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第35問 ロクでなし勇者は緊急クエストに巻き込まれる 7



「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」」


 気付けば俺と冒険者たちの声が重なり、俺はその声援を力に変え、ゴーレムの強襲を跳ね返していた。


 一手、二手、三手、四手、五手。


 ゴーレムの加速に俺のピコピコハンマーストリームも追いすがり、俺の動きも加速する。

 徐々に俺の手数がゴーレムの手数を上回り、ゴーレムを圧倒する。


 ゴーレムは一歩、二歩、と後退しながらも、拳を繰り出す速度は変わらない。


 後退の必要が出たからか、須臾のうちにしてゴーレムに隙が生じた。

 俺はゴーレムの腕を弾き、大きくゴーレムが仰け反る。


「「「「いっけえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 冒険者たちの応援という鎧を身に纏い、声援を武器に代え、俺はゴーレムに殺到し、


「沈めええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ゴーレムの頭を、打ち抜いた。


「きゅいきゅいーーーーーーー!」

「きゅーーーーーーーーー!」


 ゴーレムが動きを停止したことに脅えた娯楽土竜は、森へと逃げ帰った。


「う…………う…………」

「あ…………あ……」

「お……」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 冒険者たちの大歓声が、そこで響き渡った。


 冒険者たちは持っていた帽子や得物を上空に放り上げ、互いに抱擁する。


「終わった…………か……」


 俺は持っていたピコピコハンマーに目をやる。ひしゃげ、柄とハンマーの部分のどちらがどちらか分からなくなっているかのようなハンマーに感謝の念を抱く。

 

 冒険者たちは俺にも熱く抱擁を交わす。


「ちょっ、てめぇら止めろや! 暑苦しいんだよ!」

「がっはっはっはっは! 何を言っとるんじゃお主は! お主は今回の功労者じゃ!」

「ようやったなユーロ! お前があんなこと出来るとは思っとらんかったわ!」

「やるではないか貴様!」


 俺は冒険者たちと笑い合う。

 こういうスローライフも悪くはないのかもな……と、感慨に耽る。


 冒険者たちが指を鳴らし、帽子が上空を飛び、どこからともなくファンファーレが鳴り響く。

 突如として出来たそのパレードは、冒険者たちの心を洗う。


 そのパレードの最中に、冒険者ギルドの中から出てくる人物がいた。


「あ…………あれ……何ですか、皆さんこれは?」


 冒険者担当のライムが、そこにいた。


「おぉライム嬢! 実はさっき一際巨大なゴーレムをユーロがこの手で打ち倒してな、今こんなパレード状態なんじゃ!」

「あ……あぁ、あのゴーレムの主電源は冒険者ギルドの中にあるので、私が電源落としてきましたけど……」

「「「………………え?」」」


 ライムの一言で、そこにいた冒険者たちが一斉にライムに視線をやる。


「い……いえ、あのゴーレムだけは街の護衛の主格として、電源が切られにくいように冒険者ギルドの中にあるんですよ」

「「「……………………」」」


 ライムの説明で、先程まで盛り上がっていた場が嘘のように静まり返る。

 その話を聞き、ペントラは一本指を立てた。


「ってことはや、あれはユーロが倒したんじゃなくてライム嬢が電源を落としたから動かんくなったってことなんか?」

「はぁ……ちょっと見てないんで分かりませんけど、電源を落とさないと動きは止まらないですよ?」

「「「…………………………」」」


 冒険者たちは一斉に俺の方向に視線をやる。

 そして、


「「「「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………………………………」」」」」


 全員が全員、一斉にため息を吐いた。


「ほら皆、帰ろ帰ろ。ユーロなんか褒めちぎって損したわ! 結局ユーロがやった訳やないんかい」

「ユーロ……まぁなんじゃ、次は頑張れ」

「やっぱり、私はおかしいと思ってたのよ!」

「がははははははははは、まぁいいじゃねぇか、別に!」


 ゴーレムの主電源を切ったからゴーレムが動きを停止したことが分かって、先程まで騒いでいた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ解散し始めた。


「え? これは一体何なんでしょうか、ユーロさん。私が冒険者ギルドで主電源を探してる間に何かあったんですか?」


 ライムはきょとんとした顔で、俺に話しかけてきた。


「いや…………何も、なかったな」


 俺はぽつりと、そう返答した。


「あ」


 解散を宣言したペントラが、突如ライムに振り向いた。


「そういえば、あのゴーレムってなんで動き出したんや? いきなりゴーレムが動き出すなんて変な話や思たんやけど、もしかしてそんなにゴーレムの管理は手薄なんか?」

「その…………それがですね…………」


 ペントラの質問を受けたライムは、突如押し黙った。

 もじもじと体をうねらせ、ちらちらと俺の方を見てくる。


「あの…………ユーロさんが大量の娯楽土竜を弾き飛ばした時に、何匹かの娯楽土竜がゴーレムの倉庫まで弾き飛ばされたみたいで……そのですね……」

「「「え…………」」」


 ライムの言葉に、その場にいた冒険者たちが固まった。

 ペントラは素っ頓狂な顔をして口を開く。


「つまり、ユーロがあんなに娯楽土竜を冒険者ギルドに連れて来んかったらゴーレムが動き出したりはせんかったって…………こと……なんか?」

「あの……そのですね……有り体に言ってしまえば……そうですね、はい」

「こんのクソ野郎があああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ライムの暴露を聞いた冒険者たちは、次々に俺の下へと殺到した。


「ふざけんじゃねぇぞ! 余計な手間かけさせやがって!」

「お前はアホかあああああぁぁぁ⁉」

「この馬鹿野郎がああああああぁぁぁぁぁ!」

「止めろ、お前らあんなに盛り上がってたじゃねえかあああぁぁぁ!」


 俺は娯楽土竜よろしく数多の冒険者に殴りかかられ、冒険者の山に埋もれた。


「いい加減にしやがれえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ピコピコハンマーストリームウウウウウウウゥゥゥゥゥ!」

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

「てめえええええええぇぇぇぇ!」


 俺は圧し掛かっていた冒険者たちを、跳ね飛ばした。


「ふざけんじゃねぇぞてめぇら! 文句があるならかかってきやがれ! 全員このピコピコハンマーの下に沈みやがれクソ野郎共がああああああああああぁぁぁぁぁ!」

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

「おらあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ここで、俺と冒険者たちの二回目の戦闘の火ぶたが、切って落とされた。



 勿論、泥仕合だった。




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