出発の朝へ
出発の朝へ
私たちは、仁さんの手紙を読み終えるとしばらく呆然としていた。
私は、仁さんに最初から死ぬ気がなかったとしても、毛頭、恨む気持はなかった。
私と時子にしても、今は、どうにかして生きていこうとする道を 選ぼうとしている。
仁さんは、私と時子の間に、何か心のつながりのようなものが生まれ初めていると
感じていたのだろうかとは、私はふと感じた。
「行こうか」
私は時子に行った。
「何処へ?」
「何処へでもだ。新しい人生を始められるところなら、何処でもいいさ」
二人は、顔を見合わせて笑った。 そして、駅への道を戻り始めた。
何処に行くにしても、ここが、二人にとっての始発駅になるのだろう。
「ところで、一つだけ、聞いておきたい事があるの」
歩きながら、時子が口を開いた。
「何?」
「あなたの本名は何ていうの?」
私は苦笑いをした。私たちは、出会ってから、本名を名乗りあえないような
関係を続けていたことが、今更のように不思議に感じられた。
「これからは、お互い、嘘のない人生を歩んで生きたいものだな」
と私は答えた。仁さんもきっと、そう望んでいてくれるはずだ。
時子も私の言葉に大きく頷いた。
やがて、二人の姿は駅の構内に吸い込まれていった。
十二月に入ったばかりの明るい日差しが、町全体を包み込んでいた。
出発の時に相応しい、さわやかな朝だった。
(終)
後書き(のようなもの)
もし、私の拙い小説を一通り読んでくれた人がいたら、感謝します。
これは、しばらく前、ネット心中が多発していた時に
(誰か止める人はいないのかよ)とか様々心に浮かんだ疑問を
小説にしたいと思って書いたものです。
少し自己紹介をすると、
私は元々、文章を書くのが好きで、どちらかというとエッセーのような物の方が
得意で、それなりの「場」(薄謝進呈というようなものですが)で
掲載されたりもしてます。
でも、心の中にずっと、小説を書きたいという気持があって、書いてみるのですが、
エッセーを書くのと全然違って、書いている内にストーリーが支離滅裂に
なったりして大変です。
今回、投稿したのは、その中でも何とか(終」という部分までたどり着いたものです。
ただ、書いたのはいいものの、何かの文学賞に応募するというレベルでもないし、
かと言って、誰か他の人に見て貰いたい気持もあるし、という事で、
自分の気持を持て余していました。
でも、今回、こういうホームページがあると知って、少しずつ、手直ししながらでも、
書いてみようと思ったのが、投稿した動機です。
まあ、評価は別として、アクセス数を見ると、少なくともそこそこの人が一瞬の間でも
見てくれているんだなあ、と思うと励みになりました。
これからも、小説については、明らかに力不足なのはわかっているので、
ショートショートや短編のような所からでも、勉強させてもらう気持で、
書いていけたらと考えています。
支離滅裂になって、途中で休筆のようになったらご免なさい。(笑)
それから、こういうホームページを運営してくれている人に感謝したいと思います。
これからも、よろしくお願いします。