第30問 ロクでなし勇者は緊急クエストに巻き込まれる 2
一番前列にいた冒険者から順にピコピコハンマーを配り、受け取った冒険者から続々と街へと駆けて行った。
倣って俺もピコピコハンマーを受け取るが、俺の顔を見た途端、ライムは渋い顔をした。
「げ…………」
「げ、って何だ、げ、って。冒険者ギルドの窓口が冒険者にそんな対応をするとは何事だ」
「何事だ、じゃないですよ! ユーロさん、今回だけは絶対に余計なことをしないで下さいね。ここ周辺の娯楽土竜がいなくなると大変なことになるんですから!」
「俺が余計なことをしてきたみたいな言い方すんじゃねぇよ! ところで、この緊急速報って報酬とかあるのか?」
頓珍漢な質問だと言わんばかりに、ライムは顔をしかめ、口を大きく開けた。
「何も見てないんですか、ユーロさん? クエスト依頼板にでかでかと張ってあるじゃないですか! 娯楽土竜はピコピコハンマーで叩かれ続けると、泣いて森の方に逃げ帰るんですよ! その涙が一匹につき一つ結晶化するんで、冒険者ギルドでそれを一つ銀貨一〇枚で買い取るって書いてあるじゃないですか⁉」
「いや、他の冒険者たちに連れられて見てなかったんだよ。まぁ報酬が出るならやる気も出るってもんだな」
「本当あなたは報酬がないと動かないんですか⁉ はぁ…………まぁいいです、頑張って下さい、ユーロさん」
ライムは俺を激励し、背中を軽く叩いた。
ペントラやノーザン達は俺より先にピコピコハンマーを貰っており、俺のことを待っていた。
俺はペントラとノーザン達と共に、街へ駆けだした。
「ユーロ……お前ライム嬢と知り合いなんか⁉」
「ライム嬢……?」
ライムと俺のやり取りを見ていたのか、ペントラは目を丸くして、問いかけた。
「すげぇな、兄弟!」
「そ…………そうじゃぞ、ユーロ。お主がライム嬢と知り合いとは聞いておらんかったぞ」
「ま……まぁ俺の担当官だからなぁ。でも、あいつライム嬢とか言われてるんだな。知らなかったわ」
「アホかお前、ライム嬢のこと知らんかったんか⁉ 冒険者ギルドでも一、二を争う大人気担当官やないか! お前担当官がライム嬢って滅茶苦茶羨ましいな、おい!」
ペントラは少し興奮気味に話している。
あの泣き虫で苦労人のライムが……? と、少し驚く。
「いいのう、ライム嬢が担当官とは…………ワシらもライム嬢が担当官なら今頃熟練の冒険者に…………」
「お前らは誰が担当官でも中堅冒険者止まりだろ!」
「ガハハハハハハハ、違いないわい!」
益体もない会話をしている内に、冒険者が集まっている場所へとやって来た。
どうやらまだ娯楽土竜は現れていないらしい。
俺とペントラ達は先行していた冒険者たちの後につき、臨戦態勢を取った。
周囲に気を配りながら、娯楽土竜の発生を今か今かと待っていると――
「娯楽土竜がいたぞーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「何ぃ!?」
遠くの方で、娯楽土竜の出現を告げる声が聞こえた。
「キャーーーーーーーーーー! 下着がーーーーーーーー!」
「いやーーーーーーーーーーーー! 誰か助けてぇーーーーーーーー!」
「ああああぁぁぁ、待ってくれぇ! それは俺の最後の酒なんだああああああぁぁぁ!」
「待って…………待ってくれええええぇぇぇ! それは妻のために三か月お金を貯めて飼った指輪なんだああああぁぁ!」
「ぎゃあああああぁぁぁ、俺の魔石があああああぁぁぁ!」
「いやああああああぁぁぁぁ、私の靴下だけ盗まれたわああああああぁぁぁ!」
「新築の家が壊されたあああああああぁぁぁ!」
その声を皮切りに続々と市民からの悲鳴が聞こえ始め、酒を盗まれた者や指輪を盗まれた者、下着を盗まれた者など、阿鼻叫喚の嵐が突如街中を席巻した。
どうやら物陰に隠れていたらしい娯楽土竜が一斉に姿を現し、悪逆非道の限りを尽くしているようだ。
娯楽土竜は予想外にはしっこく、冒険者たちが三々五々に娯楽土竜を追いかけているうちに、既に数十人の市民が尊い犠牲となった。今も街中で指輪や靴下を奪い去った娯楽土竜を追いかけている。
戸を閉め厳戒態勢を敷いている市民でも娯楽土竜に侵入されているらしく、家の中からも悲鳴が聞こえてきた。
「恐ろしい様子だ……」
俺はその様子を見て、独り言ちた。
ペントラは即座に娯楽土竜の追い出しに向かっており、ノーザン達も動き出していた。
「ユーロ、ノーザン、誰が一番娯楽土竜を追い出せるか勝負や! 負けた奴は買ったやつに今日酒驕れ!」
「おぉ……いいのう、負けんぞ!」
「ちょっ…………てめぇら勝手に……」
俺の返答も聞かずに、ペントラやノーザン達は駆け出した。
「くっそ、負けてたまるか!」
俺も負けずに、娯楽土竜の討伐に身を乗り出した。




