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B・R  作者: ルイ《wani》
10/20

B・R 9

もう血は止まっているのに、ルイスの顔は暗いままだ。


黒い闇から人影が出てきて、あたしの腕に爪で斬り付けてきて。

倒れたあたしを抱えて、屋根伝いに移動していたところまでは覚えているけど、

今いるところはたぶん…どこかの図書館みたい。

古い本が沢山陳列され、整理されていた。


あたしとルイスは棚を背にして座っている。


起きて寝顔をじっと眺めていたら、ルイスが目を覚ました時に怒られた。


「……悪い、本当に…」


何度目かのため息のような謝罪。

辛そうに呟いたその言葉の裏に、どんな事情があるのだろう。


「ルイスは悪い奴なの?」


「…っ、違う!」


身を起こして、強く否定する。

二人でじっと目を合わせて、黙り込む。


「話してくれないの?」


「巻き込みたくないんだ…できれば、このまま…」


ルイスの頬を打った平手の音が、静かな部屋にこだました。

泣きたくなかったのに、あたしの目から涙が一滴零れる。


「このままって、何?」


目を見開いて驚くルイスの顔。


「このままあたしと別れて、

どっかに姿をくらませて…何もなかったみたいに、

逃げてしまえばいいって?」


開いた目を俯けるルイスの視線。


「あたしは嫌。このまま離れるのなんか、もう嫌……!」


言い終わる前に、彼の暖かい腕がきつくあたしを抱き締めた。


「そんなん…俺だってイヤだ…!」


音の無い部屋に、二人の鼓動が響いている気がした。


「……俺たちは、ヴァンパイアなんだ」


ルイスはそのまま話しだす。


「昔は人間を襲っていたが、今は共存しようという動きになってきている。

王が俺と俺の弟分を人間の世界に派遣して、様子を探ってこいと命令した」


弟分の名前は『エミリオ』ってんだ、と小さく付け加える。


「でも共存しようという流れに逆らう奴らがいて…その中心人物が『ネフィリム』っていう、いけすかない奴でな」


「ネフィリム?」


「ああ、さっき会ったのはそいつの手足として動く『ロスト』っていう不気味な奴だよ。


…本来、王の許可がなければ人間の世界には行けない。

そこでネフィリムは、共存派に寝返ったフリをして、反共存派の仲間の何人かを殺した。


そうして王に忠誠を示し、人間の世界に降り立ったんだ」


もちろん…血を求める為の茶番劇だけれど、自分の私欲で仲間を犠牲にするなんて。

あたしは絶句してしまう。


「血は貴族が一番、って言われてるからな…。

だからあいつらはお前たちを狙ってる」


お前たち…つまりブラッドレッド家全体を。

あたし一人の問題だと思っていたのに、家族まで狙われていたなんて。


「みんな大丈夫かな…」


不安がるあたしの頭を軽く叩く。

ルイスは普段より少し優しく笑った。


「安心しろよ。手は出させねぇつもりだ。

…少なくともお前はな」


ポーカーフェイスを装っているが、ルイスの耳が少し赤い。

あたしは笑いそうになるのを堪えて、軽く頷いた。


「…ありがと」


頬をさす陽が赤い。

光はステンドグラス越しに見えた。


「もう夕方になるのね」


ステンドグラスの色も赤い。


「ああ、たぶんここにも匂いを嗅ぎつけてまた来るだろ。

―――バレッド、」


初めて名前を呼ばれた。

一瞬反応が遅れるが、さっとあたしの手を握る。


「…傍に居ろ、守れなくなる」


「………うん」


二人で手を繋ぎ、傾いていく陽を眺めた。

日が沈めば辺りは…漆黒の闇だ。

怖くて足がすくむけれど、つないでいるこの温もりが、あたしの道しるべ。


二人なら立ち向かえる。

そう思った。

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