プロローグ
数多の聖騎士が倒れ伏している。
体中に傷を負い、もはや動きも出来なくなった聖騎士が森の中で横臥し、屍山血河の様相を呈した戦闘は尚も続いている。
「聖騎士長様、撤退のご指示を!」
女の声が、森の中で響いた。
「ならん! 駄目だ、今ここで撤退の指示を出せば隊列が崩れる!」
「し、しかし聖騎士長様、もはや隊列すらありません! 秩序も何も、もうないのです!」
「それでも駄目だ! こいつを打ち倒すまでは撤退を許さん!」
「目を覚ましてください! このまま戦闘を続けてもいたずらに犠牲者を増やすだけです!」
「状況を理解しろ! 今私たちが退けば他の奴らはどうする! 私たちだけが逃げおおせたとしても、動けない仲間が多い! 全員が食い殺させるぞ!」
「しかし…………しかし!」
女は言い募るが、四方八方に聖騎士が横たわっており、聖騎士長の言が正しいと理解する。
頭で理解はしていても、本能はやはり退避の考えか、足がすくみ、腰が引けている。
「ナリッサ、気をしっかり持て! 意識を飛ばすな! ここで私たちが死ねば誰がこいつを討伐する! 持ちこたえろ、援軍が来るまで持ちこたえろ!」
「し…………しかし聖騎士長様、援軍が来るまで持ちこたえることが出来るかは……それに、この国に私ども以上の戦力はありません!」
「援軍が来た時に、援軍に任し、部下を引き連れて街へ逃げ狩るのだ!」
「な…………何をおっしゃってるんですか聖騎士長様! そんなことをすれば援軍が鏖殺されます!」
「皆で、皆で帰るんだ! 援軍も聖騎士も、皆が皆生きて帰るんだ! そこまでは気張れ、ナリッサ!」
「そ…………そんなこと……」
出来ない。
聖騎士長の言っていることは夢物語だ。
そう、理解していた。
しかし、最早撤退の二文字は考えられない。
ただひたすら死力を尽くし、敵を打ち倒すことしか、もう方法がなかった。
「くそっ…………」
怨嗟の声が漏れる。
「くそおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
女は眼前の強大な敵に、突貫した。




