B・R 12
「……いい加減出てこいよ」
バレットはルイスの肩に頭を預けて眠りに落ちている。
暗闇の廊下に問いかけると、微かに物音が返ってきた。
「存じてましたか」
ばさり、と外套の揺れる音。
闇から月下に姿を現したそれは、目元だけを黒い仮面で覆っている。
「同族の気配くらいわかる…。
それでロスト、テメー何してる」
赤い髪は幻想のように揺れる。
そこから覗く視線は刃物のように鋭い。
ロストと呼ばれたヴァンパイアは肩をすくめた。
「何って……兄の手伝いですよ。
面倒ですが、貴族をさらってこいとのお達しです」
「馬鹿野郎。人間に手ェ出すのは王によって禁止されている。
兄を諭すのも弟の役割だろ」
「貴方のように、人間と恋に落ちろと言えば良かったですかね」
面白い皮肉を言えたことに満足してか、仮面から覗く口元がにやりと歪む。
ロストは他の部下とは別格。ネフィリムの弟という立場もあり、今回の件に仕方なく付き合っていた。
「まぁ…兄がどうなろうと、ボクは興味ありません。
…コウモリの噂で聞きましたが、
あの『女王の犬』が動いてるそうじゃないですか。
兄と離れて単独行動してなきゃ、ボクも殺されて終わりですよ」
「……じゃあもともと今回の件は命令されただけだと…?」
ぎり、と拳を握るルイス。
バレットは静かに眠っている。
「こいつに傷を負わせておいて、興味がねぇとか言うんじゃねぇ。
…本当ならテメーをこの場でぶちのめしてぇんだ俺はっ…!」
「ああ、ボクを王の下で裁くつもりですか?
……構いませんよ、ここには飽きましたから。
……では参りましょう」
ばさり、と外套ではない羽ばたきが響く。
ルイスは寄りかかっているバレットを見つめる。
少し揺るめの三つ編み、
白い寝間着から覗く細い手首、
微かに揺れる鎖骨。
彼女の指に光る赤い指輪を優しく抜き取り、額に触れるだけのキスを落とした。
「……ルイ、ス」
寝言だった。
バレットの言葉に一瞬驚くが、ルイスは軽く笑う。
「…またな」
「バレット姉様!」
妹の声で目を覚ます。見慣れた天井。
妹のサイズが覗き込んでいる。
「無事で良かった…!
あっ、バレット姉様が気が付いたって、知らせてこなきゃ!
まだ動き回っちゃ駄目だからねっ!」
ばたばたと部屋を出ていくサイズ。
まだぼうっとする頭を右手で軽く抑える。
「……っ!」
彼女は気付く。
大切な指輪がないことに。
「…ルイス…っ」
そしてその指輪を持っていった彼が、姿を闇に戻したことに。
もしかしたら、
もう二度と会えないことに。




