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B・R  作者: ルイ《wani》
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B・R 8

「世に明らかにするわけないだろう。

女王の暗躍あんやく部隊など…俺の存在も闇に近い。

だからヴァンパイアの件を任されていた」


ジョシュアはまるで他人事のように説明する。

部屋に散らばったガラスの破片を拾いながら。


「お前が女王より屋敷の警護を任される前に、俺はここに執事として入り、独自の調査をしていた。

だがブラッドレッド家の姉妹全員の警護を同時に行う事はできない。俺はそこの……三女のサイズで手一杯。

女王は報告を受けて、お前の方まで話がいったのだろうな。

…つっ…」


「ジョシュアっ!」


ジョシュアは素手でガラスを触っていたので、誤って指を切ってしまった。

私は持っているハンカチで指を縛る。


「私、救急箱持ってくるね!」


慌てて立ち上がったので、またドレスの裾を踏ん付けてしまう。

転びそうになるのを、ジョシュアが抱きとめてくれた。


「……ご、ごめんなさい!」


「気を付けろ…」


ため息を吐いて呆れている彼は、私が知っているいつものジョシュアだ。


「良かった。ジョシュアが悪い人じゃなくて」


安心して私は笑う。

扉を開け、階段を下りながら一人でまた笑った。


「…………………ジョシュア、お前さ」


「下らん質問は取り下げろ。ランスロット伯爵様。

全ては女王陛下の為だ」


「…ま、ライバルがいれば燃えるってもんだ」



――翌朝、バレット姉様の行方が分からなくなっていた。


「バレット姉様がいないって…まさかさらわれたの?!」


慌てる私に、ランスロット様は首を振る。


「窓の鍵が内側から開けられてる。

たぶん…自分から出ていったんだろう」


「自分から…って、どうして…」


さぁなと肩をすくめるランスロット様。

昔からとんでもない事をやらかしてきたバレット姉様だから、その理由は私にも想像がつかない。


「ランスロット、あれを見ろ」


窓の方を見ていたジョシュアが呼ぶ。

二人で駆け寄ると、屋根の方を指差した。


「あそこに血が付いている…奴らの血は陽に焼けると黒くなるがあれは赤い。

何かの事件に巻き込まれた可能性が高いようだ…」


今、何かの事件といえばヴァンパイアしかない。

私は思い切って、ランスロット様に進言した。


「あの…私も協力させてください!

何か力になれるかもしれません」


私の言葉に渋るランスロット様。

当然、危険が多い事は分かっている…でも家族の為にもじっとしてられなかった。


「でもな…」


私たちの前に立つジョシュア。

手には何故か灯りを持っていた。


「無論、同行してもらう。

彼女から目を離して置く方が逆に危ない。

…縛ってでも連れていく」


有無を言わさぬような口調に圧され、ランスロット様も納得してくれた。


その足で灯りを持ったジョシュアを先頭に地下室へ向かう。

扉を開けると、暗いはずの部屋に灯りがある。

一瞬緊張が走るが…


「――なんだ、チャールズかよ」


…牢に入っているヴァンパイアをチャールズ様が治療していた。


「おう!元気そうだな、ランスロット!

…それよりジョシュア、駄目だよ。

怪我人をこんなとこに監禁するなんて、傷にさわるだろ?」


どうやって解いたのか、包帯の上に巻かれていた鎖が足元にある。

医師免許も持っているチャールズ様は、よく屋敷に来る時に自前の救急箱を所持してくる。

今もチャールズ様の手元にあるのは、見慣れた救急箱だった。


「よし、話をしろ。…どうしてこちらに?」


ジョシュアが近寄ると、ヴァンパイアは警戒するように身を強ばらせた。そんな彼の頭を優しくでるチャールズ様。


「怪我をしているのが人間だろうと、ヴァンパイアだろうと俺にとっては同じだ。

それにこの際だから言うけど、オレはこいつの治療をアルクからお願いされてたんだよ」


「えっ、アルクが?」


つい声を上げてしまう私。

あの人間嫌いの妹が…見ず知らずのヴァンパイアを助けるなんて。

信じられないが、アルクは…ヴァンパイアの彼の名を泣きながら叫んでいた。

きっと心を動かす何かがあったのかもしれない。


「チャールズ、怪我って?」


「ん、羽のとこだよ。二ヶ所。

たぶん弾丸だな、貫通してるからむこともないし良かった。

一週間前は骨折もしてたけど、今診たらすっかり治ってる。

安静にしてたんだな、偉いぞ」


頭をまた撫でると、ヴァンパイアは初めて少し嬉しそうに目を上げた。


「治っているなら結構。

…話を聞かせてもらう」


凄むジョシュアの声はいつもより冷たい。

すっかりヴァンパイアの少年が怯えてしまっている。


「エミリオをそんな脅かすなって、ジョシュア。

ランスロット、お前からもなんか言ってやれよ」


チャールズ様はそう言うが、ランスロット様は肩をすくめるしかない。


「そうも言ってられなくてな。

昨晩からヴァンパイアが頻出ひんしゅつで、今朝には次女のバレットがいねぇ。

関連があるなら一刻も早くなんとかしねーと…」


「…俺達じゃないよ」


ぽそりと呟く声。

ヴァンパイアの少年だった。

チャールズの袖を掴みながら、怯えた様子で首を振る。

ジョシュアはじっと彼を見つめていた。


「どういう事だ?」


俯けていた瞳を上げ、ジョシュアと目を合わせる。


「ネフィリムが裏切ったんだ…」

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