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第36問 ロクでなし勇者は緊急クエストに巻き込まれる 8



 翌日、取り敢えずとして娯楽土竜の問題が片付いたことで、街は俄かに活気づいていた。


 冒険者達との泥仕合をした後、俺たちは友誼を深め、【美酒の語り部】に入り、全員で飲み明かしていた。


「そこで俺がこう言うたわけよ、『おいゴーレム、お前がその気ならワイも容赦はせんぞ。生憎、女子供に手を出すような外道を容赦するほどの良心、ワイは持ち合わせてんからな』ってな」

「ガハハハハハハハハハ、嘘つけ! お前はゴーレムの前でガタガタ震えて逃げ惑っとったじゃろ!」

「なっ……んなことないわい! 最後なんかワイがおらんかったらゴーレムの攻撃食い止めれんかったんやぞ!」

「ガハハハハハ、お前それユーロに連れていかれたからだろうが!」

「そっ…………そんなことないわい! 元々出るつもりやったわ!」


 【美酒の語り部】に娯楽土竜を退治した冒険者メンバーが集まり、口々に娯楽土竜との思い出を語り合っていた。

 ダーツをする者や賭け事に興じる者、腕自慢のために簡単な決闘を行っている者や飲み比べをしている者など、ありとあらゆる冒険者たちが【美酒の語り部】に集っていた。


 宴もたけなわというべきか、常にたけなわだった【美酒の語り部】に、新たな客人が入って来た。


「すいません、ライムです! ユーロさんいますか?」

「「「ライム嬢!」」」


 突然のライムの闖入ちんにゅうに、酒場が俄かに騒がしくなった。


「なんやライム嬢、一緒に飲みたいんか? ええぞ、ワイらが一緒に飲んだろ、ほらライム嬢、こっちい」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇぞ! ライム嬢は俺たちと飲むんだよ!」

「ちげぇぞ、俺たちとダーツすんだよ!」

「いや、腕自慢をしに来たんだろう」

「ほっほっほ、賭け事じゃろう」

「ちょっとあんたたち止めてよね! 男臭いところにライムちゃんを引き込もうとしないでよ!」

「なんだとお前らだって男臭ぇよ! かったい筋肉見せやがって!」

「ちょっ、何よ! うるさいわよ!」


 ライムの飲み場所をめぐって、冒険者たちが文句を言い始めた。

 血気盛んな奴らだな。


「あ、あの~…………」


 一瞬にして蚊帳の外にされたライムが、おずおずと手を挙げた。


「私今はユーロさんを呼ぶよう、ギルド長から言付かって来ただけで……」


 ライムは申し訳なさそうに、会釈した。


「なんだよつまんね~」

「何したんだよユーロまたお前はぁ。全くいっつもお前呼ばれてんなぁ」

「本当だよ、だっせぇなぁ」

「うっせぇ」


 冒険者たちの文句をよそに、俺はライムの下へと歩み寄った。


「では、行きましょう」

「また何の用なんだ一体…………」


 俺は嫌な予感がしながら、冒険者ギルドへと向かった。







「よく来たのう、ユーロや」

「おう婆さん、久しぶりだな」


 俺は冒険者ギルドで、ヨゼフと対面した。

 ライムは俺とヨゼフの会話を邪魔しないよう、横で控えた。


「なんだ婆さん、俺は今回大活躍したから報奨金を高くしようとかか?」

「違うのう、残念ながら」


 いい知らせなわけがなく、ヨゼフは少し眉根を寄せた。


「実はのぉ、ゴーレムのことなんじゃ」

「げ…………」


 他の冒険者たちがゴーレムを壊したとはいえ、自分がゴーレムが動き出した元凶であるので、嫌な予感が脳裏を過る。


「まさか借金とか…………か? 絶対嫌だぞ! 俺は絶対金なんて払わねぇからな! 街を救ってやったっていうのに金なんか払わされてたまるか! そもそもあんな簡単にゴーレムを起動させることが出来るようにしてたそっちの落ち度だろ! 絶対金なんて払わねぇぞ!」


 嫌な予感が言い渡される前に、俺は必死で反駁した。 

 

「やかましいのう、違うわい。いや、違うこともないんじゃが…………。ユーロよ、お主ゴーレムが何故動いたか知っておるか?」

「…………? そりゃぁ、娯楽土竜が電源を押したからだろ?」

「違うのう。ゴーレムを動かすためには、まず魔力を充填させる必要があるんじゃ。街の護衛用のゴーレムは常に魔力が充填されておるがのう、お主らが今回壊したゴーレムは冒険者の試験や魔物退治の時などに使われる限定的なゴーレムでのう。魔力が充填されておらんと動かんのじゃ。そして、何かないときには魔力は充填しておらん」

「…………どういうことだ? 魔力が充填されてないのに動いたのか? それともすでに魔力を充填してたとか……」

「冒険者ギルドの誰も、そんなことをしとらんのじゃよ」


 ヨゼフは、きっぱりと言い切った。


「じゃからお主が何か事情を知っとるかと思ったんじゃが…………まぁ、知らんならよいわい。こちらで後々調査していくわい。それともう一つ」


 ヨゼフは一本指を立てる。

 まだあるのか。借金じゃないだろうな。


「お主、周りを見渡してみい」

「……ん?」


 冒険者ギルドの周りを見渡すと、壁は大きく崩壊し、天井は吹き抜けになっている。

 そういえば、ゴーレムが冒険者ギルドを滅茶苦茶に壊してたな……。


「どう思う?」

「いや…………風通しが良くなったな……って」

「阿呆か!」


 ヨゼフに叱咤される。


「いいじゃないか、これで冒険者ギルドの体制も風通しがよくなるぜ」

「上手いこというんじゃないわい! 今回の事件で、護衛用のゴーレムを含めて、多くのゴーレムが破損したんじゃ。おまけに冒険者ギルドはこのざまじゃ。まぁ……金をせびるわけではないがの、それで一つ相談があるんじゃがな…………」

「まさか」


 まさかまさかまさか。


「この冒険者ギルドの状況が元の状態に戻るまで、ワシらが依頼するクエストを受けて欲しいんじゃよ。勿論、報酬は出す。まぁ、お主が元凶だと騒ぎ立てるつもりはないがのう……いざとなったらその時は……」


 ヨゼフは何かを企てる顔をする。

 こいつ…………脅してやがる。


「分かった、わかったよ! 勝手にしやがれ! もうじゃあこれで終わりか? 俺はもう帰るからな! 飲み足りねぇんだよ!」

「ほっほっほ、よいよい。分かってくれればいいんじゃ」


 俺はヨゼフに言われるとおり、【美酒の語り部】へと踵を返した。


 これからもどうやら楽しいスローライフは送れそうになさそうだ。




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