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初勝利!
とても勝てないと思っていた吾郎は意外な勝利に戸惑う。
『それまで!』レフリーの声が響いた。
しかし、敵味方どちらの陣営も、しばらくしんと黙りこんでいたが、やがて、味方からは歓声が、相手側からはざわつきが起こった。
レフリーが、二人を中央に呼び、吾郎の右手を高々と上げ、握手を促した。
熊谷選手は、極められた肘をさすりながら、少し忌々しそうな顔をして、黙ったまま右手を差し出した。
吾郎も黙って握手を済ませた。
陣営に帰ってくると、三人の先輩から、次々と肩を叩かれた。
しかし、当の吾郎は、まだ何が起こったか、しっかりと把握できていなかった。
彼としては、
『普段通りやればいい』
それだけを考えて試合に臨んだだけだったからである。
『おい、ぼやぼやするな!まだ次があるんだぞ!』
腕を組んでじっとこちらを見ていた鮫島が言った。
そうである。
これは勝ち抜き戦だから、まだ試合は終わっちゃいないのだ。
『はい!』
吾郎はそう答えて、マットの中央サークルへと出て行った。