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プロローグ



 魔王――それは、数カ月から果ては数十年もの間隔を空けて定期的に現世に顕現する災厄。


 魔族の王たる魔王は人々に最大級の災厄を与え、魔王が現れるのと同時期に、魔王を討伐するための主軸である“勇者”が選ばれてきた。


 そんな魔王が再びこの世界に現れ、辺境の村に住む俺――ユーロ・テンペストは勇者に選ばれ、国王に呼び出されていた。


 俺は、荘厳で精緻なレリーフが所々に施されているという豪華絢爛な王宮へと赴いた。









「勇者テンペストよ、よくぞ来てくれた。この世界に災厄をもたらす魔王が再び現れ、その勇者として君が選ばれた。我が国でも最高の精度を誇る占い師によると、君は史上最強の勇者であるらしい。どうか、どうか魔王討伐に力を貸して欲しい」


 人々からの憧憬を一身に受け、尊敬の眼差しで見られるという勇者。

 そんなものに選ばれ、現在進行形で国王から要請されている俺は――


「いや、嫌だわ」

「ええ⁉」


 考える間もなく、拒否した。


「いや、大体何で勇者なんてならなきゃいけねぇんだよ、なる訳ねぇだろ」

「えぇ……いや、そこは『これこそが私の使命です!』とかって言うところじゃろう」


 先程までと打って変わって、国王の態度が砕けたものになった。やはり先程までは国王としての威信を発揮するため、とかいった理由で堅苦しい態度をとっていたんだろう。


「いや、別にこの世界の命運とか興味ねぇわ。それに俺が魔王討伐出来るくらいなら俺が危険になった時に魔王討伐するわ。放っといたら勇者の俺じゃなくても誰かがやってくれるだろ。まぁ気長に待とうぜ」

「えぇ……誰かがやってくれるって……そんなことで良いのか、お主は……」


 国王は困惑した顔で俺を見る。


 俺は勇者に選ばれたらしいが、勇者となるのに必要な儀式を受けてその力を見に宿すようなものではなく、元々勇者としての力を持っている者が発見される、といった方が正しい。


 事実、俺は物心つく前から自分ですら制御出来ない程の力を持っており、この勇者の力を利用して、田畑の耕作なども大分サボって来た。

 俺は仕事や義務に縛られるのは嫌だ。

 遊んで暮らして、この世の快楽の限りを貪りたいのだ。


 だが、国王も俺が勇者となってくれないとなれば話は変わってくるため、必死に俺を説得させようと、堰を切ったかのように喋り出した。


「いや、でも勇者として魔王を打ち倒すことこそが、その力を持った者の義務というかの……」


 滔々とうとうと国王は喋り続けるが、俺はそんな綺麗事には騙されない。

 俺は俺の道を行く。


「いや、知らねぇよ。どうせ俺が魔王を討伐したら魔王を討伐した勇者の故郷とか、勇者を送り出した国だとかちやほやされるんだろ」

「ま……まぁその通りなんじゃが……」


 やはり、その通りだった。


「というか魔王討伐に行かせようとしてんのにこの初期装備はどうなんかね、薬草と仕様もない石剣って何考えてんだよ。殺す気か」


 俺は国王に貰った薬草と石剣を持ち上げた。

 国王から初期装備として旅の資金やら何やら貰ったんだが、戦闘で使えそうなものは薬草と石剣しかもらえなかった。勇者に対する扱いがこれか。


「いや、それは勇者としてのお主の今後の成長を考えて装備品を送ったというかその……なんというかの?」

 

