共通② 学者ではなく趣味である
新斗は政府が社会不適合者をお払い箱にしたのだと、ディレスタントの話を半信半疑、まともに取り合わない。
「我々の世界のお上は君らの世界の、お偉い方と交信した
この世界のモンスターを倒さねば、この世界が滅ぶだけではない
いつかは君らの世界に、モンスターが現れる」
ディレスタントの説明を聞いて、新斗は混乱しそうになる。
「取引をもちかけると、そちらのお上は君らのような立場から見繕って人材を派遣したのさ。
これで君のいまの置かれた立場はわかったか?」
新斗はなぜ、ディレスタントがそんな機密と思わしき情報を得ているのか、違和感を覚えるが、おかしいと思うことはその他にもある。
「戦うなら軍とかそういうのがやるもんだろ
なんでよりによって、俺達なんだ」
引きこもり無職が戦闘など、殺人行為だと言う。
「どこの世界でも、捨て兵に自軍を使う愚か者はいるまい」
「あ…」
「だから君はニートなのだよ」
「どういう意味だよ…」
(ディレスタントは何が言いたいんだ)
新斗には彼女の言葉の意図がわからない。
「大変だ!!」
「おじさん、どうしたんだよ!?」
向こうから血相を変えて走って来たのは、異世界に来て最初に会った肉屋の店主。
「おう、兄ちゃん!とにかく大変なんだ
ついさっき町の中心にでかい怪物が現れたんだ!!」
店主はあわてふためき、巨大モンスターの大群が現れたと騒ぎ立てる。
「さ、駆除にいくのだ」
「なに冷静に“コンビニ行く”ノリで言ってんだよ
無理に決まってるだろ」
「ちっ」
「ね、さっきのあの女の子の話が本当なら、あたしたちがモンスターを倒せばメチャクチャボロ儲けじゃね?」
「おさっ見にいくか!バケモンなんてどうせ大したことねーよ」
カップルと思わしき男女は、モンスターを野次しに行った。
「間違いなくあいつらは死ぬな」
「んなわかりきったこと言うなよ」
「予測できているなら言っても相違ないでないかね?」
ディレスタントはそれほどまでに、モンスターのところへ行かせたいのだろうか。
新斗を嫌がおうにも、戦わせたくなるような煽り方をした。
(結局俺は行かないとだめなのかよ)
行っても自分は無駄死にするだけ、そんなことは、新斗にはわかっていた。
「行けばいいんだろ
危なくなったら逃げるからな」
「そうと決まればゼンは急げ」
到着した広場は洋館およそ2つ分ほどの広大な敷地。
モンスターはそれを上回る体積であった。
もはや、怪獣映画の領域に等しい。
「常識で考えろ無理だろ
人間サイズならまだしも怪獣だ」
「考えるな新斗くん
カイジュウを倒すように思考を集中したまえ
全ての感覚を研ぎ澄ますんだ」
ディレスタントが目を閉じる。
つられて反射的に新斗の瞼も下がる。
ドシリとした重たい足音、鈍い空気が近づいてくる。
兎に角、奴を倒す。そうしなければ、自分が死ぬ―――――。
新斗の身体から、膨大なエネルギーが発せられた。
巨体は真っ二つになり、灰のようにサラサラと風に消えた。