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第2問 ロクでなし勇者は牢獄に入る



 魔王を討伐したという勇者――そう、俺。


 そんな俺は牢屋の中で一人じゃんけんをし、無聊を慰めていた。そんな折、一人の女看守が俺の下へと、コツコツと音を鳴らしてやってきた。


「言いたいことはありますか、自称魔王を討伐した勇者さん?」


 俺の前に立ち、女看守は俺を睥睨した。


「まあ」

「どうぞ」


 女看守は俺に先を促した。俺は軽く頷き、一拍。


「悲しきかな、魔王を討伐した勇者と言えども、人の法には縛られるのだ」

「わかりました、自称勇者さん」


 どうやら女看守は俺のことを勇者だと全く信じてくれてはいなかった。


「なんで自称だよ、ちゃんと魔王死んでるだろうが」


 俺は反駁する。が――


「あなたは今の世の状況を知らないのですか? 今世間では、自称魔王を倒した勇者が大量に発生しているんですよ?」

「マジすか……」


 現実は甘くなかった。本当に、国王の言った通りだった。正直心の中でどこかそんなわけはないだろう、と高を括っていた部分はあった。

 女看守の言葉を聞き、落胆する。道理で誰も俺の姿を見ても何も言わなかったわけだ。


「ところであんた、名前は?」

「食い逃げに名乗る名前など持ち合わせていませんね」

「ふぐっ……!」


 予想以上に苛烈な女だった。美しい容姿とは裏腹に中々口が悪い。

 そして俺は別に食い逃げをしたわけではない。予想外の支出が国王から貰った報奨金を超えてしまっただけだ。


「別に食い逃げしたわけじゃねぇよ。金が足りなかっただけだ」

「お金も持ち合わせてないポンコツ勇者なんですね」

「ぐはっ……」


 女は更に俺に軽蔑の眼差しを向けてくる。確かに勇者らしさがないことは否定できないが、まさかこんな所で適当に魔王を斃した弊害が出てしまうとは。


「それにあなたは酒場の備品を大量に破壊したと聞いています。これが勇者のすることですかね?」

「おぶぐはっ……!」


 痛い所をつかれた。もう何の反論も出来ない。


「なんとかならないのか? 俺勇者だから次の魔王戦に備えて体を鍛えておきたいんだが」


 まぁ、全くもって体を鍛える気なんてないが。さすがに獄中で楽しいスローライフが送れるとは思えない。


「それは難しいですね。あなたが本当の勇者だというなら無罪放免もやぶさかではないですが、生憎勇者様だという証左もありませんし」

「確かに」


 どうしよう。俺のスローライフがこんな所で終わってしまう。いっそのことこの監獄もぶち破って逃げ出してしまおうか。

 そんなことを考えて女看守とやり取りをしていると、足音が響いてきた。


 足音の鈍さを聞くに、相当な重量の人間のようだ。結構な重低音が響いている。女看守がその方向に目をやると、途端に顔を青くして姿勢を正し、恭順の姿勢を保ったまま地面に膝をついた。

 気になった俺もその方向に目をやると――


 俺を勇者に任命した本人、本国の国王、トール国王がこちらに向かい、やって来ていた。

 女は看守という立場があるのにも関わらず、先程から首を垂れ、全く動かない。見れば、顔や首元に大量の冷や汗をかいている。

 国王は俺の下へやって来ると女看守に一言。


「よいよい、おもてを上げよ」

「はっ!」


 国王の言葉に、女看守は頭を上げた。どうやら隣国であったとしても国王の立場というのは中々なものらしい。勇者に任命されるまでは田畑ばかり耕していたからそういった身分や階級のことは詳しくは知らなかったな。

 だが、良い所にやって来た。国王にこの湿っぽい監獄から出してもらう様に頼もう。


「おうおっさん、久しぶりだな。なんでこんな所にいるのか知らねぇけど出してくれよ」

「なっ……!」


 女看守は顔を青くして俺の方を向き、手に持っていた鞭を俺の近くに叩きつけた。


「無礼だぞ、貴様! 仮にもこの方は隣国の王だ! 控えよ!」


 えぇ……そんなにこの国王って偉いのか……?


