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B・R  作者: ルイ《wani》
19/20

B・R 18

彼女のことは嫌でも目に入ってきた。


ゆっくり歩けばいいのに、無理して走って裾を踏み、転ぶ。

転んで、ウェイターにぶつかり、テーブルクロスを引っ張ったりと一人で騒がしい。


ジョシュアは退屈しのぎに近寄る。

見ていられなかったし、放っておけない性格だった。


「ランスロットおにーさまぁー…」


女の子は泣きだしていた。

ため息を吐いて、彼女の手を引いてバルコニーへ連れ出す。


「…ふん、首輪でも付けて縛り付けておけばいいものを」


幼いながら彼はかなり冷静だ。

迷子になったら不安で泣いてしまう彼女は、年相応。

いつまでも泣き続けている女の子を蔑むように、吐き捨てた。


しかし、泣き止むまで彼が傍を離れることはなかった。

ずっと隣で、黙って座っている。肩が触れ合う、僅かな体温。

彼なりの不器用な優しさだった。


「サイズッ!ここにいたか!」


「ランスロットおにーさまっ!」


駆け出した彼女を抱き締めたのは知らない男の子。

ジョシュアと同じくらいの年だが、着ているものでかなりの上位貴族だと分かる。


「さがしたぞぉ、こいつめっ。

あ、ありがとうな!

こいつをみつけてくれたんだろ」


彼女の隣にいるジョシュアに気付き、男の子は笑う。

だがジョシュアの顔は変わらない。仏頂面のままだ。


「俺なら、こんな奴を放し飼いにはしない。

…手錠でもかけて監禁しておく」


下らない物を見るような瞳だ。

男の子に抱きついている彼女を射ぬくような視線。


「そんなことしたらかわいそーじゃん!

おれはぜってぇやらねーよ!」


ぎうと女の子を抱き締める。

ふんと鼻で笑い、ジョシュアは背を向けた。


「だったら彼女から目を離すなんてことするな。

……俺なら、しない」


そのまま歩き去ろうとした、彼の腕を掴む…女の子。

冷たい目を向けているのだが、彼女は彼に笑いかけた。


「そばにいてくれて、ありがとう!」


彼女にとっては当たり前のこと…優しくしてもらったらお礼を言う。

だが……


「…礼を言われる覚えなどない」


ジョシュアは辛うじてポーカーフェイスを保った。

そのまま腕を振りほどき、会場に戻る。

振り返らない……いや、振り返れなかった。


『……ありがとう!』


彼にとって、初めての言葉だったから。

心地よくて嬉しくて、笑いかけてもらえるなんて思ってなかった。


「ジョシュア、探しましたよ」


声に顔を上げる。女王だった。


「――さぁ、帰りましょう」


「はい」


灯りかけた小さな暖かさは、すぐに吹き消される。


――…この時は、まだ。

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