第17問 ロクでなしプリーストは実力者
レオネの激発から逃げ、俺は【美酒の語り部】の付近までやって来ていた。
「おっ…………おい! ユーロが帰って来よったぞ!」
「なっ…………何⁉ まさかこんな早くに兄弟が……⁉」
たまたま近くにいたペントラたちが、俺の姿を捉え、声を上げていた。
俺はペントラに歩み寄る。
「おっ…………お前、やっぱりやってなかったんやな⁉ ワイは信じとったぞ、お前がやっとらんってな!」
俺に向かって親指を立てる。
俺は片腕を上げ、久しぶりに望郷の地に帰還した旅人然とした行動をとる。
「よう帰って来た、ユーロ!」
ペントラは声を上げて俺に寄って来る。
俺もペントラに歩み寄り、
「お前は全然信じてなかっただろうがぁ!」
背負っていたバックパックを投げつけた。
「号外、号外~」
「またやっとるわマルクールの奴」
「迷惑な話だ」
ペントラ達と合流した俺は、【美酒の語り部】で飲んでいた。
マルクールは俺が出所したという新聞を街中に配りまわっている。
俺とペントラ達が飲んでいると、ティアがやって来た。
「ゆう様、脱獄してきたんですね!」
「違うわ、正規の手続きを踏んで出て来たわ。冤罪だ、冤罪」
ティアは頼んでもいないケーキを俺に持ってきていた。
「出所祝いですよ、ゆう様!」
「そうか…………」
俺はケーキを受け取ると、ペントラに渡した。
「ペントラ、お前も食え。俺からのおごりだ」
「なっ……なんやお前。気前がええやっちゃな。まぁええわ、そない言うんやったら遠慮なく食うわ」
ペントラは、ティアのケーキをパクパクと食べだした。
が、
「んっ…………」
途中で、口いっぱいにケーキを頬張ったまま顔を青くし、倒れこんだ。
「…………ティア、これはいつ作ったケーキだ?」
「え…………えへへ、五日前に、腐った食べ物で作ったんだぁ~」
やはり、腐った食材を使った腐ったケーキだった。
勇者の強い胃があったからこそ以前俺は何も思わなかったが、やはり一般人には少々刺激が強すぎる料理だったようだ。
「ティア、お前はもう少し料理の腕前を挙げた方が良いな。そして、腐ったものを俺に処理させようとするな」
「むぅ~~~~~~!」
頬を膨らませて、ティアは怒る。
こいつはもう少し常識とか感性とかを磨いた方が良いな。行動があまりにも幼稚すぎる。
ペントラは白目になって倒れているので、カウンターで酒を持っているロゼリアを呼ぶことにした。
「おい、酒プリースト、出番だ」
「ああぁぁ~ん、何だってぇ~~?」
ぷはぁ、と酒臭い息を吐きながら、ロゼリアはこっちを向いた。鼻をつまみながら、喋る。
「このままではペントラが死んでしまう。治癒してくれ」
「冒険者が冒険しないで他界するなんてそんなの駄目に決まってるからぁ~~~~」
ロゼリアは一升瓶を持ったまま、ペントラの下へとやって来た。
「芽吹け命~、治せ人体~、今ぁここにぃ我が名ロゼリアの祝意をもて顕晦せよぉ。キュアァヒィール」
左手に一升瓶を持ち、右手でペントラの胸に手を当てたロゼリアは、術式を唱えた。
なんだか、胡散臭いおっさんのやり口みたいだな。
ロゼリアの手元に魔法陣が出現し、柔らかな緑の燐光が手元に収束しだし、
「んっ…………はぁっ!」
ペントラは蘇った。
「はぁっ…………はぁっ…………! 婆ちゃん見えたぞ、ワイ川の向こうで婆ちゃん見たぞ!」
蘇ったペントラは興奮気味に喋った。
ロゼリアは何の疲労を見せないまま、また元いた場所に戻った。
俺はペントラを黙殺し、取り敢えずの報告としてマスターの下へ向かった。
「マスター、出所してきたぞ」
「あらぁ、ゆう君。やっぱりやってなかったのね。私は信じてたわよぉ」
俺に気付いたマスターは、対面に立った。
「嘘つけ。お前パンツ置いてったじゃねぇか。あんなもん獄中に持ち込める訳ねぇだろ。看守に処分されたわ」
「そうなの…………残念ねぇ……」
「残念なのはお前の頭だ。ったく……」
俺は酒を頼む。
マスターは酒を入れ始めた。
冤罪とマスターにも分かって貰った後は、またペントラ達の下に戻り、出所祝いということで宴会を開いた。
取り敢えずは冒険者として頑張るのは明日からにしよう。




