決着、その二
遠藤は、マットの中央に出ていくと、有馬の顔を正面から見据えて、表情も変えず、開始のブザーと共に先に攻撃を仕掛けた。
先手、先手と次々に技を繰り出す。
だが、どれも完全には極まらない。
有馬は流石に試合巧者だ。
結局、フルラウンド闘ったものの、最後の最後にヒールホールドがかかり、無念のタップとなった。
『すまねぇ・・・・』
陣営に帰ってきて、彼がまず言ったのは、吾郎に対してだった。
次は、笠井の出番である。
大柄の笠井は、関節技はあまり得意な方ではないが、まず投げ技を何度も繰りだした。
特に、二回連続でのジャーマン・スープレックスは迫力があった。
これがもし、フォール勝ちありのルールだったなら、間違いなく彼が勝っていたろう。
だが、ギブアップを取らねば勝ちにならない。
必死で相手を転がそうと粘ったが、結局最後はアームロックを極められてしまった。
『まだまだだな・・・・俺も』、帰ってきて、笠井は悔しそうに言った。
『いいさ、まあ、真打の俺迄美味しいところを取っておいてくれたんだからな』
愉快そうに言って、南雲がベンチから立ち上がり、首にかけていたタオルをポン、と投げた。
『おい、達也、調子に乗るんじゃねぇぞ!』
鮫島の野太い声が飛ぶ。
お互い、関節技巧者だ。
互いに相手のスキを伺い、技をかけてゆく。
一歩も譲らない、好試合になった。
南雲の闘い方は、実にリズミカルで無駄がない。
相手に関節を取られたら、すぐにそれを外し、今度はこちらがかけてゆく。
有馬も、前に何度か手合わせをしているので、お互いを良く知っているようだ。
結局、勝負はフルラウンドの末、決着がつかず。ドローとなった。