いざ、出陣! その3
いよいよ試合当日である。吾郎のテンションは、嫌がうえにも高まってゆく!
試合場は、吾郎達の住んでいる市のほぼ中央にある城址公園にある『武道会館』というところで行われるそうである。
そこは柔道、剣道はいうに及ばす、その他数多くの格闘技や武道の大会や練習が、ほぼ毎日のように開催されているそうだ。
今回の定期戦は、三回にある剣道場の一角を借りて行われる。
床は板の間でかなり広い。
畳敷きで約400畳くらいはあるだろう。
会場に入ってみると、もうすでに剣道や空手なんかの団体がやってきて、練習を開始している。
どうやら一番奥の一隅で開かれるようだ。
そこには、もう既にアマレス用のマットが敷いてあり、四方をマットで押さえた、急ごしらえの試合場が完成していた。
相手の団体はこちらより人数が多い。20人はいるだろう。
こっちは、試合に参加しない、コーチの鮫島さんを除くと、笠井主将、南雲副主将。マネージャーも兼任の遠藤先輩、そして塩原吾郎の、たったの四人である。
遠藤先輩によると、相手の団体は県下でもトップクラスを誇る実力の、アマチュア総合格闘技団体で、全国の大会にも出て、これまでいいところまで行っている強豪なのだそうだ。
そして、この団体の代表という人は、鮫島さんのプロレス時代の後輩にあたり、やはり関節技に魅せられて、従来のプロレスに飽き足らず、自分で団体を創ったという。
『先輩!鮫さんじゃないすか?』
吾郎達と反対側の席で、ウォームアップをしていた選手たちを見ていた1人の男が、鮫島の姿を認めて声をかけてきた。
背はそれほど高くないが、肩幅の広い、がっちりした体格の男である。
『おお、郷原!』
鮫島は相好を崩して近づき、互いに握手を交わした。
その人は、
『アイアン郷原』というリングネームで活躍しており、プロレスにさほど興味のなかった吾郎でも名前を知っていたくらいであった。
郷原は笠井主将や南雲先輩、遠藤先輩は既に顔見知りだったが、吾郎に会うのは初めてだった。
鮫島が、
『こいつは一年生の塩原吾郎だ。今日の試合、先鋒で出るんだ。』鮫島がそう言って紹介すると、
『そうですか。まあ、しっかりやれよ!』そう言って吾郎の肩をポンと二・三回叩いた。
正直、その態度から、あまり眼中にはないなと思ったに違いない。吾郎はそう察した。
『ようし、俺たちもウォームアップだ!』笠井が声をかけると、四人は円陣を組んで身体をほぐし始めた。