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B・R  作者: ルイ《wani》
2/20

B・R 1

エミリオは目を覚ます。


暖かい布団の中だ。

天蓋の付いた豪華なベッド…白いレースが陽の光にきらきらと輝いて、まるで蜘蛛の糸のようだった。


「…起きたの?」


びくりと肩が震える。

一瞬身構えるが、よく声を聞けばまだ幼い…少女だ。

身体を起こそうとするが、背中に激痛が走る。


「無理よ、血塗れだったもの。

しばらく安静にしてなさいって」


気を失うような感覚。

視界にようやく声の主が顔を覗かせた。


「あたし…人間が大嫌いだから、最初はお前を窓から捨てようと思ってたんだけど」


エミリオは声を出せなかった。

痛みが全身を襲っていたからでもあるけれど、彼女の瞳が透き通るように綺麗だったから。


彼女は仏頂面のまま、彼を覗き込む。


「お前は人間じゃないみたいだから、ここにいれたの」


エミリオの黒いマントのほつれを手でいじる彼女。

白い寝具のままだけれど、汚れることは気にしないのだろうか、とエミリオは首を軽く傾げた。


「………言葉は分かるわよね?」


「あ、うん…分かるよ……」


慌てて返事をすると、彼女はため息をついた。


「じゃ、お礼くらい言ってくれる?」


睨み付ける姿勢はまるでエミリオを怖がっていない。

不思議に思いながら、彼は頭を軽く動かす。


「ありがとう……」


「別に。それじゃ、水もらってくるわね」


「あ、あの…!」


なに?といかにも面倒そうに振り返る。

一瞬その剣幕に物怖じするエミリオだが、恐る恐る口を開いた。


「な、名前……は?

あ、あの、俺は…え・エミリオ…」


「ふぅん。

…少なくともこの辺に住んでるわけじゃ無いみたいね」


彼女の言葉に首を傾げる。

名前を聞かれるのがそんなに嫌なのだろうか。


「このブラッドレッド家の習わしなの。


太古の昔に、ブラッドレッド家の四人の勇敢なる貴族が戦いに勝利して……。

それにあやかって、…それぞれ四つの武器の名前を子供につけることになってるの。


だからみんなあたしのことを……アルク(弓)って呼ぶわ」


彼女は自分の名前が嫌だった。

知らない人に名乗ること…他人と交わることを避けている。


気にしてこなかったが、少しずつ周りのことが分かるようになって。

いちいち説明するのが億劫で、名を呼ばれるのが嫌になった。

珍しい物を観るような目、好奇の入り混じった声。


いつもの嫌な瞬間。

味わってきた嫌な感覚。


……でも、彼は違った。


「そうなんだ…。それじゃあ…歴史のある名前なんだね……」


納得し、軽く笑う。

エミリオにとっては、名前はただの名前。

そこに深い歴史のある彼女の環境が、少し羨ましく感じたのだ。


それだけのことだが、彼女にとっては驚きで。

彼の言葉は、色褪せていた時間を変えた気がした。


そんなこと、言われたことなかった。


「………べ……別に…」


顔が紅くなる。


彼女は嬉しかった。

初めて、誉めてもらえたから。

…それも、心から。


「チャールズに、水と薬もらってくるから…黙って寝てなさい!」


「うん、ありがとう。アルク」


ばたん、と戸を閉める。




彼女の顔には笑みが浮かんでいた。


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