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第1問 ロクでなし勇者は酒を飲む



「ぷはあああぁ! やっぱ酒はいいねぇ!」


 本国から亡命した当日、宿屋が特に見つからなかった俺は夜通し、酒場【美酒の語り部】で酒を飲んでいた。

 俺の他にも様々な冒険者が飲んでおり、酒場は大盛況と言っていい状態だった。


 酒を楽しみさかなを食べる俺の近くで、酒臭い髭面の男達が五、六人で徒党を組んで乱痴気騒ぎをしていた。酒の匂いの強さからして、朝から飲んでいたんだろう。


「がはははははは! 酒はやはり大勢で楽しむに限るのう、がははははははははは!」

「んなことは分かってんだよ、ノーザン! 良いこと言うじゃねぇか!」

「がははははははははは!」


 男たちは酒をドンと円卓に荒々しく置き、豪快に笑う。

 近くでかしましく酒を飲む強面の連中に嫌気がさす。なんなんだこいつらは、仕事もしないで酒ばかり飲みやがってこの飲んだくれが。

 

 ただでさえ碌なことがなかった今日に限って「酒はやはり大勢で楽しむに限る」などと聞くと、一人で飲んでいる自分がみじめな気分になる。


 ついに我慢が利かなくなった俺は酒が入っていたこともあってか、気付けば男連中に声を荒げて叱声を飛ばしていた。


「お前ら仕事もしねぇで群れて酒なんて飲んでんじゃねぇよ! 仕事をしてねぇなら一人で飲みやがれクソ野郎! 酒は一人で飲んでも美味ぇんだよ!」

「あぁん?」


 俺の言葉に気を悪くしたのか、男たちのうちの一人が俺に顔を向け、顔をしかめた。

 その男はいきり立ち、俺に詰め寄って来た。仲間の男たちがなだめようとするが、止まらない。


「おいおい兄ちゃん、群れて何が悪いってんだよ、あぁ⁉ 酒を楽しく飲んだら駄目なのかよ⁉」

「悪いね! 群れるなんてだっせぇんだよ!」

「がははははははは、一理あるんじゃないか?」


 酒の入った男たちは、俺の舌戦をはやし立てるかのように茶々を入れてきた。

 周りの客たちも俺たちの様子に気が付き、段々と合いの手の様な横合いが入って来る。


「おらおら、やっちまえぇ! 殴れ! 蹴れ!」

「ほっほっほ、ライザンの旦那や、どっちに賭けるかな? ワシは案外あの鎧も着けとらん男が強いことに賭けるぞ。あの男に銀貨五枚じゃ、ほれ」

「俺はリンズに賭けるな。リンズも中堅冒険者だ。あんな村人みたいなやつには負けねぇだろ」


 周りがいいように言っているが、俺には関係ない。

 俺は更に自身の意見を言い募る。


「仕事もしてねぇのに酒なんて飲んでんじゃねぇよって言ってんだよ!」

「うっせぇよ! お前だって仕事してねぇんじゃねぇのか、あぁ⁉ 冒険者か何かだって言ってんのかよ、こんな村人の服着てる癖によ! こんな冒険者の国で村人でもやってんのか、あぁ⁉」

「はぁ⁉」


 俺まで、仕事もしてない飲んだくれと同じだって言いてぇのかこいつは。俺は魔王を討伐した勇者だぞ。

 

「……」


 ……いや待て。魔王討伐をしてから今までで一体何の仕事をしたのだろう。

 いや、何もしていないな。確かに何もしていない。遊んで飲んだくれてただけだ。結局のところ、俺もこの飲んだくれたちと選ぶところがなかったわけだ。


 その事実に気が付いた俺は男にきっと向き直り――


「違いねぇ」


 そう言った。


「ぶっ、あはははははははは! そうだろそうだろ! お前も俺らと一緒の飲んだくれじゃねぇか!」

「わははは! 囲め囲めぇ!」

「あははははは、止めろよお前ら」


 俺は男たちに囲まれ、気が付けば肩を組み、


「「「はい、ろっくでっなし! はい、ろっくでなし!」」」

「わははははは、ワイらもやるぞぉ!」

「「「はい、ろっくでっなし! はい、ろっくでなし!


