第38話 ある女騎士の一日 2
「せっ……聖騎士様! 助けてください。知らない男の人たちが……」
「きっ…………貴様らぁ!」
私は決然とした面持ちでユーロ・テンペストを睨め付ける。
「あ、おい自己紹介しとけよリンズ」
「あぁ、前兄弟が言ってた大したことない聖騎士さんか。おいっす、俺リンズっす」
「何を言っている貴様らはぁ!」
差し出された手をはねつけ、近くで縮こまっている女性を私に引き寄せる。どれだけ私の沽券を貶めれば気が済むのだ、この新人冒険者は!
「あ、おいお前そんなにその子に近づくと……」
「何を言っている貴様! 婦女暴行が冤罪かと思ったらやはり現実だったのか! 冒険者の風上にもおけん!」
「いや、その子に近づくとまずいって」
「何がまず…………は⁉」
気付けば、鎧を止めていた金具がなくなっていた。
ガラガラと落ちだした鎧を、両手で必死に止める。
「な…………何が起きた⁉」
「なんだぁ、聖騎士ってのにこんなしょっぼい物しか持ってねぇのかよ、ケチくせぇなぁ」
「なっ…………何をした⁉」
先程までとは打って変わって女性は退屈そうな顔をしている。
女性は私の財布や金具を手遊びしながらこちらを睥睨してくる。
「あ~あ、だから言ったのに」
「な…………何をだ⁉」
ユーロが呆れた顔でこっちを見ている。どういうことだ⁉
「あ、じゃあこれ返すね!」
「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女性は私の財布や金具を、私の服の中に入れて来た。
「なっ……何をする何をする何をする⁉」
「説明しよう! その子はセシル、曲芸師だ! 何かと手品や手遊びを好む性格にあり、曲芸が出来そうな環境になると性格が変わり、曲芸の対象にされてしまうから要注意だ!」
「要注意だ、じゃない! 説明はいいから早くなんとかしてくれえええええええええぇぇぇぇぇぇ!」
ユーロが指を立てて説明している間にも、私の鎧はガラガラと地面に落ちる。
「聖騎士さぁん、もうちょっと私を喜ばせるようなもの用意しといてよぉ。これじゃぁつまんなぁい」
「説明しよう! セシルは酒を飲むと快く曲芸を見せてくれるため、俺とリンズはその噂を聞きかじり、曲芸を見せてもらう様催促していたのだ!」
「催促していたのだ、じゃない! 早く、早くなんとかしてくれって言ってるだろおおおおおぉぉぉ!」
ユーロが話している内にも大勢が悪くなり、どんどんと私の鎧は落ちていく。
「おい兄弟……もうちょっと放ったらかしにしてた方が良いもの見れるんじゃねぇのか?」
「なるほど……普段傲慢な女騎士が自分の鎧が剥がれいてく様を恥じている様子を観察するのも悪くない」
「悪かった悪かったからあああああぁぁぁ! 謝るからなんとかしてくれえええぇぇ!」
にやにやと悪い笑みをほころばせるユーロに懇願する。屈辱だ…………。
「よし、リンズ隊員! セシルをひっとらえよ!」
「了解、兄弟!」
リンズはセシルに向かって走り出した。
ユーロもそれに追従し、セシルは両手両足を拘束された。
「ふ…………ふえぇ、何が起こったのぉ? あ……聖騎士さんが破廉恥な恰好を……」
「説明しよう! セシルは曲芸師の自覚がなく、曲芸を見せられない状況になるとその記憶の全てを忘れるのだ!」
「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁ! 誰か助けてえええええええぇぇぇぇぇぇぇ! 変態が…………変態がここにいるううううううぅぅぅ!」
「この馬鹿ああああああああああぁぁぁぁ!」
セシルの絶叫が街に響き、多くの人たちがこの狭い路地裏に集まり出した。
ざっ、ざっ、と雑踏の音がし、路地裏に警邏隊が入り込んで来た。
「どうなさいましたか⁉」
「変な男の人に取り押さえられて、変な女の人が半裸でうずくまってます!」
「なっ…………ナリッサ副聖騎士長…………これは大変なことだぞ! お前ら! こいつらをひっとらえろ!」
「はっ!」
「副聖騎士長もついに犯罪者にまで堕ちましたか……」
「違うんだ、違うんだあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その後、セシルの事情を説明して何とか無罪放免となった。
私たちが捕まるまで事情も話さず、にやにやと薄ら笑いを浮かべていたユーロとリンズという冒険者、あいつらは絶対に許さない。




