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第34問 ロクでなし勇者は緊急クエストに巻き込まれる 6



 ライムが冒険者達にゴーレムの停止方法を伝えていったからか、冒険者側が段々と優勢になり、残るゴーレムの数も少なくなっていった。


 俺はゴーレムと戦っている冒険者たちの下へと合流した。

 残りのゴーレムも少ないからか、冒険者勢力の殆どがそこで徒党を組んでおり、俺はその中にいたペントラに声をかける。


「お前無事だったのかペントラ……!」

「おばえはごれが無事にびえるんか?」


 ペントラの顔は所々がはれ上がり、饅頭のようになっていた。


「なんかお前ちょっと格好良くなったな」

「格好良うなっとるかい!」


 益体もないやり取りを交わし、ペントラが無事であることを確認する。


「ところでペントラ、もうゴーレムも最後か」

「あぁ……せやな…………このゴーレムが最後の一体や……」


 前方を見てみると、起動したゴーレムの中でも最も巨大なそれが、冒険者に囲まれ応戦していた。


「なんやあのゴーレム強いんやわ。でかいし強いし、それに何より停止ボタンが見つからんねん」

「停止ボタンが見つからない……?」


 冒険者たちと矛を構えているゴーレムの肩には四匹の娯楽土竜が乗っており、それぞれで腕と足の指揮を執っているからか、今までのゴーレムとは動きの精細さが段違いで良かった。


 ゴーレムが巨腕を横一文字に薙ぐが、前衛として機能している屈強な冒険者達が盾を使い、しっかりと防御する。

 ゴーレムの巨腕を受け止めた際に生じる相手の隙を窺い、攻撃職の戦士たちや魔法使いがゴーレムへと強襲を仕掛けているが、依然としてゴーレムの動きは止まらない。


 娯楽土竜を狙った魔法はゴーレムの腕で受け止められ、どうにも膠着状態を繰り返していた。


「停止ボタンが見つからないならまぁ仕方ないな。このまま娯楽土竜が飽きるまでやるか」

「そんなこと出来るかい! ゴーレムは疲労せんけどなぁ、冒険者見てみい」

 

 冒険者を見てみると、確かに冒険者たちは刻々と疲労の色が見えた。

 動きもどこか精細を欠き、ゴーレムの巨腕に吹き飛ばされる人間も少しずつではあるが、増えてきていた。


「確かにこれはちょっと防戦一方って感じだな……」

「せやろ」

「まぁ皆が闘ってる後方で呑気に喋ってる俺らが言うことでもなさそうな気もするが」

「ま…………まぁな」


 ペントラと会話をしている内に、前衛としてゴーレムの巨腕を防いでいた屈強な男たちが吹き飛ばされ、冒険者たちの防御が手薄になった。

 ゴーレムの防御をしていた前衛がいなくなったことで、ゴーレムと戦っている冒険者たちに俄かに動揺が生まれた。


「よし今だ! 行くぞペントラ!」

「え…………ええええええぇぇぇぇ! ワイもなんかぁ!」


 俺はペントラの襟を掴み、戦場の最前線へ繰り出した。


 新たに前衛が生まれたからか、冒険者も落ち着きを取り戻し、攻撃を再開した。

 ゴーレムは新たに攻撃態勢を整え、再度巨腕を薙ぐ。


「ペントラ、防御だ! 中堅冒険者の力を見せてやれ!」

「で…………出来るかい! ワイは前衛職とちゃうんやぞ!」


 そう言いつつもペントラは手に持った二本のサーベルをクロスし、辛くもゴーレムの攻撃を受け止めた。


「あかんあかんあかんあかんあかん死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬもう無理や! これが俺の人生で最も頑張った瞬間や!」

