83.試着は楽チン
「綺麗な生地ですね~。」
ウキウキしながら服を広げる。
アニスさんが用意してくれたのは3着。深い青と新芽の黄緑、そして山吹色の3色だ。
「急ぎましたので、お好みがわからなくてトールもテラも無地を用意しました。もう少しすればご自由に買い物が出来ますから、それまでの分になります。」
だから3着なのか。気遣いが嬉しい。
自分の服は自分で揃えたいしね。
どれもワンピースだけど、ドレープが入ってたり、襟も丸いのからスクエアまであってそれぞれに個性があった。
これがトールらしい。メモメモ。
前にフェラリーデさんにも説明してもらったけど、すっかり忘れてた。
帯はテラと呼ばれて、男性用女性用ともに兵児帯みたいな柔らかい布だそうだ。
生地は無地だけど、しっかりした生地だし、鮮やかな色合いで日本人の黄みがかった肌によく合いそうだし、見てるだけでテンションが上がる。
オシャレが楽しめるのは嬉しいよね。
青い服を上から簡単にかぶってみて、テラを選ぶ。
お花のように結ぶのは下手だけど、テラは柔らかくて巻きつけやすい。
色は服に合わせて、白、レモンイエロー、オレンジだった。
鮮やかだけど、服よりはちょっと抑えめの色合いのように見える。
白の帯でくるくると巻いてみると、丁度良い感じだった。
胸元にドレープが出来て品が良い。パーティー用のドレスがこんな感じだった。
この服は脇のすぐ下で前後の布を紐で止められるようになっていた。
たぶん、綺麗なドレープを作るためだろうな。そこ意外はまた縫われていない状態だった。
でも、不便は感じない。
適当に調節して着れることを見せると、アニスさんもサイズがあっていてホッとしたようだ。
「大丈夫なようですね。よかった。流行の形なんですけど、これは肩幅が合わないと綺麗に着れないんです。」
ああ。ドレープが上手く出来ないでしょうね。
こっちの服は、基本的にノースリーブで脇の下は縫わないから、肩で繋がってる状態だ。
だから、肩幅が合うかどうかが服のサイズを選ぶときの決め手らしい。
前後の布を合わせてテラで止めるから、バストやウエストのサイズは結構幅広く対応するからか、服を買う時にはそんなに重要視されないのだとか。
アニスさんからいろいろ教えてもらいつつ、次々に着ていく。
服の上からだけど、前後の布を合わせて調整できる分は気にしなくて良いから、肩幅だけを見ていく。
うん。どれもいける。大まかにサイズが合ってればいいって助かる。
日本人にしては高い身長と肩幅だから、試着にはいつも苦労させられた。
服を買うのは目的を決めて1日がかりだったっけ。
それに比べて…。楽だなあ。こっちの服って。
「…ハルカさん。あの、これは?」
すぐに終わった試着に感動してたら、アニスさんに声をかけられた。
手の上には身分証のカード。帯…テラに挟んでたの忘れてた。
「あ。それは今朝ルシェリードさんにもらったんです。私の身元を示すものだそうで…。」
「もうですか!?こんなに早く…。」
私が言い終わらないうちにアニスさんが目を見開いて驚いている。
そういえば、普通は1ヶ月くらいかかるんだっけ。そりゃ驚くよね。