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CATCH!  作者: 龍之介
5/22

謎の男、その名は・・・・

いつものように張り切って練習を始めようとした吾郎の前に、一人の男が現れた。その名は・・・・

 ある日、吾郎はいつものように授業が終わると、一番に部室兼道場にやってきた。

 鍵を開けて、中に入る。

 この時が彼にとっては、今や至福の時間なのだ。

 手早く着替えを済ませ、掃除、それから準備体操、ストレッチで身体をほぐす。

 続いて軽いウェートレーニングにかかる。

 腹筋を百回済ませると、次に腕立て伏せにかかった。

 その時、入り口のドアが開く音がし、誰かが入ってきた。

(先輩の誰かが来たのかな)

 そう思ったが、吾郎は頭を上げず、黙々と腕立てに集中した。

 本当なら、頭を上げて挨拶せねばならないのだが、一度入りこんでしまうと、周りが見えなくなる性格なのだ。

 その誰かがごそごそとマットの後ろのロッカーのあるところで着替えをしているようだ。

(89、90、91・・・・)

 その時である。

 背中に、

 ズシッ!

 という重みを感じた。

(ぐっ!)

 息が詰まりそうになった吾郎だが、そのまま何も言わずに腕立てを続けた。

『ほう・・・・やせっぽちのくせに、意外と根性があるじゃねぇか?』

 からかうような低く、太い声が、頭の後ろから響いてきた。

(110、111、・・・・・)吾郎はそのまま続け、ノルマの200回に達した。

 ペタン、と、マットの上にへばり、頭を斜めにあげ、後ろを向いてみると、そこには妙な男が立っていた。

 年は恐らく、50をとうに過ぎているだろう。上背はあるが、特にそれほど逞しいというわけではない。

 しかし、付くべきところに、筋肉がついている。

 頭は角刈りで、いかつい顔に口ひげを生やしている。

 目は鋭いが、どこかに人懐こそうな感じを与える。

『あの・・・・誰?』

 吾郎がそう言いかけると、男はそれには答えず、いきなりガサガサした低い声で、

『お前、レスリングは素人だろ?』と聞いた。

『はい、そうです・・・・』立ち上がり、傍らにあったタオルで汗を拭いた。

『始めてからどのくらいになる?』

『もう二か月くらいです。』

『基礎は習ったんだな?じゃ、来い!』

 男はそういって、首に引っ掛けていたタオルを取り、ポンと後ろに投げた。

 軽くぴょんぴょんと二・三回跳ねてから、男は腰を落とし、構えた。

 関節技はまだ教わっていなかったが、アマレス形式のスパーは何度か教わっていたので、吾郎は、

『お願いします!』といい、男に向かってゆこうとした。

 彼はにやりと笑い、すっと手を出した。

 握手を求めているのだ。

 少し拍子抜けしながら、吾郎はそれに応じた。

 すると、手が離れると間もなく、彼の腕が吾郎の首に蛇のように巻き付き、そのまま腰に乗せられて、いとも簡単にマットの上に投げ飛ばされた。

 あっと思う暇もなかった。

 慌てて起き上がろうとしたのだが、身動きが取れない。

 男の右腕が吾郎の首に巻きつき、首を軽く持ち上げているだけなのに、たったそれだけで、彼はまるでピンで止められたように、上半身がマットに張り付いたままなのだ。

 と、次の瞬間、

『ぎゃあっ!』と、彼は叫び声を上げていた。

 男が吾郎の右腕を自分の太ももに乗せ、上からもう一方の足で、ぐいと挟み込むようにして、肘を持ち上げたのだ。

 激痛、というのはああいうことをいうのだろう。

 吾郎はやっと空いている左手で、男の背中を叩かなかったら、間違いなく彼の右肘は折れていたはずだ。

 男は首に巻いていた腕を離し、立ち上がった。

 吾郎は、何が起こったのか、全く理解が出来なかった。

『ほい!もういっちょう!』男は右手をこちらに向けて、指を動かして誘いをかけてくる。

 少しむっとしながら、吾郎はかかっていった。

 太ももを狙って、タックルに行く。

 だが、相手は完全にこちらの動きを読んでいたようだ。

 すっと、身体を後ろに引き、手が届かない距離まで離すと、いつの間にか吾郎の腕をとっていた。

『ぎゃぁっつ!』

 又しても、あっという間であった。右腕の腋を固められ、其のままマットに押さえつけられた。

 腋固めである。

 マットを叩く。

 再び起き上がる。

 またかかってゆく

 だが、その度に、右腕、左腕、足首、膝、そして首と、ありとあらゆるところを固められ、最後は声を上げてマットを叩くしかなかった。

 どのくらいそうしていたろう?

『おい?どうした?坊や、もう止すか?』男はにやにや笑いながら、両手を腰に当ててこちらを見下ろしている。

『・・・・・・』吾郎は何も答えず、肩で息をするばかりだった。

『あれ?鮫島先輩じゃないすか?』

彼らの後ろで声がした。

 吾郎が頭を上げると、そこには笠井、南雲、遠藤の三人が立っていた。

『よう、お前らか』

『何をしてるんです?』

『久しぶりに暇が出来たんで、寄ってみたら、この坊やが一人で練習してるもんだからな。ちょっと遊んでやったのよ』と、鼻をこすりながら愉快そうに言った。

『スパーをやったんですか?関節アリで?でも塩原にはまだ教えてないんですが』

『みたいだな。でもこの坊や・・・・いや、塩原か、なかなか根性があるぜ。』

『おい、塩原、ちゃんと立って挨拶をしろ。この人はナ・・・・』と、笠井がそばに来て言った。

 彼の名前は鮫島鉄兵。

 笠井の中学時代の柔道部の先輩だそうだ。

 鮫島・・・・鉄兵・・・・

『あっ!』

マムシの鮫島!

ようやく思い出した!

 すると周りから、どっと笑い声が起こった。普段はあまり感情を表に表さない遠藤まで愉快そうに笑っている。

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