「よいよい、止めよ」


 国王は鞭を地面に叩きつける女看守を制し、俺に声をかけてきた。何を偉そうにしてやがる。


「久しぶりじゃのう、勇者テンペストよ」

「はっ……はぁ!?」


 女看守は国王の一言を聞き、目を剥いた。その後ゆっくりと俺の方を向き、眉根を寄せ、死んだ魚を見るような目を向けてきた。おいおい、そんなに俺が勇者なのが嫌なのか。

 俺は王に向き直り、姿勢を崩し会話する。

 

「いや、全然久しぶりじゃねぇよ。おっさんの旅費が足りなかったせいで捕まっちまったじゃねぇか」

「えぇ……ワシのせい……?」


 俺はおっさんに文句を言う。


「す……すまんかったのう」

「まぁまぁ、分かればいいんだよ、分かれば」


 手をひらひらと動かし、許しの合図を送る。そんな様子を見た女看守はあんぐりと口を開けたまま、先程から固まっている。未だに俺が勇者だという事が理解出来てないみたいだ。


「ところでおっさん、俺酒場で飲みすぎて備品壊しちゃったみたいでさ? ちょっと金工面してくんね?」

「分かっておる。そのことを聞いて飛んできたんじゃ。全く……お主は何をやっとるんじゃ」

「はっはっは」

「誇ることではないのじゃが……」


 おっさんは、はあ、とため息をつく。どうやら国王って立場も大変そうだな。


「じゃがな、一つ約束して欲しいんじゃ」

「なんだよ」

「次に魔王が出たときにも我が国を見放さずに助けて欲しいんじゃ」

「あぁ~……」


 なるほど、それを言いに俺を助けに来たのか。


「まぁ、あれは軽い冗談だよ、冗談。俺はこの国でお気楽スローライフを送るけど次に魔王が来た時に俺が息災なら助けてやるよ」

「お主のは冗談に聞こえんのじゃがのう……。じゃが、頼むのう」

「おう。おっさんもいいとこあんじゃねぇか!」

「ははは、まあのう」


 こうして、国王は俺を助けてくれることを約束した。








 俺は女看守に監獄から出してもらい、監獄を横目に通路を歩いていた。

 おっさんと俺は女看守を後ろにして二人で歩いており、おっさんは女看守を一度振り返り――


「勇者テンペストよ、お主あんな綺麗な看守といっしょだったのかの。羨ましいのう」

「はぁ?」


 俺に耳打ちした。

 なんだこのおっさん、こいつスケベ国王なのかよ。


「いいのう、いいのう、お主。ワシもあんな美人な看守に見られるなら捕まっても良いのう」

「あ、そう」


 国王は俺に耳打ちし、女看守の方を振り向いた。

 当人の女看守はそんな国王の声が漏れ聞こえていたのか、小声で「下衆め……」と呟いている。おいおい、国王相手でもその毒舌は健在かよ。態度には出していないようだが、俺の勇者耳は聞き逃さなかったね!

 スケベおっさんはどうやら女看守の呟きは聞こえなかったらしく、頬を染めてちらちらと後ろを気にしている。まぁ聞こえなかったらわざわざ言わなくてもいいか、国際問題とかに発展しても困るからな。

 スケベ国王は遂に決心したのか、後ろをがばっと振り返り女看守の手を取り、


「お主、ワシの秘書にならんかの?」


 鼻息荒く、そう言った。要請を受けた本人は汚物でも見るような目で、顔をそらしている。


「す……すみません、私はこの監獄での職務がありますので……申し訳ございません」


 女看守はおっさんに気を遣った発言をした。不快感は全く隠していないがどうやら国際問題などに発展してはいけない、ということは分かっているようだ。


「おい、おっさん。そんなにこの女と一緒にいたいなら俺が手伝ってやるよ」

「んほっ、本当かの、お主! ならどうにかしてくれんか……」


 言葉途中に、俺はおっさんを監獄の中に放り込み、監獄のカギをぶっ壊し、鉄の棒をぐるぐるにねじり絡めて脱出不能の監獄を簡易的に作ってやった。


「じゃあ女、そこのおっさんを頼んだぞ」

「のおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 こうして、俺は監獄から脱出した。金がないからおっさんが持っていた財布の中身も多少くすねさせてもらった。いやぁ、ありがたいおっさんだ。

 因みに、女看守はスケベおやじに気を遣うことなく普通に俺と一緒に出てきた。おっさんも浮かばれねぇな。




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