第16問 ロクでなし勇者は面会に臨む
「罪人ユーロ・テンペスト、出ろ。面会だ」
「面会?」
翌日、特にやることもなく冷たい床で寝ころんでいた俺は、突如レオネに面会の意を告げられた。
前回捕まった時は誰も面会には来なかったが、よくよく考えてみれば前回は殆ど知り合いがいなかったことに加え、そもそもすぐに出所していたな、と思い出した。
俺はレオネに言われるがままに、面会室へと付いて行った。
面会室には、マスターにミレー、ティアがいた。
「ゆうくん、大丈夫ぅ?」
「ゆう様が犯罪なんて…………」
「…………犯罪者になった」
口々に俺を慮る言葉を発する。
「いや、マスター。違うんだ。俺じゃないんだ。俺はやってない」
「そうなのぉ? じゃあ、女性のスカートをめくって回ったっていうのもやっぱり根も葉もない噂なのかしらぁ」
マスターはあざとく小首をかしげる。筋肉質なため、腕に筋が入る。
そういえばマスターは、俺がやらかした、ってことしか知らなかったような気がする。
「いや、ティアお前マスターにちゃんと説明してなかったのかよ! 勘弁してくれよ、俺が疑われるだろ!」
「女の敵!」
「ふっざけんなああああぁぁぁ!」
全てを忘れ去ったティアは自分の肩を抱き、ゴミを見るような目で俺を見ている。
「おいミレー、お前は覚えてるよな? お前は覚えてるよな?」
「…………女の敵」
「なんでだよっっっっっっ!」
ミレーもティアと同じく肩を抱き、ゴミを見るような目で俺を見ている。
「マスター聞いてくれ、スカートをめくったのは狸シーフに盗まれた俺の生活費を取り返すためだったんだ、信じてくれ!」
「うふふふふ、私がゆう君のこと信じない訳ないじゃなぁい」
マスターは嫣然と微笑みかけてくる。
なんて出来た人間なんだ。
「じゃあ、やっぱり今回捕まったのも……」
「そうだ、そうなんだ! 冤罪だ! エルフの女が起きて事情を説明してくれたら俺はここから出れるはずだ!」
「あらぁ……ならよかったわ。じゃあ心配すること無いわねぇ。私たちはここで帰るわ。早く出てくるのよ、ゆう君」
「おう!」
マスターは席を立った。
「あ」
そこで、ポン、と手を叩いた。
「そういえば、ゆう君に渡しておかなきゃいけないものがあったわぁ」
何かを思い出したかのように、マスターはポケットに手を入れ、ごそごそと何かを探し出した。
「未使用なんだけどごめんね。はい、ゆう君、これ」
マスターは、女性もののパンツを取り出した。
「お前も信じてねぇじゃねえかああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女性もののパンツをレオネに渡したマスターは、そのまま帰って行った。
その後、その日は誰も面会には来なかった。
二日目。
「あーだりー」
マスターが面会に来たことで多少の退屈は緩和されたが、未だ俺は監獄の中で暇を持て余していた。
いつものように向かいの異常者の話を聞いていると、
「罪人ユーロ・テンペスト。面会だ、出ろ」
レオネが、面会の旨を告げるためやって来た。またマスターか? と胡乱げな顔をしながら、付いて行った。
「ユーロ、お前いつなったら出れるんや?」
「おい兄弟、やっちまったなぁ、おい」
面会には、ペントラとリンズたちが来ていた。
「しかしユーロ……いつかやるとは思とったけど、あんまりにも早すぎるんとちゃうか?」
「いや、俺はやってない」
何度目ともしれない否定を、する。
「兄弟、お前がいつも座ってたカウンター席はちゃんと取ってるからな……」
「リンズ…………」
今まで見たことのないような感傷にひたるリンズに、少し驚く。
「お前が座ってた席には、今でも毎日女性もののパンツが置いてあるぜ…………!」
「全然俺のこと待ち望んでねぇじゃねぇかああああぁぁぁ!」
結局こいつらもか、と叫ぶ。
「どうしたんじゃユーロ、お主最近何か嫌なことがあったんじゃろ? 今度は、ちゃんと綺麗なユーロで出て来れるよう、刑期を全うするんじゃぞ」
「いや、止めろよノーザン。もう完全にやっちゃった人に言うセリフだろそれ。俺はやってねぇっつぅの」