 謎の歌を歌っていた。


 周りの冒険者たちもつられて、皆で肩を組んで歌を歌っていた。

 気付けば酒場中の男たちが肩を組み、歌っていた。


 魔王を討伐し、故郷から亡命した当日から、娯楽の限りを楽しんだ。


 なんて楽しいんだ、仕事もせずに飲む酒は最高だ。




 そして朝、しこたまおっさん達と酒を楽しんだ俺は、手を振っておっさん達の帰宅を見送り、酒肴の代金の精算をしていた。


「金貨一六枚飛んで銅貨六枚になります」

「はいはい、金貨一六枚ね。金貨一六ま……は?」


 今、とんでもない額を請求された気がした。


「ちょっと待ってくれ。どうやら耳に酒が入っていたようだ」


 俺は頭を叩き、耳に入っていた酒を流そうとしてみるが、何も入っていなかった。


「オーケーオーケー、もう一回言ってくれ」


「金貨一六枚、飛んで銅貨が六枚になります」

「……は?」


 訳が分からない。金貨一六枚に銅貨六枚? いや……ちょっと高すぎないだろうか。


「ぼったくりかぁ!」

「いえ、違います。あなたが壊したこの店の備品の代金をも加味しての代金です」

「え……?」


 後ろを見れば、酒で酔って大量に破壊した円卓や酒樽、穴の開いた壁や地面が目に入って来た。


 ……やりすぎた。


 国王からもらった巾着の中身を見てみるが、金貨が一〇枚と何故か国王のプロマイドだけしか入っていなかった。魔王討伐から帰って来る時にも相当飲んで帰って来たせいで、軍資金もさすがにそこまで残っていなかった。


「すまん、金ねぇわ。ツケで」


 俺はそんな一言と共に、軽く手を振って店を出ようとしたが――


「逃がすわけねぇだろがクソボケがああああぁぁぁぁぁ!」


 鬼のような形相をした乙女が包丁を片手に俺に掴みかかって来た。


 こ……怖ぇ……さしもの魔王も裸足で逃げ出すレベルだ。


「い……いや、ほら、俺黙ってたけどさ、実は俺魔王を討伐した勇者なんだぜ? ちぃっとはマケたりさぁ、ツケの一つや二つもやってくれてもいいんじゃねぇのかな?」

「うっせぇわ! そんなもん私には関係ないんじゃ!」


 女は全く俺に怯まない。恐ろしい国に来てしまった。


「いや、でもさ? 俺と一緒に飲んでたおっさんにも非があるわけでさ? あのおっさんたちも半分くらいは払ってくれたっていいんじゃねぇの?」

 

 俺はこの女から逃げ出そうと、必死に口八丁で乗り切ろうとする。が――


「あいつらはお前が全額払う、って言って帰ったんじゃあぁぁ! 早いとこ払わんかああああああぁぁぁぁぁぁ!」

「あんのクソ野郎共があああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 裏切られた。今度会ったらただじゃおかねぇ、あいつら。


「おい、早く払えよ」

「ひっ……」


 女は俺に詰め寄り、包丁を俺の喉元に押し当ててくる。俺は女に恐れをなし、体が強張った。


「モッテネエ……」


 体がこわばったことが原因か、呂律が回らなかった。

 だが、そんなことを知ってか知らずか、女は尚も俺に詰め寄って来る。


「あぁ⁉」

「お金、持ってねええええええええええぇぇぇぇぇぇ!」

「逮捕じゃボケがあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 こうして俺は、現行犯逮捕された。

 魔王を討伐した勇者は、拿捕されました。



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