新たな気持
新たな気持
私は、それから、仁さんや時子と出会う前の私と、この数週間の私とで何かが
変わったのだろうかと考え続けた。 私の心に新たな感情が芽生え始めている気がするのだが、それが何なのか
よくわからない。
ただ、私は心から時子に会いたいと思った。
そして、火曜日。いよいよ、明日が私達3人にとって、人生最後の日となる
はずの前日の朝を迎えた。
私は時子に会いたいというメールを送った。
私から彼女に呼びかけたのは初めてだった。出会ってから今までは、すべて、
時子の主導で話が進んできた。
でも、今、私は心から時子に会わなければならないと思った。
私の呼びかけに時子がどんな反応を示すのか不安だったが、しばらくして、
彼女からも、私に連絡を取りたいと考えていた所だという返信が届いた。 私たちは、午後4時に二人だけでN駅で、待ち合わせる約束をした。
私は午後になって、長年住み慣れたアパートを出た。
鍵を郵便受けに放り込んで、階段を下りていく。
アパートの前に出てから、もう、二度と帰ることのないであろう
部屋を見上げた。
空は、どんよりと曇っている。もうすぐ、師走だ。
私は、ただ一人、外に投げ出された気持になって、
始めて、時子と素直な気持で向かい合いたいと思った。
そう考えると胸の中にこみ上げてくるものがあった。 N駅へ向かう電車の中は、学生で賑わっていた。友人同士で話すのが楽しくて
仕方がないという様子の女子学生の歓声が聞こえる。
私が、待ち合わせの場所に着くと、時子は噴水の側にあるベンチに座っていた。
私の姿を見つけて、立ち上がる。