共通① 俺は自宅警備員
「法律の改正で、無職の方は強制的に異世界に送られることになりました」
ジャポナス全国のニートに激震走る。
「なななな…なんだって!?」
(異世界ってあの異世界かよ!?)
二十歳になったばかりの仁井山新斗は、一瞬で見知らぬ場所へ移動していた。
――――
(なんで俺は、こんな場所に連れてこられたんだ…?)
新斗はあたりをきょろりと見渡す。
(俺の他にも被害者がいるのか…)
近くには新斗と同じく、政府に連行された男女が数名いた。
新斗はじっとしていることに飽きた為、まっすぐ道を歩き始めた。
他の男女は、途方に暮れつつ、新斗に続いて歩き出す。
(パッと見、昔の外国…フランポーネあたりか?)
少なくともまともな場所であることを把握でき、一先ず息をついた。
(旨そうな匂いがする…)
巨大な肉が、出店のような場所で焼かれている。
芳ばしい匂いが、空腹を沸き起こすかのように、鼻腔を刺激した。
「よう、兄ちゃん。異世界から来たのか?」
気のいい店主は、新斗に声をかけた。
「ああ、そうだけど(言葉は通じるのか)」
新斗にとって、雑種やネット等の娯楽がないのは不便であった。
「皿洗いしてくれたら特別に肉かなんかをやるよ」
「やります!!」
理不尽な政府に、怒り半分、楽しさ半分、心を踊らせる新斗。
(世界旅行なんてしたことなかったしな)
旨い肉を貪り、置かれている状況を、冷静に受け止める。
「ありがとな・おじさん」
「おう、またこいよ!」
新斗は気分よく店を後にした。
「あれは…」
「今回の救世主候補らしい」
―――――
新斗が再び散策を始めると、近視眼のある状況と遭遇してしまう。
「よう姉ちゃん、オレ等と遊ばねー?」
黒の皮ジャン、モヒカンヘアーでパンク衣装の素行の悪い男が、探偵のような帽子と、長めのケープといった珍しい衣服の少女に、絡んでいるではないか。
(あの子はこの世界の人か…それより、助けないとな)
新斗のほうから表情は見えないが、嫌がっていると考えるのが妥当だ。
「おい、止めろよ!」
新斗は少女を後ろに庇う。
正義感等ではなく、常識としてだった。
「あ"?ヤンのかてめぇ!?」
不良はキレて、右側から新斗に殴りかかる。
「うぜーな」
パシりと軽い音が、両者の耳の近くへ届く。
新斗は左手で不良の拳を掴むと、振り払った。
「なっナニモンだてめぇ!?」
不良はカッと目を見開いて、自分の拳を受け止めた新斗に驚愕し、忙しなくその場を去った。
(まぐれだけどな)
新斗はいままでの自分を振り返り、パッとしないどころか、ほとんど引きこもり、ズルズル同じような毎日をしてきたこと、喧嘩などしたことがないこと、などを思い出す。
偶々良いタイミングであったから、殴られなかったのだ。
ホッと息をついた。
「…あ」
彼女はじっと、新斗を見る。
「大丈夫か?」
少女は右目にモノクルを着けており。
右腕には分厚い本をかかえている。
(これは、探偵…じゃないよな)
「…君」
少女は新斗に、案外冷静な声色で話かけた。
「なんだよ?」
「助けられた。礼を言おう」
「ああ(礼、言ってないよな…)」
上から物を言うような話し方が少し気になる新斗だったが、そういう性格なんだろうと割りきった。
「まるで英雄のようだった」
少女がキラキラとした目で、新斗を見つめる。
(結構照れるな)
感謝され慣れないといった様子で、新斗は少女から視点を反らす。
「あんた学者か?」
「いいや、趣味だよ。私の名はディレスタントであるが、君の名はなんだね?」
ディレスタントはビシリと指を差した。
「仁井山新斗だ」
名乗る必要もないが、隠す必要もない。
聞かれたので、普通に教える。
「ニートか、どうりで」
ディレスタントは納得したといった様子で、ニヤニヤ、小馬鹿にしている。
「あんたここの住民だよな?ニートの意味なんか知ってんのか」
食事の良さ、言葉が通じても、ここの生活感は発展していない場所。
現代語を知っているということは、ディレスタントは新斗と同じく、連れてこられたのだろうか。そう新斗は考えた。
「意味?君達はこの世界に現れるモンスターを駆逐してくれるのだろう?」
「は?」
新斗は予想もしなかった言葉に、耳を疑う。
「モンスターなんかいるのか?」
「ああ、不定期に山あたりから降りてくる
それを君達、異世界からきた救世主が救うのだと聞いている」
「いやいや、俺たちみたいな人の役に立てない無職が、世界を救う救世主なんてありえねえよ」