単なクエストもこなせないのか、貴様は。本当に、どうしようもない新人だな」

「あぁ?」


 そこにはいつからいたのか、腕を組み、嗜虐的な表情を湛えながら俺を見下ろしているナリッサがいた。

 何度も俺のせいで辛酸をなめさせられたからか、口端が吊り上がっている。


「お前はいけるのかよ」

「少なくとも、そんな低レベルなクエストで失敗するほどではないな」

「これこれ、お主らやめんか」


 俺とナリッサの雰囲気を察したヨゼフが仲介に入って来る。

 俺はヨゼフを手で押しとどめ、ナリッサに食って掛かった。


「大体聖騎士さんがこんな埃くせぇ所でなにしてんだよ、この野郎」

「冒険者ギルドを埃臭いというのはやめんか」


 ヨゼフが突っ込みを入れる。いや、現に崩壊しまくってるだろこのギルド。


「私は見回りも終わり、この街の秩序を守るため、ヨゼフギルド長にクエスト依頼を貰っているところだ」


 なるほど。それはいいことを聞いた。


「なら、俺と勝負しろ」

「何……?」


 ナリッサの片眉がぴくりと上がる。


「俺のウケてるクエストを一緒に受けろ。完遂出来た奴だけが報酬を貰い、一つ小さな願いを叶えてもらう。どうだ」

「はぁ……馬鹿馬鹿しい」


 ナリッサは大きくため息をつき、やれやれ、と首を振った。


「あぁ、そうかい。やっぱり副聖騎士長なんかに俺がやってるような高尚なクエストは完遂出来ないだろうからなぁ。敵前逃亡というわけか。お疲れさんだなぁ、副聖騎士長さんよぉ」

「何だと」

「そりゃぁ、拿捕されたり鍋で戦おうとして大目玉を受けるような聖騎士さんには出来なくて当たり前、敵前逃亡も当り前だろうなぁ。なぁ、婆さん」

「まぁ、捕まったことも確かにあるのう」

「貴様……!」


 ナリッサはぎしぎしと歯ぎしりをし、俺を睨んでいる。積年の恨み、ここで晴らさでおくべきか。まぁただの嫌がらせだけど。


「分かった、なら受けてやる、貴様の幼稚な遊びにな。どちらが格上かを教えてやろう」

「分かった」


 俺の挑発は容易にナリッサの胸に刺さり、ナリッサもヨゼフからクエスト依頼の書かれた羊皮紙を受け取った。


「お主ら、毎日こんなことやっとるのかい……」


 ヨゼフが呆れたような物言いをしてくる。


「よしナリッサ、じゃあ俺は仲間を一人連れてくる。お前も仲間を一人連れてきてもいいぞ」

「私にそんなものは必要ない。一人だろうが二人だろうが、好きに仲間を連れて来い。私が圧倒的な力を見せつけ勝つだけだ」

「はいはい、分かりましたよ、副聖騎士長さんよぉ」


 俺は精々嫌味をナリッサに叩きつけ、【美酒の語り部】へと向かった。






「なぁによぉ、ユーロ」

「ロゼリア、俺と一緒にクエストを受けてくれ」


 俺は酒場の中で、毎日飲み耽っているふしだらシスターの下へとやって来ていた。


「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよぉ、やる訳ないでしょうがよぉ。おらぁ、酒もっと持てこいーー!」


 なはは、と笑いながらティアに酒を要求する。この酩酊女め。


「そうか、俺と一緒に来てくれないのか」

「あたりまえでしょうがぁ。私はぁ、ここでぇ、ずっと酒を飲んでたいのよぉ」

「なら仕方がないな」


 俺は踵を返した。


「今回のクエスト、俺の冒険者人生にも関わるような重大なやつだったんだがなぁ」

「…………なにぃ」


 ぼそりと呟くと、ロゼリアが食いついた。


「いやロゼリア、お前には関係ない。悪かった、聞こえたようで。じゃあ迷惑かけたな、ロゼリア」

「ちょっと待ぁちなさいよぉ」


 ロゼリアが俺の肩を掴み、歩みを止める


「冒険者がなんだってぇ」

「いや、俺の冒険者生命に関わるって言っただけだ」

「聞き捨てならないわよぉ、その言葉」


 ロゼリアは酒臭い口を俺に近づける。どういう訳か、ロゼリアは冒険者に対して妙に甘いというか、冒険者という言葉を出せば何故か多くの事態に対して了承してくれる。


「それに、今回のクエストで成功すれば冒険者の株が上がり、大量の酒をタダで飲めるんだけどなぁ」

「なんですってええぇぇ!」


 ロゼリアは俺の肩に手を回し、血走った目で話を聞く。勝てばナリッサから酒を驕って貰おう。


「そんな美味しい話ぃ、私が放っておくと思うぅ?」

「やるか?」


 かかった。ロゼリアという大きな魚が釣れたぞ。不死者(アンデッド)に最も効果的なもとは聖属性。シスターのロゼリアがいれば大した難敵という訳でもないだろう。


「やってぇ……やるわよぉ!」

「そうこなくちゃな」


 俺はロゼリアと熱い握手を交わした。






「ここが功過の墓標か……」


 ロゼリアを説得して暫く後――

 俺はナリッサとロゼリアを連れ、【功過の墓標】へとやって来ていた。


「貴様ら、余計なことはするな。特に、声を上げるな、ここの不死者(アンデッド)は騒音で目覚める。その量も多大だ。絶対に物音を立てるな」

「ロゼリア、つまり物音を立てろってことだぞ」

「ち、違う! 穿った見方をするな! 絶対に静かにしていろ!」


 ナリッサは顔を赤くして怒っている。


「いいか、行くぞ、貴様ら」

「了解」

「わあかってるわよぉ」


 俺たち三人は、【功過の墓標】の中に、足を踏み入れた。



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