B・R 14
エミリオとアルクはもう少年少女とは言えなくなった。
二人はいつも手を繋いで、一緒に森へ駈けていく。
それでも三年しか経っていない。
あの赤い指輪も結局見つからないまま…どうせあいつが持っていったのだろうけど。
「アルクもすっかり外が好きになったわよね」
姉様は柔らかく笑う。
ルイスの事は誰にも言ってない。
エミリオがヴァンパイアだと知って、驚きはしたけれど受け入れられたのはルイスがいたから。
何も知らないはずだけれど、姉様は何もかも知っているみたいに…優しかった。
「バレットの事だから、私がなにか言っても、ずっとまだまだ待つのでしょう?」
あたしがルイスを待っていることも姉様にはお見通し。
三年経っても縁談を断り続けるあたしの事を、姉様に心配させたくない。
でも、気持ちは止まらなかった。
誰も好きになれなかった。
「…悪魔に恋しちゃったのよね」
呟いて、ため息。
姉様のいる部屋でぼうっとするのが最近の日課になってきている。
夕方以降はチャールズがいるので、姉様を独り占めできるのはアフタヌーンティーの時だけだ。
前はアフタヌーンティーなんて関係なく、よく遊び回っていたけど。
今はそんな気持ちになれない。
「そろそろ風が冷たくなってきたわね。
バレットとエミリオくん、大丈夫かしら」
「ん。じゃあ、あたしが声かけてくる。
たぶん湖の方だろうから」
せめて気持ちが切り変わればと、久々に敷地の奥にある森へ向かうことにした。
木々を抜け、風で揺れる髪を押さえながら進む。
傾きだした陽を見上げて、ため息。
「…相変わらずだな、お前は」
振り向く。
見間違いじゃなかった。
「ルイス」
赤い髪は変わらない。
少し雰囲気が変わった気がする。どこか強くなったように。
「…少し痩せたか。
なぁ、指出せよ」
ぶっきらぼうな口調。
でも穏やかな瞳に、赤い髪が揺れる。
あたしは幻でも見てる気分だった。
駆け寄る。…醒めてしまう夢みたいだったから。
「なに…」
「いーから、指」
ぐいとあたしの手を掴む。
その暖かい体温で現実だと感じる。
ルイスのポケットから出てきたのは、あの赤い指輪だった。
「…やっぱり持ってたんだね」
「本当は、戻れないと思ってな」
あたしの指にはめると、少し緩くなっていた。
「無いほうが、忘れないだろうと思ったんだ……」
照れ臭そうに目をそらす彼に、あたしは笑ってしまう。
そうするとますますルイスの顔は赤くなる。
「あー、クソッ…また出直す!」
「え、やだ…待って!」
思わずルイスの手を掴む。
また姿を消したら、次はいつ…?
あたしの不安な気持ちを察してか、少し真剣な顔をして頬に手を伸ばす。
――頬に軽く触れるだけの口づけ。
「次はちゃんと…さらいに来る。
その指輪は、その約束だから」
覚悟しとけよ、と笑うルイス。
その言葉に応えるように、あたしは赤い指輪に口づけた。
「…早くしなさいよ?」
羽ばたいて、出来たばかりの暗闇に消えていく。
指輪を眺めながら、あたしは軽く苦笑した。
「……これで二回目なんだから」




