出会い
3 出会い
時子と名乗る人物が指定した日曜日。
私は落ち着かない気持で目を覚ました。まず、これから私が会いに行く二人の人物と
本当に死ぬことになるのだろうかと考えると恐怖感も感じる。
しかし、私の人生に他の選択肢はないのだと自分に言い聞かせた。
時子の指定したN駅は、私の住んでいるK駅から30分程の場所にあった。
私は午後一時半にアパートを出た。
少し、小雨がぱらついている。電車に乗ると日曜日のためか、家族連れの姿が
目だった。雨模様なので、何処かの地下街か何かで半日買い物でもして楽しもうと
言うことなのだろう。どちらにしても、私には異次元の世界に思えた。
私がN駅に着いたのは、2時15分頃だ。私は約束の時間まで、駅前にあるブック
ストアで時間を潰すことにした。
しかし、私の頭の中はこれから会うであろう二人のことで一杯だった。
不安はあるが、死への列車はもう走り出している。今更、逃げ出す事は出来ない。
私は3時15分前にブックストアを出て、待ち合わせの場所に向かった。
いつの間にか、雨は止んでいて、曇り空に変わっている。
時子が指定した広場は、円を描くような形になっていて、真ん中に噴水がある。
デート待ちでもしているのか、若い男女の姿が何人か見える。
私は時子と名乗る人物が指定した服装を探した。確か黄色のセーターに黒のスカート、
緑色のマフラー、髪はショートカットとメールにはあったはずだ。
その時、新たな電車が到着したのだろう。大量の人の群れが駅からはきだされてきた。
私はその人の群れに目を凝らした。多くの人が右に左にそれぞれの目的に向かって、
散っていく。私は、その中から広場に近づいてくる一人の女性に注目した。
メールで指定した通りの服装をしている。私は緑色のジャンバーに眼鏡をかけている
事などを伝えてあった。
私とその女性の目があった。お互いに歩み寄る。
「真也さんですね」
とその女性は、私に話しかけた。真也というのは、私がメールで使っているペンネームだ。
私は、想像以上に彼女が普通の様子である事に安心していた。
少なくとも、20代のどこにでもいそうな女性に見えた。
「時子さんですね」
と私も話しかけた。彼女が頷く。おそらく、時子というのも本名ではないだろう。
しかし、私達はお互いに本名を知らなければいけない関係ではないのだ。
私とその女性は、これからもこの名前で行きましょうと確認しあった。
「もう一人、来るということでしたが」
私は気になっていることを、時子に尋ねた。
「ええ」
時子は曖昧に頷くと広場全体を見回した。彼女の視線が止まった。
「あの人だわ。きっと」
私は時子の指差した方角を見て驚いた。その人物は噴水を挟んで、ちょうど私達と
反対の側にいた。
私が驚いたのは、その人物がどう見ても70歳前後の老人にしか見えなかったことだ。
その老人はきちんとしたスーツを着ている。水玉模様のネクタイをしていた。
きっと、それが時子と打ち合わせた服装だったのだろう。