「もうちょっと頑張れよ!」


 俺はペントラの背中を支えながら声をかける。


「っていうかお前はいつまでピコピコハンマー持っとんねん! もうピコピコハンマーなんか持っとるやつどこにもおらんやろ!」

「え?」


 周囲を見渡してみると、冒険者たちは一律自分の得物に武器を持ち変えており、ピコピコハンマーを携えている冒険者はいなかった。


「いつの間に……」

「いつの間に、とちゃうわ!」


 冒険者たちはその得物でゴーレムへ攻撃を再開するが、やはりゴーレムに大したダメージはなかった。


「きしゅきしゅきゅいーーーーーーーーーーーー!」

「「「きゅいーーーー!」」」


 冒険者の攻撃を全て受けきったゴーレムは、突如構えを変えた。

 娯楽土竜たちが何かを叫び、ゴーレムが何か大技を出そうという雰囲気が場に流れ出す。


「おいおいおいおいユーロ……なんかこれヤバないか⁉」

「なんか俺もそんな気がしてきたわ…………」


 前衛が交代し、ペントラという華奢な冒険者になったからか、ここを好機と捉えたのかもしれない。


 ゴーレムは瞬時に体躯を赤く染め、赤熱しだした。


「熱っ! 熱っ! なんやこれめっちゃ熱いぞ!」


 ゴーレムからは尋常じゃない程の湯気が沸きあがり、辺り一帯の気温が一瞬にして上がる。


「熱っ! 沸騰するぞお前ら! 皆逃げろ!」

「「「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 ゴーレムが赤熱したことで何か大技を出すと察知したのか、攻撃に回っていた冒険者やその様子をただ漫然と見ていた冒険者たちが後方に退避した。


「ちょっ、ユーロ! ヤバいヤバいヤバいヤバい! 逃げるぞ逃げるぞ逃げるぞ!」

「分かった!」


 俺とペントラは前衛としてゴーレムからの攻撃を防御していたため彼我の距離が近く、他の冒険者よりも逃げ遅れる。


 ついにゴーレムは最大限赤熱し、加速した。


「ユーロ後ろ! 後ろ見てみんかい!」

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ⁉」


 後方を見るとゴーレムが豪速で俺たちを追ってきており、一歩踏み出すごとに地面を抉り、地形を大きく変える。


「応戦、応戦するしかないぞペントラ!」

「なんでやあああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 俺とペントラはゴーレムへ向き直り、豪速で突っ込んで来たゴーレムの、容赦ない巨腕の一撃が振るわれる。

 

 ペントラはサーベルを二本交差させゴーレムの巨腕を受け止めるが、ほどなくしてサーベルは弾かれた。


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 俺はその隙に入り込み、ピコピコハンマーを打ち出した。

 

 ゴーレムの巨腕が右から、左からと俺たちを打ち付け、俺はピコピコハンマーで応戦する。


「なんとかしてくれユーロおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 サーベルを弾かれたペントラは俺の後ろで俺を支えており、後方を見やってみればいつのまにか多くの冒険者たちが俺の背中を支えていた。


「頑張るんじゃユーロ!」

「誰か知らんが俺たちを助けてくれぇ!」

「ゴーレムに負けるなぁ!」

「お前しか出来る奴はいない!」

「任せろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 ゴーレムは右手と左手を交互に俺に振るい、俺はそれをピコピコハンマーで応戦する。


 攻撃の間隔がどんどんと短くなり、ゴーレムの速度が一段と上がる。

 時間が過熱し、一秒一秒の間の内に生と死が混在する。ゴーレムの右手が振り下ろされ、ピコピコハンマーで応戦し、薙がれた左手を応戦しているうちに、また右手が振り下ろされる。


 瞬間的にゴーレムの拳が何度も何度も打ち付けられる。

 俺はそのたびにピコピコハンマーで応戦し、数多の衝撃に耐えかねたピコピコハンマーはひしゃげ、すでに原型を保っていない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 ゴーレムの右腕を跳ね返し、左腕を跳ね返す。

 右腕、左腕、右腕、左腕、右腕、左腕、右足、左足、右腕、左腕。


 刻一刻とゴーレムの動きは加速し、およそ二本の腕とは思えない数の拳を繰り出される。

 ゴーレムの信じられない程の攻撃の手数に、冥府の門がすぐそこで口を開けて待っているかのような錯覚に囚われる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 出すタイミングは、今しかなかった。


「ピコピコハンマーストリーム!」

「「「「ピコピコハンマーストリーム!」」」」


 俺の必殺技の宣言に、後方で俺を支えている冒険者も呼応した。



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