 国王は反駁する。だが俺の正論を舐めてはいけない。この国王には勇者という俺の価値を分かって頂かねばならない。


「どうせ勇者のための費用をケチっただけだろ。本当に魔王を倒してほしいなら聖剣エクスカリバーの一つや二つ貸しやがれ」

「聖剣エクスカリバーがこの世に二つもあってたまるかい!」


 国王は更に反駁する。


「聖剣が貰えねぇなら魔王なんて倒しに行かねえよ。おっさんが行きやがれ」

「む……むぅ……わ、分かったわい。聖剣を貸し与えてやろう。ただし、聖剣エクスカリバーを貸し与えるからには、ちゃんと魔王を討伐するんじゃぞ?」

「分かってる、分かってる」


 俺は、国王から聖剣を譲り受けることに成功した。








「じゃあ今度こそ頼むぞ、勇者テンペストや」

「う~ん……」


 国王は、側仕えに指示して持ってきた黄金の聖剣エクスカリバーを俺に渡した。

 受け取りはしたが、俺は更に逡巡していた。


「いや、魔王討伐行ってもいいんだけどな、なんかこう~……俺が魔王討伐に行く利益とかがないとなぁ、なんとも行く気にならねぇわ」

「お……お主聖剣を譲り受けておいてその態度かの!」


 国王は酷い顔で反駁した。

 確かに聖剣を貰ってこの態度は酷すぎる気がするが、俺は勇者だ。それなりの扱いというものがあるだろう。


「おい、おっさん。俺は勇者だぞ? 俺がこの聖剣を一振りすりゃあこの豪華な建物も吹っ飛ぶことになるぜ?」

「き…………汚いぞ! ワシをかつぎおったな! お……お主それでも勇者か!」


 国王は、俺の脅しに身をひいて少し恐怖した。だが、俺は俺として魔王討伐に行く理由が欲しい。そうだな、魔王を討伐すればこの国の金銀財宝を好きに出来るとかだな。


「…………れるぞ……」

「ん?」


 そんな風に何かしらの報酬を提示することを待っていると、国王は不意に呟いた。

 だが、何を言っていたのかあまり聞こえなかった。


「え? なんて?」

「魔王を討伐すれば金も女も寄って来る、超絶うはうはライフが送れるぞおおおおぉぉぉぉーーーーーーー!」

「乗ったああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 国王はそんな俺の要望を受けて、大声で宣言した。


「よし……行くか」


 こうして、俺は魔王討伐の旅に出かけた。








 今回魔王が現れたというのはこの世界の最西端と言われている。


 俺は聖剣を貰ったので特に何かしら準備することもなく、魔王がいると言われる場所に向かった。


 さすが史上最強の勇者と言われているだけあるからか、俺はたった一人で仲間を集めることもなく容易に魔王の元へたどり着き、特に何かしら苦労することもなく魔王を斃した。


 着の身着のまま村人の服に聖剣を装備しただけの適当な装備でも容易に勝てた。魔王討伐にかかった期間は、魔王の元にたどり着くまでのたった一週間で終わった。何の山もない何も面白くない冒険だった。







 そして一週間かけて国に帰ってきた俺は再度国王の下へと赴いた。


「おいおっさん、倒してきたぞ」


 俺は王宮に着くや否や、国王にそう報告していた。


「ご……ご苦労じゃったな、勇者テンペストよ。じゃ……じゃがのう、ちょっとその聖剣返して欲しいんじゃ……」

「…………はぁ?」


 魔王を討伐して国王にそう報告したというのに、国王から言い渡されたのはなんとも訳の分からないものだった。

 国王は二の句を継ぐ。


「いや……そのじゃの……お主が魔王を倒すのが余りにも早くての? たった一週間で魔王を討伐したとか普通思わんじゃん?

 だからのう、今回の魔王の出現は『魔王の魔力が高すぎてその魔力に身体が耐え切れずに自壊した』とか『今代の魔王がとんでもなく弱かったせいで漁師の釣り針に引っかかって死んだ』とか『あり得ない程の下痢の症状に襲われる毒草を食べてしまって魔王は脱水症状で死んだ』とか、そういう風に街談巷説されておっての、勇者の存在が全く認知されてないのじゃ」

「はあ」


 つまりなんだろう、勇者を送り出した国としての功績が全くなく、聖剣の出費は大きいから返して欲しい、ということなのだろうか。

 

 俺のその推測が正しいか国王に訊くと――


「ま……まぁ、大体その通りじゃの……」


 国王は白状した。どうなってんだ、この国は。クソ野郎だらけじゃねぇか。


「ま……まぁ聖剣を返してもらうのじゃがワシらが頼んだことじゃからの? まぁ多少は報酬はあるが……それで勘弁してくれんかの?」 

「嘘だろ……」


 俺は国王から、何かが入った焦げ茶色の巾着を貰い、聖剣を取り上げられた。最悪だ。

 折角魔王を斃したのにも関わらずこの扱い。どう落とし前をつけてくれようか、この仕打ち。

だが、ここで国と敵対することはどう考えても得策ではない。なにより、俺に利がない。

 

 国王からの報酬が想像の遥か下をいく代物で、腹を立てた俺は――


「畜生、ふざけやがって! こんな国潰れちまえ! 次に魔王が出てきた時はここから滅びやがれクソ野郎!」

「まっ……待たんか勇者テンペストよ! まっ……待ってくれええええええぇぇぇぇ!」


 負け惜しみのような捨て台詞を言い残し、俺は腹いせに国を出た。


 こんな国二度と戻って来るか!




 こうして俺は勇者としての使命を投げ出し、隣国のレムル国に亡命した。これからは俺のお気楽スローライフの始まりだ。




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