86.出発
「行ってきます。」
「…気を付けてな。」
心配そうにクルビスさんが声をかけてくれる。
昨日、私が出かけることを聞いてからずっとこの調子らしい。
渋るクルビスさんをフェラリーデさんが説得してくれたそうだ。
その代わりというか、護衛にシード副隊長がつくことになったみたいだけど。いいのかなあ。
それで、さっきの会話に戻ると。
ちゃんと変装だってしてるのに。頭に布を巻いてるだけだけど。
夕食の時に、アニスさんと買い物に行く服装を話してたら、流行の服装の話になった。
それで、頭に布を巻きつけて花を挿してる女性がいたのを思い出して、髪飾りについて聞いてみたんだよね。
そしたら、最近の流行の組み合わせらしく、髪を隠せてちょうどいいだろうという話になって、今、私の頭は黒い布で覆われている。
変わんないだろうって?いやいやいや。
黒は良い色だし、花飾りが映えるものだから、布を巻くのが流行ってから、黒い布を巻いている女性はわんさかいるらしい。
溶け込むのにこれほど都合がいいこともないだろう。なんて簡単な変装。
頭に巻きつける布は結構大きくて、バスタオルより二回り大きいくらいだった。
薄い布だったから、被って端をねじって止めても綺麗にまとまったけど。
巻いていて思ったのが、アフリカのカンガの巻き方に似てるなあってこと。
イベントでカンガを実際に巻かせてくれるショップさんがあって、そこで巻き方を教えてもらったんだよね。
簡単に頭に巻けるし、大きい布だからワンピ―スや巻きスカートにも出来た。
便利で綺麗なカンガの布を気に入って、何枚か買って部屋着で楽しんでいたのはいい思い出だ。
「はいはい。俺が一緒で絡んでくるバカはいねえって。そろそろ出ねえと、日が暮れちまうぞ?
そんじゃ、行こうかアニス、ハルカ。隊長さんはここまでな。」
同じようなやりとりをしている私たちを見かねて、シードさんが間に入ってくれる。
良かった。あのままだと行きにくかったから。
すねてるクルビスさんを可愛いと思うのは私だけだろうけど、私と離れたくなくてすねるなんて可愛い以外に言いようがない。
あんな顔されたら私だって離れがたいよ。