俺とペントラ達が話し合っていると、レオネが前に出た。
「今日一日の面会時間は終了だ、罪人ユーロ・テンペスト」
「はぁ…………分かった。じゃあな、お前ら」
俺は別れの挨拶をするが、
「ざっ…………罪人…………ぷ、ぷくく……」
「ぶふふっ…………」
「ぐ…………ぐふ……」
ペントラ達は、笑いをかみ殺しながら退出していた。
「てめえらふざけんなあああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
退出するペントラ達の背中に、俺はただただ叫ぶしかなかった。
次会ったときにはぶちのめす。
三日目――
面会に、ロゼリアが来た。
「冒険者っていうのはぁ、冒険に一心に励む職業であってえぇぇぇ、犯罪を犯して良い職業じゃないって…………ぷはぁ~」
「ロゼリアさん、面会室に飲食物の持ち込みは禁止です」
入室と同時に酒を取り上げられたロゼリアは、突如動きを停止した。
「…………罪人ユーロ・テンペスト、何故か動かなくなったぞ。どうすればいい?」
「いや、知らない人ですね」
俺は無関与を貫いた。
四日目――
試験監督をしたバニラがやって来ていた。
「ユーロ・テンペスト! お前私の勝負も受けずにどうして捕まってるのよ⁉ かくなる上は……今勝負しなさい!」
バニラは術式を唱え、魔法を行使し始めた。
「なっ…………何をしてるんですかバニラさん! 止めてください! お前ら、早くバニラさんを外に連れ出せ!」
「「「御意!」」」
「離して! 離して! 私はあの男と勝負を付けなくちゃならないの!」
バニラは職員に連れていかれた。
五日目――
本国の王、トール国王がやって来ていた。
「ええのぉ、ええのぉ、ユーロや。女性のスカートをめくったとは」
「おいレオネ、このおっさんを監獄にぶちこめ」
「そうだな」
「のおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
トール国王は牢屋にぶち込まれた。
六日目――
俺の担当官ライムがやって来た。
「ユーロさん……なんだか最近冒険者ギルドにいると妙に眠い気がするんですよね……なんだか、あのエルフの女性がやって来てからな気がするんですけど、また問題を持ち運んできたんじゃないですよね?」
「知らないですねぇ……」
俺はライムと目を合わせない。
「もう本当最近なんだか無性に眠い気がするんですよね…………あ、あとエルフの女性はもうすぐ起きそうな気配がしてます。どうしてあんなに長く寝てるんでしょうね?」
「もうすぐか……」
俺はライムから吉報を授かった。
そして七日目――
「ユーロ・テンペスト、出ろ。釈放だ」
「釈…………放?」
一週間にわたる退屈な日々を過ごした俺は、ついに釈放されることになった。
「ようやく出れるのか……」
「ああ。貴様が森の奥から連れて来たエルフの女性が貴様から受けた婦女暴行や猥褻行為、窃盗など全てを否定したという通達が届いた。貴様は出所だ」
「ライムの言った通りだったな」
ようやくあのエルフの女は起きたらしい。つまり、一週間眠り続けていたことになる。何者なんだあいつは。
エルフの女のことも気がかりだが、早く出所したかったため、俺はレオネについて行った。
「じゃあな、ユーロ・テンペスト、今回の一週間にわたる拘置を全うし、誠にご苦労だった」
「え…………はぁ? それだけ?」
レオネは何の表情も見せずそう言った。
いまいちまだ納得できない。
「お前無辜の人間を入れておいてその態度か! てめぇ、ちょっとは反省の言葉の一つや二つ言いやがれ!」
「それが私の使命だ。悪かったな」
俺のことを一瞥もせず、資料に目を通しながら投げやりにいう。
俺はレオネの、全く悪びれもしない態度に腹が立った。
「けっ……このクソ野郎が! お前なんて一生男の一人や出来ねぇよ! 天涯孤独で過ごしやがれクソ野郎が! ばーかばーか!」
「貴様ああああああああぁぁぁぁぁ!」
激高し追いかけてくるレオネを尻目に、俺は行きつけの酒場へと逃げ帰った。




